その1 ここから、はじまる

 公開中の作品『弥栄いやさか!』藤原五兄弟の父・

将之まさゆきと、母・うしおのはじまりの物語です。


【登場人物】

みさき  うしお(26歳)……劇場(運営会社)の

           営業部員。

藤原ふじわら将之まさゆき(23歳)……劇場の取引先営業部

           員。

葦原あしはらおう(36歳)……潮の直属の上司。物

           静かで落ち着いた、

           大人の男性。


 この作品は、化粧品メーカーのコンテスト

参加作品として、過去に制作したものです。

(コンテスト参加日:2020年6月10日)


──────────────────────

① 劇場・外観

   ──やや仰角で。

   劇場と商業の複合施設。オフィス街の

   喧騒。


② 同・接客スペース(中)

   パーテーションで囲まれた接客スペー

   スに、テーブルを挟んでうしおと将之。商

   談中。潮、女性らしいスーツ姿。将之、

   ネクタイを締めたスーツ姿。

   ──将之の視点で。

   書類を見乍ら話している潮。

    ×    ×    ×

   じっと(潮を)見つめている将之。熱

   い眼差し。

   扉の前に潮。ノブに手をかけて、

うしお 「(将之に笑顔で)いつもありがとうご

 ざいます」

将之「(落ち着いて)みさきさん」

潮 「はい?」

将之「(落ち着いて)私と──お付き合いし

 ていただけませんか?」

   扉の前に潮。真面目な顔。

潮 「(真剣に)私、お取り引き先の方とは、

 個人的なお付き合いはいたしません」

   瞠っている将之。


③ 同・接客スペース(外)

潮のM「ところが!」

   潮(手)、バンッと接客スペースの中

   から勢いよく扉を開ける。

   扉に立ち、目をきつく閉じて歯噛みし

   ている潮。その扉の前、盗み聞きをし

   ていた男女の営業部員(五~六人)。

   慌てふためいている。

潮のM「コレ! 盗み聞きされて、一気に広

 まり!」


④ 同・営業部(中)

   座っている葦原あしはら、書類を差し出し乍ら、

──────────────────────

葦原あしはら「(さらっと冷静に)うちは社内恋愛も

 社外恋愛も、禁止してはいないが」

   葦原の傍に潮。前で手を合わせて、き

   つく目を閉じ、歯噛みして立っている。

潮のM「じゃなくて! じゃなくてね!」


⑤ 同・外観

   シーン①同様。


⑥ 同・接客スペース(外)

   はっと息を飲む潮。

   潮(後ろ姿)の視線の先、立っている

   将之。

   互いに礼をする二人。

   潮、接客スペースのノブを取り──


⑦ 同・接客スペース(中)

   ゆっくり扉を開けていく潮。その後ろ

   に将之。

   テーブルを挟んで、商談中の二人。

潮のM「これは言いたくない」

   机上を見乍ら話しをしている潮。

   机上から視線を上げる将之。熱い眼差

   し。

   ──将之の視点で。

   机上を見乍ら話している潮。将之と視

   線を合わさない。

    ×    ×    ×

潮のM「言いたくなかったんだけど……」

   と、書類をゆっくりと机上に置く。

   俯いている潮。暗い顔。

潮 「あの……先日のお話しですが……」

   そのままP.Dしていって潮の手。膝の

   上で重ねている。潮、両手にぎゅっと

   力を込めて、

潮の声「私……男の人とお付き合いした事が

 ありません」

潮の声「だから……」

   と、同時に、差し出される将之の左手。

将之の声「なら」

──────────────────────

   テーブルを挟んで、優しい笑みの将之。

   身を乗り出し、左手を差し出したまま、

将之「試してみませんか。私と」

   ──将之の視点で。

   潮の前に差し出されている左手(将之)。

将之の声「恋愛の可能性を」

   差し出された左手をじっとみている潮。

潮のM「(呟いて)私が──男の人と付き合

 う──」

   潮、我に返って、

潮のM「(強く)そういや、お付き合いって

 !?」


⑧ マンション・潮の部屋(夜)

   真っ暗なクローゼットの中。勢いよく

   開く扉。その先に潮。シーン⑤の通勤

   服のまま。

潮のM「服が無い!」

   玄関。靴箱を開けて、中を見ている潮。

潮のM「靴が無い!」

   鏡の前。潮、通勤鞄を手に取って、

潮のM「鞄、コレしか持ってない!」

   はっと前を見ている潮。

   鏡に映っている潮。真剣な顔。じっと

   自分を見つめている。

   潮、四つ這いで鏡に迫る。

   前髪をかき上げている潮。その額にニ

   キビ。

   鏡の中の潮。髪をかき上げたまま、驚

   愕の顔。

   鏡の前に潮(後ろ姿)。ぐっと鏡に向

   かって、

潮 「(わなわなと)この歳で」


⑨ 同・外観

   ──やや仰角で。

   各戸に温かい灯りが点いている高層マ

   ンション。夜空に月。

潮の声「(うわって)ニキビってーェッ!?」

──────────────────────

⑩ 劇場・外観

   シーン①同様。


⑪ 同・営業部

   デスクの潮。その後方、潮を見ている

   後輩A(男)。


⑫ 商業施設とオフィスを交互に

   歩いている潮(足元)。歩調を緩めて

   止まる。と、P.U。見上げている潮

   (このシーン、全て女性らしいスーツ

   姿。但し、カット毎に違う服)。

   ショーウィンドーの中。外からマネキ

   ンが着ている服を見上げている潮。

    ×    ×    ×

   デスクの潮。パソコンに向かっている。

    ×    ×    ×

   洋服を選んでいる潮。

    ×    ×    ×

   デスクの潮。その隣に後輩A。二人、

   着席。後輩A、潮の話を聞いている。

   ふと見る後輩A。

   書類を見乍ら話している潮。

    ×    ×    ×

   試着室の中。鏡の中、洋服を試着して

   いる潮。壁、ハンガーに二着かかって

   いる。

    ×    ×    ×

   会議室。ちらと視線を上げる後輩A。

   ホワイトボードの前に潮。発言中。

    ×    ×    ×

   試着室の前。鏡の前に潮、くるっと後

   ろを向いて、鏡の自分を見ている。

    ×    ×    ×

   オフィスの廊下。「お疲れ様」と声を

   かける潮とすれ違う後輩A。

   歩いて来る潮、Fr.OUTする。と、後

   ろ姿の後輩A。ちらと振り返る。

    ×    ×    ×

   沢山の鞄が並んでいる棚。その奥から、

──────────────────────

   鞄を手に取る潮。難しい顔で品定め。

    ×    ×    ×

   劇場の前。着ぐるみと並んでいる潮。

   手に沢山の風船。大勢の子供達に囲ま

   れて、笑顔で風船を渡している。

   着ぐるみの中に後輩A。

   後輩A、笑顔で風船を渡している潮を

   見ている。

   眩しい笑顔の潮。

    ×    ×    ×

   鏡の前で靴を試着している潮。くるっ

   と後ろを向いて、鏡の自分を見ている。


⑬ マンション・外観(夕)

   シーン⑨同様。但し、夕暮れ。


⑭ 同・潮の部屋(夕)

潮 「疲れたーッ!」

   と、どたっと倒れる潮。両脇に服、鞄、

   靴が入ったショップの紙袋。

   潮、仰向けになって、

潮 「男の人と付き合うって、準備だけで、

 すっごい疲れるーッ! なんなのよーッ! 

 もーッ!」

   潮の鞄。聞こえて来る着信音。

   潮の手にスマートホン。画面、将之か

   らのメール。

   「土曜日、お会いするのを楽しみにし

   ています」

   腹ばいのまま、スマートホンを見てい

   る潮。

   潮(口元)、口元が緩む。


⑮ 同・浴室(夜)

   聞こえている潮の鼻歌。浴室をPUNし

   て鏡の前に潮。機嫌良くフェイスケア

   をしている。


⑯ 同・外観(夜)

   シーン⑨同様。聞こえている潮の鼻歌。

──────────────────────

⑰ 劇場・外観

   シーン①同様。


⑱ 同・営業部(夕)

   壁面に時計。時針「四時五十分」。

   書類を確認している潮。手を止めて、

   見上げる。と、

潮 「(後輩Aに)ありがとう。これでいい

 わ」

   潮の傍に後輩A。ぽーっと潮を見てい

   る。潮、気づいて、

潮 「? 何?」

後輩A「……みさきさん……綺麗になったなって」

潮 「はあッ!?」

   後輩B(男)、勢いよく手を挙げて、

後輩B「あ、俺も思ってましたーッ!」

   葦原、潮を覗き込んで、

葦原「(冷静に)どら?」

潮 「え、ちょっと!」


⑲ 同・廊下(夕)

   営業部から出て来る潮。きつく目を閉

   じて、

潮 「そんな事言っても、手伝いませんから

 ね! お先に失礼します!」

   見えている営業部内に後輩Aと葦原。

後輩A「(潮に)えッ!? そんなつもりじゃ」

   「お疲れ様」「お疲れー」と笑い声。


⑳ 同・エレベーターホール(夕)

   チン、と開くエレベーター。降りて来

   るサラリーマン達。その最後に潮。き

   つく目を閉じて、むっとしている。


㉑ 同・商業エリア(夕)

   歩いている潮。はたと立ち止まる。

   ショーウィンドーに並んでいるマネキ

   ン。スタッフが新しい服に着せ替えて

   いる。そのガラスに映っている潮。自

   分を見つめている。

──────────────────────

   ショーウィンドーの前に潮。前髪を少

   し上げて、ガラスに映っている自分を

   品定めする様に見ている。そのままP.U

   して夕暮れ空→夜空。すっと一筋の流

   れ星。


㉒ 天保山・マーケットプレース前広場(朝)

   ㉑の夜空から朝。極上の天気。

   コンパクトミラーに映っている潮。お

   でこ、頬、鼻等、品定めする様にチェ

   ックしている。無くなっているニキビ。

   パチンとコンパクトミラーを閉じる。

   と、その少し離れたベンチに私服の将

   之。文庫本を読んでいる。

   マーケットプレース前広場をPUNし乍

   ら、潮(横顔)。

後輩A「(OFF)岬さん、綺麗になったなっ

 て」

   潮、ゆっくり顎を上げて、ぐっと顎を

   引く。と、

潮 「(小さく気合いを入れて)よし」

   そのまま潮をP.D。女性らしい可愛い

   ワンピースに鞄、靴。同時に潮、深呼

   吸。一息ついたのち、ゆっくりと一歩

   を踏み出す。

   気づく将之。(潮を)見る。少し嬉し

   そうな顔。

   ──俯瞰になり乍ら。

   立ち上がって、潮に歩み寄って行く将

   之。歩いて来る潮。小走りに駆け出し

   て──

    ×    ×    ×

   透過光の中。

   差し出されている将之の左手に、伸び

   て来る潮の右手。二人の手が近づき乍

   ら、透過光最大──。

   T『キレイの第一歩──それは、あな

    たの勇気から』



  番外編その1『ここから、はじまる』終

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る