第6話 命の選択なんてもう決まってる・・・
余命宣告・・3ヶ月・・私は・・死ぬ・・
「どうなさいますか」
何が?
「これから万全を期して手術をしても成功する可能性は五パーセント以下。手術が失敗しすぐに死んでしまうと言うことはないと思いますが成功しても失敗しても後遺症が残ってしまいます」
ああなるほど。この人は生きるか死ぬかの選択を聞いているんだ。
手術ということは勿論お金もかかるだろう。
それに後遺症が残る。
これはある意味一つの選択肢しかないのでは?
私は・・私は・・
決めているのに・・分かっているのに・・言葉がでない
口が動かせない、まるで金縛りにあったみたいに。
「久保さん!それは何でも!」
後ろに控えている先生からもらった資料を机におき母さんが立った。
先生をつけていない。
恐らく面識があるのだろう。
「母さんいいよ」
私の答えは決まっている。
「でも「いいから!!」
母さんに対してこんな大声を上げたのは初めてだ。
冷静さを欠いて声を張り上げたことが恥ずかしく、また溢れそうな涙をみせたくなくて顔をあげることが出来ない。
「・・すこし時間をください。母さんとこれからを話したいです」
「・・できる限り早くお願いします」
「はい」
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楠さんが帰った会議室は静粛に包まれている。
「先生。これでよかったんですか?」
看護師の広瀬さん。
この十年間私の右腕として一緒に居てくれている。
「ええ。少し残酷でしょうがあのぐらいの子には隠していた方がもっと悪い影響を及ぼしたでしょう」
余命宣告というものはすぐに受け入れることはできない。
絶望し心が壊れてしまう人もいた。
「・・彼女は・・楠さんに似てるから確実に・・」
分かっている。彼女がどう選択するかぐらい。
「そうですね。ですが覚悟を決めるには時間が必要です」
心が壊れないためにはゆっくり受け入れるための時間が必要。
「彼女に時間が足りないのもまた事実」
残り3ヶ月・・・覚悟できるかどうかは彼女次第
「そろそろ仕事に戻りましょうか。広瀬さん」
「分かりました」
医者が一人の患者に取れる時間は少ない。
今まさに命が危険にさらされている人もいる。
だから私たちは進まなければいけない。
一人の患者に感情移入しすぎると救える命も救えなくなる。
医者という職業を始めて十数年。
命の選択を何人にも迫っている。
慣れてはいけないがその緊張感に慣れることは一生ない。
せめて彼女が残りの時間悔いなく過ごせるように手を尽くすのが私がしてあげれる唯一のことだろう・・・
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