第33話033「トーヤの能力」



「私は⋯⋯お前の特殊能力スキルの正体を知っている」

「なにっ?!」


 突然、ガルデニア神聖国第二王女アリス・グレイス・ガルデニアのその言葉に俺は動揺した。


「な、何をいってるん⋯⋯」

「とぼけるな。そして、お前はその特殊能力スキルを使って能力の上昇ができた。そうだろ?」

「っ!?」

「お前の能力名は⋯⋯」


 マジか。


 こいつ、マジでわかってやがるのか⋯⋯。


自己改変セルフ・プロデュース⋯⋯」

「っ!!」

「能力内容は『自身のステータスを書き換えられる』。そうだな?」

「⋯⋯」


 あってやがる。


 間違いない。


 こいつは俺の特殊能力スキルを確かにわかっている。


「なぜだ⋯⋯なぜ⋯⋯」

「これが私のユニークレアスキル『聖眼ホーリーアイ』の力だからだ。私は『相手のステータスや特殊能力スキル』を読み取ることができる」

特殊能力スキルを読み取る⋯⋯」


 なるほど。


 特殊能力スキルの中でそんな能力もあるとはな。


 しかし、それにしても⋯⋯、


「なぜ、私が自分の能力の話⋯⋯手の内を晒したのかを気にしているのか?」

「⋯⋯ああ」

「ふむ。それはお前に私のことを信用してほしいということだ」

「信用?」

「ああ。普通に考えれば王族が平民にこうまで干渉することなどあり得ないと思っているだろ?」

「ああ」

「そうなると、お前は私がお前に対する興味が何なのかを知りたくなる⋯⋯」

「そうだな」

「その場合、下手に王族だからといって無理矢理お前を従わせようとすればお前は当然拒否する⋯⋯」

「まあな」

「それが私には一番困ることだし、何よりもお前に私の手助けをして欲しいというのが一番大事な部分だ。なので、その為には私が先にお前にすべてを晒け出して信用を得ることが大事だと思ったのだ」

「⋯⋯」


 アリスが真剣な眼差しでトーヤに告げる。


 俺はこれまで見た貴族の態度や周囲の態度で王女も『しょせん王族だから上から目線だろう』と思っていたがアリスは違っていた。それは、こいつの真剣な瞳を見ても明らかだった。


「つまり⋯⋯アリスは俺に信用してもらいたいから自分の情報を晒したと?」

「そうだ」

「どうして、そこまで⋯⋯」

「いやいや、普通に考えてもお前のその特殊能力スキルが理由だよ。能力の内容が『自身のステータスを書き換えられる』って、そんな特殊能力スキルはもはや『神の所業』だ」

「⋯⋯」


 まーたしかに。


「ちなみに、私のこの特殊能力スキルは『ユニークレアスキル』という世界に数種類しかない特殊なスキルの一つなのだが、お前のその自己改変セルフ・プロデュースという特殊能力スキルは聞いたことがない」

「ユニーク⋯⋯レアスキル⋯⋯」

「つまり、そういった理由で私はお前を勧誘している」

「アリスの言っていることはわかった。じゃあ、俺に何をさせようとしているんだ?」

「ふむ。それはな⋯⋯『父である現国王の命を狙っている兄上やその一味の企みを一緒に阻止して欲しい』だ」

「へ? あ、兄?」

「そうだ」


 アリスの話だと、父親である現国王の政策である『平民の身分向上』を阻止しようと動いている兄上が、国王の命を狙っているという話だった。


「じ、実の兄が父親を殺そうとしているって言っているのか?」

「ああ、そうだ」

「⋯⋯」


 アリスは俺の質問に即答した。


 この話って、要するに『国家叛逆』の話だよな?


 いわゆる『超超超超トップシークレット案件』やん。


「い、いやいや、無理無理⋯⋯無理だよ、そんなのっ?!」

「なぜ?」

「な、なぜも何も、一介の平民でしかも一学生がそんな陰謀を阻止するなんてできるわけないだろ!」

「そんなことはない。むしろ⋯⋯私やお前といった学生であるからこそ、この陰謀を阻止することができる」

「何っ?!」

「⋯⋯今回、この一件で兄上とつながり『裏で暗躍している中心人物』がいる。まだ正体は突き止めていないがわかっていることが一つだけある。それは⋯⋯その人物がこの『高等学校の生徒』だということだ」

「えっ?! が、学生? この陰謀の中心で動いているのが学生ってのか?!」

「ああ、そうだ」

「マジか⋯⋯」

「信じられないことだが⋯⋯事実だ。そして、もう一つわかっているのは、その『中心人物の協力者』がいるということと、その人物が私たち一年生の中にいるということだ」

「なっ?! 一年に?」

「ああ」


 おいおい、嘘だろ?


 俺たちと同じ一年生て⋯⋯まだ11歳の子供だぞ?


「まー平民のお前には信じられないだろうが、貴族や高位貴族⋯⋯四高家の者なら11歳はほとんど成人に近い扱いを受けている者もいるし、本人も姿形は幼いとしても中身は大人と変わらない者は多い」

「なるほど」


 これが、この世界の、貴族や王族の常識ということなのだろう。


「そんなわけだ、トーヤ・リンデンバーグ。私に協力してくれ!」

「い、いやいや俺は⋯⋯もうあんたには俺の能力が知られているから言うが、俺はこの能力でステータスを地味にいじりながら目立たないようにして学校生活を満喫したいだけなんだ。むしろ、そんな国の問題に関わるようなことに巻き込まれるのは一番避けたいと思って⋯⋯」

「このとおりだっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「っ!!!!!! お嬢様!!!!!!!!!!」

「アリス様っ!!!!!!!!!!!!!!!!」


 俺が喋っているのを遮る形でアリスが大声を出して頭を⋯⋯いや、土下座した。


「なっ!!!!!! ちょ、ちょっ⋯⋯アリス⋯⋯」

「頼む、トーヤ・リンデンバーグ! 兄の暴挙を⋯⋯父の命を救うにはお前の力が必要なんだ!!!!」

「アリス様! 平民に土下座なんてしてはいけないです! おやめください! ほら! そこの平民! お前からもアリス様にやめろと言え!!!!!!!」

「そ、そうだよ、アリス! やめてくれ⋯⋯」

「嫌だ! 私は父の命を救いたい! 兄上の暴挙も止めたい! だが、それには絶対的にトーヤ・リンデンバーグの力は必要なのだ! その圧倒的な⋯⋯特殊能力スキルを持⋯⋯つ⋯⋯お⋯⋯前が⋯⋯」

「「「っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」


 アリスが涙を流しながら懇願する。


 そんなアリスの迫力⋯⋯姿に⋯⋯俺たちは声を失い圧倒され固まった。


 彼女は王女。


 この国⋯⋯ガルデニア神聖国国王の娘。


 これまで出会った人の中で一番の圧倒的に身分が上の存在。


 そんな彼女が俺の目の前で土下座をし『俺の力が必要だ』と涙を流しながら訴えている。


 こんなの、


 こんなの断れる奴いる?(いねーよな?)


「⋯⋯わかった! わかったよ、アリス! だから顔を⋯⋯上げ⋯⋯て⋯⋯くれ」


 俺はそう言って、彼女の腕を掴み立たせた。


「わ、わかった?⋯⋯そ、それじゃあ⋯⋯トーヤ・リンデンバーグ⋯⋯」

「ああ、協力する。協力するよ、アリス」


 こうして、俺はアリス・グレイス・ガルデニア第二王女に協力することとなった。

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