第24話024「その後」



——魔獣襲撃から一ヶ月後


「すごい! すごいよ、お兄ちゃん!」

「すごいじゃないか、トーヤ」

「い、いやー、はは⋯⋯自分でもビックリだよ」


 皆が驚いているのは俺の微弱だった魔力量と身体能力が急激に増加したからだ。


 と言っても、Eランカー程度の魔力量ではあるが。


 ちなみに、身体能力は周囲の子供たちより倍くらいには上がった⋯⋯がオーウェンやレナよりはずっと低い。ミーシャより少し高いくらいだ。


「す、すごいね、トーヤ⋯⋯」

「?? ミーシャ?」


 何だろう⋯⋯ミーシャの反応が少し気になる。


 怯えている?


「ト、トーヤ! この魔力量なら学者推薦じゃなくて僕らと同じ一般推薦で高等学校に入学できるね!」

「え? あ、うん! ありがとう」


 そう。俺は魔力量がEランカーとなったので学者推薦ではなく一般生徒としての推薦が認められた。


 ちなみに、学者推薦を目指して勉強していたが難し過ぎたので学者推薦はやめることにした。


「やったー! それじゃあ来年、お兄ちゃんも私たちと一緒に一般生徒として通えるんだー!」

「そうか。レナは『飛び級入学』だもんな」

「うん!」


 レナは一つ下なので本来なら一年遅れでの入学となるのだが、そうなると来年、村には生徒でEランカー以上の魔力を持つ生徒がいなくなることや、今回の魔獣襲撃でのレナの活躍もあり、特別に飛び級での入学が認められたのだ。


「そうだね。今回の魔獣襲撃の時の活躍でアリアナ先生が『飛び級』という形でレナも僕たちと一緒に入学させたほうが成長する、と校長に直談判してくれたからね」


 ちなみに、村で『飛び級入学』は初の快挙である。


 妹の高スペックに改めて気づかされた。


 こうして、レナも俺も来年から高等学校へ通うこととなった。


 え?


 どうして急激に魔力量や身体能力が増えたのかって?


 説明しよう。



*********************



——魔獣襲撃事件の後、俺は自分の能力をどう扱えばいいか・・・・・・・・ということでずっと考えていた。


 というのも、この神様からもらった能力はあまりにも用途が広い・・・・・・・・・・からだ。


 ちなみに俺のもらった能力は、この世界では特殊能力スキルという位置付けになる。


——結局、その特殊能力スキルの具体的な使い道はすぐには思い浮かばなかったので、とりあえず自分の『魔力量』と『身体能力』を上方修正した。


 理由は高等学校への推薦を得るためだ。


 以前——特殊能力スキルが開放されていない頃は、高等学校への推薦は学者推薦しか望みがなかったので勉強していたが、如何せん難し過ぎて正直、俺は高等学校への入学を諦めかけていた。


 そんなとき、神様クソじじいが能力開放してこの特殊能力スキル『××××』が使えるようになったおかげで、俺はその特殊能力スキルで魔力量と身体能力を上昇・・させ、一般推薦を得ることができたのだ。


 正直——この特殊能力スキルを使えば、魔力量や身体能力をもっと上昇・・・・・させることは可能ではあるのだが、それはひとまず『待った』をかけた。


 理由は『目立つことを避ける』ためだ。


 ここは『魔力量』というのが身分に直結する世界。


 そんな世界で、派手に魔力量を上げて安易に力を行使してしまうとすぐに貴族に目をつけられるだろう。


 そうなると、貴族の派閥争いなどに巻き込まれる可能性が出てくる。


 それどころか、王族の派閥争いにも巻き込まれる可能性大だ。


 ていうか、まず間違いないだろう。


 そうなった場合、俺はもちろんだが家族や友人にも迷惑が及ぶ可能性がある。


 ていうか、これも間違いないだろう。


 むしろ、映画では定型テンプレなシナリオだ。


 なので、学校で『強者』として目立ってしまうのは非常に面倒くさいことになるのだ。


『フラグ一級建築士』といっても過言ではない。


 ということで、俺はこの特殊能力スキルでの魔力量や身体能力の上方修正は、オーウェンやレナより『弱い程度の上方修正』でこの先やっていこうと決めた。


 これなら、あの二人が目立つおかげで俺は『モブ扱い』してもらえるだろうし、それに『そこそこの能力』さえあれば、それなりに活躍もできてモテるんじゃないか、と俺は閃いた。


 天才的発想っ!


 圧倒的閃きっ!


 フッ⋯⋯映画は勿論のこと、ライトノベルにもそこそこ精通している俺にとってこのくらいの推理⋯⋯朝飯前なのだ。


 そんな天才的発想が生まれた夜——高等学校で『プチ活躍』して女子生徒にキャッキャッされるハーレム妄想がすこぶるはかどったのは言うまでもない。



*********************



——半年後


「「それじゃあ、いってきます。父さん、母さん」」


 初等学校の卒業式を迎えた翌日——俺とレナはすぐに高等学校のある王都へ旅立つこととなった。


 ここから王都までかなりの距離がある為だ。


「いってらっしゃい、トーヤ、レナ」


 リリーが二人に優しい言葉をかける。


「しかし、トーヤの急激な能力成長には驚いたな。確かにこの時期の子供でごく稀に能力が急激に伸びる子がいるとは聞いていたが、まさかうちの子がそうだったとは⋯⋯。でも、よかった。本当によかった」

「そうね。本当に⋯⋯よかった」


 ウォルターとリリーが俺の急激な能力成長を知ったのはついこの前のこと。


 それまで二人はトーヤだけが能力が低いことに内心かなり心配していた、と俺とレナに告げた。


 そうだったのか。


「トーヤ! しっかり勉強して、能力も磨いて、いっぱい成長してこいっ!!」

「うん!」

「レナも今の能力に奢らず、さらに努力してね」

「うん、わかった!」

「「それじゃあ、いってきまーすっ!!」」


 俺とレナは涙ぐむ二人に元気いっぱいに挨拶をして家を後にした。


 その後、初等学校へ行きアリアナ先生とミーシャと合流。


 馬車に乗って一路、王都へと旅立った。



*********************



 俺がこの世界に転生して約一年。


 いろんなことを経験したが、それはまだ『序章』に過ぎない。


——俺、高校では可愛い彼女作って、ごく普通の幸せな家庭を築くんだ。


 そんなフラグを立てながら、


 彼の本当の意味・・・・・での異世界生活は、


 高等学校つぎから始まる。



——第一章 完

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