第22話022「緘口令」



——休憩室テント


 ウォルターとリリーは三人の安否を確認した後「調査班のところに行って状況を確認してくる」と告げ、テントから出ていった。


「ところで、誰がどうやってあのエビルドラゴンもバスケル辺境伯もやっつけたの?」


 レナが当然であろう質問を二人にぶつける。しかし、


「それが⋯⋯わからんのだ」

「え?」

「一応、現場の調査班の話だとバスケルの持っていた『黒い石』が割れているのが見つかってね。その石が割れたことでエビルドラゴンも消滅したんじゃないかって⋯⋯」

「黒い⋯⋯石?」

「ああ。何でもその『黒い石』でバスケルが魔獣を制御していたらしい。まあ、詳しいことはまだわからないがな」

「魔道具⋯⋯てことですか?」

「うむ。恐らくそうだと思われるが、魔獣を制御する魔道具など聞いたことがない。だから、この『黒い石』の話は秘密にするらしい」

緘口令かんこうれい⋯⋯ですか。まあ、当然でしょうね。『魔獣を制御する魔道具』なんてものが知られたら利用したい者は大勢いるでしょうからね」

「そういうことだ。レナもわかったな?」

「わ、わかってます! でも、そんな話より、そもそも誰がバスケル辺境伯をやっつけたのよっ?!」

「うむ。そのことなのだが騎士団や術士団の話だと、バスケルはその『黒い石』が壊れてエビルドラゴンを制御できずにエビルドラゴンに殺された。そして、そのエビルドラゴンは『黒い石』が壊れたことにより消滅した⋯⋯という見解らしい」

「ええっ!? そ、それって⋯⋯つまり⋯⋯ただの自滅ってこと?!!!!!」

「⋯⋯まあ、現場調査班はそういうことで結論づけたらしい」


 レナもオーウェンもアリアナが確認した調査班の調査結果を聞いても納得していなかった。当然、アリアナも調査をした騎士団や術士団の見解には納得していない。


「アリアナ先生はどう思います?」


 オーウェンは考え事をしながらアリアナに質問する。


「お前らと同じだ。あの時⋯⋯あの戦闘の時、バスケルがエビルドラゴンを制御できていなかったなどとは考えにくい。むしろ、完全に制御できていたはずだ」

「はい。僕もそう思います」

「私もよ。だってエビルドラゴンの頭の上に乗っていたのよ、バスケルは?! 制御できてなかったなんて考えられない。それに『黒い石』なんて⋯⋯」

「うん。僕も『黒い石』なんて見ていない」

「うむ、私もだ」


 そう⋯⋯『黒い石』の存在が三人にとっては最大の『謎』だった。


「まあ、可能性があるとすれば僕たちが気絶している間に何者かがバスケルたちと戦って、そこでバスケルに『黒い石』を出させた、というところでしょうか?」

「誰って誰よ! 私たちより魔力量の高い⋯⋯戦える人なんて村にはいなかったじゃない!」

「⋯⋯まあ、そうなんだけど」

「もう! やっぱりこの調査結果おかしいわよ! 全然納得いかないっ!!!!!!!」


 レナがプンスカ憤って叫ぶ。


「レナ。お前の気持ちはわかるが詮索するのはよすんだぞ?」

「な、なんでよ!」

「調査班がこうも簡単に調査結果を結論づけたのがあまりに不自然だからだ。恐らく、何か隠していることがあるのだろう。その為の緘口令であることは間違いない」

「隠していること⋯⋯『黒い石』ですか」

「まあ、そうだろうな。『魔獣を操れる魔道具』なんて前代未聞だからな」

「あああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜! 納得いかない〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!」



*********************



「みんな〜!」

「「「トーヤ!(お兄ちゃん!)」」」


 俺はエビルドラゴンを倒した後、すぐに避難場所の近くに戻り身を隠した。


 しばらくすると、村から「魔獣が討伐された」という一報が入る。


 避難場所の村人たちはその一報を聞くとゾロゾロと村に戻ることになったのだが、俺はそのタイミングで密かに合流し村に戻ってきた。


「すごいじゃないか! あの魔獣を倒すなんて!」

「あ、いや、まあ倒したというより⋯⋯相手の自滅かな?」

「それでも良かったよ! 三人が無事で!」

「お兄⋯⋯ちゃーーーーんっ!!!!!!」

「おうふっ!!!!!!!!」


 レナが勢いよく飛び込んできた。


「怖かったよぉぉぉぉぉ! お兄ちゃ〜〜〜〜〜ん!!!!!」

「ああ、よくやったな、レナ」

「ということで、今夜はお兄ちゃん添い寝ヨロ!」

「調子に乗るな!」

「え〜〜〜! ブーブー⋯⋯!」


 あの時——恐怖に震えていたレナはもうおらず、いつものブラコン全開のレナがいた。


「アリアナ先生。傷は大丈夫ですか?」

「おう、トーヤ。何、かすり傷さ。それよりもお前の妹はすごく優秀で勇敢だったぞ! 今日くらいは少し甘させてあげろ」

「アリアナ先生! 素敵な提案です! 素晴らしいです! ということで、お兄ちゃん! 添い寝ヨロヨロ〜〜っ!」

「ちょ、お、おま!? ア、アリアナ先生ぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!!!!!」

「「「ワハハハハハハハハハ⋯⋯!!!!!!!!!」」」


 いつもの日常が戻った。



*********************



「オ、オーウェン君⋯⋯」

「ミーシャ! 無事だったかい?」

「う、うん⋯⋯」


 しばらくすると、休憩室テントにミーシャも現れた。


「みんなはケガとか大丈夫?」

「ああ、大丈夫。さっき治癒魔術をかけてもらったからほぼ全快さ」

「そう⋯⋯よかった⋯⋯」

「?? ミーシャ?」


 オーウェンはミーシャの顔色が少し暗いことに気づく。


「あ、あのね、オーウェン君⋯⋯お話があるの」

「話?」

「⋯⋯トーヤのことで」

「トーヤ?」

「⋯⋯オーウェン君。ちょっと」


 突然、ミーシャは周囲に目立たないようにオーウェンを外へ連れ出し、さらに林の奥へとオーウェンを引っ張っていった。


「ど、どうしたんだい、ミーシャ?」

「あ、あのね、オーウェン君⋯⋯私ね⋯⋯」

「??」

「魔獣を⋯⋯エビルドラゴンを倒した人を⋯⋯見たの」

「えっ! エビルドラゴンを倒した人?! い、一体、誰が⋯⋯」

「⋯⋯トーヤ」

「え?」

「あのエビルドラゴンをやっつけたのはトーヤだったの!!」

「なっ!?」


 ミーシャが意を決した真剣な眼差しでオーウェンに話を始めた。

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