第5話5
「顔貸せ…」と恒輝は言ったものの、明人を後ろに廊下に出ても、歩いても、良くも悪くも目立つ二人に周囲の生徒の視線が集まる。
(あ〜!イライラする!)
恒輝は、早く人目の無い所へ行きたくて
、思わず明人の右手を掴んで強く握り強引に引っ張り早足で歩く。
「にっ…西島君?!」
顔を真っ赤にして声が上ずる明人などお構い無しにぐいぐい引っ張る。
だが明人の方も、恒輝の手を強く握り返し、恒輝は思わずビクっとした。
やがて、人気の無い廊下へ来た。
しかし、男性中年教師二人が話しながらこちらへ来る声が角の向こうからして、恒輝は慌ててつい勢いで横の用具部屋を開けて明人を押し込み、自分も中に入った。
そこは、誰も盗まないような物が無造作に放り込まれていて、普段から鍵もかけないただでさえ小さな部屋だった。
だが、今日はたまたまいつもより中の備品やダンボールなどがかなり多くなっていて、更に狭くて二人の距離が、恒輝が思わず動揺する程近くなる。
恒輝は、予想外な事に後悔したが…
「しー」
恒輝が人差し指を唇に当てて、教師達が過ぎ去るのを待つ。
その間恒輝は、こんなに距離が近いが、
自分はフェロモンは出ないし、明人も抑制剤を飲んでいるようなので、お互い発情する事も無いと踏む。
そして、ここで話しをする事を決め、外の気配が無くなると小声で話し始めた。
「お前、どう言う事だ?まさか、たまたま、道端で会った男と同じ学校の同じクラスになりましたって…少女マンガみてぇな事言わないよな?」
「ごめん…ビックリしたよね…そう、君の言う通り、これはたまたまじゃないよ
…君と初めて会ったその日に君の事調べて、ちょっと日にちはいったけどこの学校に入学してきた…」
「ふざけんな!」
「ふざけてなんかないよ。今度又会えたら、友達からならなってくれるって言ってたよね。だから、まず友達になりたかったからこうしてここへ来た」
「俺がオメガのフェロモンが分からないって、俺、前にお前に言ったよな」
「ああ…それは、聞いたよ」
「だったら、今からでも遅くない。俺とお前じゃ何もかも違い過ぎる。俺みたいなの構ってないで、さっさと他の上級アルファ探せよ…それに…」
恒輝は、今自分が思わず続けて言いかけた事にハっとして、黙り込んだ。
「それに…何?」
「そ、そっ、それに…その…お前みたいな、イケメンなら…向こうからいくらでも寄って来て、アルファだろうが何だろうが選び放題だろうが?」
それを聞き、明人がクスッと笑った。
「てめぇ、何笑ってんだ!」
「ごめん。でも、俺の事、イケメンだと思ってくれてるんだ?」
「そっ、それは…」
恒輝は、増々焦る。
それを見て明人は、ほんの少し黙ると、
少し微笑み言った。
「そうだな…確かに、向こうからいくらでも寄ってくるよ」
(あのなぁ…少し位謙遜しろよ!)
自分で話しを振っておきながら恒輝は、そう思いながら呆れたように上目遣いで明人を見た。
「幾らでも向こうから寄って来るから、友達には不自由した事なんて一度も無かったけど、俺には君が初めてだったんだよ…自分から友達になりたいって思ったのが…」
明人は、そう言うと、じっと恒輝を見詰めた。
この時点で…
普通の人間が言えば嫌味で自信過剰な事も、明人なら何を言っても許される特別な存在、やはりオメガなのだと…
しかも、その中でも更に別格なオメガだと…
恒輝はそこは認めざるを得なくなった。
だが、いつもならオメガに敵意さえ湧く恒輝が、明人に対してだけはそれが無い
。
それが何故なのか判断出来ない恒輝は、すぐフイっと視線を逸した。
しかし…
「そこまで言うなら俺も約束したし、ダチになってやる。けど、てめぇも男なら
、俺みたいなの選んだ事絶対後悔すんなよ…俺は、最初にお前に忠告はしたからな!」
再び恒輝は、明人の目を強くじっと見て
強く念を押した。
明人は、目を見開くと次に暫く恒輝と見詰め合ったが、やがて嬉しそうに微笑んで頷き言った。
「ああ!後悔はしない!」
しかし、次に明人は、女神の如き笑みを浮かべ続けたまま声だけを低くし、懇願するように真剣に言った。
「でも、西島君。俺みたいな…とか、そう言う風に自分の事を言っちゃ…ダメだよ…君には良い所があるんだから」
「てめぇっ…!」
突然そんな事を言われて、恒輝は顔を秒で赤くしながら明人を睨んだ。
「おらっ!もう行くぞ!」
そうぶっきら棒に言い、恒輝はくるっと明人に背を向けた。
明人は、又、クスっと柔らかく微笑んだ
。
そして、さっき恒輝に握られた手の平を
、ギュッと握った。
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