輝きの間

門前払 勝無

第1話

 アーサーは命を削りながら全ての生命の為に戦い続けた。森は豊かになり争いは無くなっていた。アーサーは森に来る脅威を警戒するために常に山の頂上に立っている。雨の日も風の日も雪の日も…。豊かな森の資源を求めた蛮人達が入り込んで来るのを見ると一目散に駆け付けて光の剣を振りかざして撃退する。自分の体が傷付いても、森の住人達の安否を確認していた。


 モルガンは池の畔でアーサーを見守っている。

 腐敗臭のする世界から救ってくれたあの日から数年が経っていた。

 二人はこの静かな霧の漂う湖の畔で暮らしていたが、動物達の相談にのっているうちに森が様々な脅威と危険に晒されているのが解ってきた。

 アーサーは剣を持ち湖を後にした。モルガンは止めなかった。アーサーの見ている視線の向こう側がモルガンにも見えていたから…。

 モルガンは遊びに来るリスや鹿や穴熊と日々を平穏に過ごしている。アーサーが作ったピザ窯でピザを焼いたり、木の実のお菓子を作ったり、森で小枝を拾ったり…。アーサーが造り上げた平穏の中で穏やかに生活をしている。


 アーサーは不穏な雲を見つけた。黒く不気味な雲は渦を巻きながら森に近づいて来ていた。鉄屑や生ゴミや悲しみや憎しみを巻き込みながら近づいてきている。

 アーサーは思った。

 自分の命と引き換えにしてでも停めなくてはと…。


 池の畔ではモルガンが洗濯物を取り込んでいた。

 アーサーはモルガンに近づいて、左手でモルガンの右手を取り…モルガンを抱き締めた。

 その日は二人で食事をした。アーサーはモルガンを見つめながら微笑んでいた。クローバーの咲く庭で昼寝をした。

 モルガンはこの日が来るのを知っていた。アーサーがもうすでに自分の命を使い果たしていて剣によって生かされている。アーサーが死を覚悟していることも…。

 モルガンは自分の金色の髪の毛で作った布をアーサーの肩に掛けた。


 森を出て枯れた麦畑を進んだ。石の雨は金色の髪の毛で作った布に弾かれて、アーサーは守られていた。

 アーサーは巨大な黒い渦の前に立ちはだかり、剣に力を込めて飛び込んで行った。

 アーサーと黒い渦の戦いは三日間続いた。徐々に渦は小さくなり、傷だらけのアーサーの前に小さな老人が倒れていた。アーサーは蚊の息の老人に近づいて、老人の愚かな人生を悲しんだ。


 気力を振り絞りながら池の畔まで辿り着いて、モルガンの前で倒れ混んだ。

 モルガンはアーサーを抱き抱えた。強く強く抱き締めた。

 星空の下でアーサーは剣をモルガンに渡して息を引き取った。

 モルガンは、安らかに眠るアーサーをクローバーの庭に寝かせて、剣を手にして池の中へと入っていった。

 月の揺れる水面の中へと消えていった。


おわり

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