第21話021「謎」



「それにしても、今回の村を襲った魔獣の件だが⋯⋯おかしな点が多すぎる」

「ああ、そうだな」

「⋯⋯そうね」


 ヴァーズが二人に今回の村を襲撃したバスケルとエビルドラゴンを『誰がどうやって討伐したか』について話し始めた。


「⋯⋯結論としては『バスケルが自滅した』という話になる。まず、Bランカーのエビルドラゴンをバスケルは『黒い石』を使って制御していたがその石が割れ、エビルドラゴンが制御出来なくなった為、バスケルは殺された、というのが調査班の見解になる。実際、バスケルの死因はエビルドラゴンの鉤爪によるものであることは間違いないみたいだからな」

「「なるほど」」

「そして、エビルドラゴンの消滅に関しては『黒い石』は制御だけでなく魔獣の命にも直結していた為、その石が割れたことで消滅したんじゃないか、ということらしい」

「まー、確かに一理あるかもな。ただ⋯⋯」

「ええ。現場にいたレナやオーウェン君、アリアナ先生の話ではバスケルはエビルドラゴンを完全に制御できていた、と言ってたわ。そうなると、そもそもエビルドラゴンにバスケルが殺されたというのもおかしいし、その『黒い石』が壊れると魔獣も消滅する、ていう話も証拠のないあくまで推論の域を出ないものだもの」


 二人はレナたちから話も聞いているので調査班の結論には全然納得いっていなかった。そして、それは、


「ああ。当事者三人の話と調査班の見解はあまりに乖離してる⋯⋯にも関わらず調査班がそれを最終結論としたのがどうも腑に落ちん」


 ヴァーズもまた一緒だった。


「——実際、今、現場は第六術士団団長のあの・・キャスコが指揮を取って調査をしているしな⋯⋯」

「キャスコ? キャスコってまさかあの⋯⋯キャスコ・クゥインスターのことか?!」

「ああ、そうだ。驚いたろ?」

「驚くよ! あの『魔道具狂いキャスコ』が団長って⋯⋯大丈夫なのか、あいつが団長やって⋯⋯」

「まあ、昔よりはしっかりしているようだが⋯⋯ただ、たまにいろいろやらかしている噂も聞くな」

「キャスコちゃんかー。元々私の第一術士団にいた子だったけど彼女が団長って⋯⋯色々な意味で不安ね」

「まったくだ」


 ウォルターがリリーの言葉を力強く肯定する。


「普段は常識ある子だけど魔道具が絡むとちょっと個人的欲求を優先するクセがあるから⋯⋯。まあ、でも今は団長を任されているんなら大丈夫なんじゃない?」

「ううむ⋯⋯」

「ちなみに、そのキャスコなんだが⋯⋯あいつ、実は何か隠しているような気がするんだよ」

「「何かを隠してる?」」


 ヴァーズは村で見つかった『黒い石』について話した。


「一応、調査ではその『黒い石』が魔獣を操っていた魔道具みたいなものじゃないか、という話になっているが詳細は不明とされてる。だから、この『黒い石』を第六術士団が解析することになったんだが⋯⋯俺が思うにキャスコはあの『黒い石』のことを知ってるっぽいんだよ⋯⋯」

「何っ!?」

「あいつがその『黒い石』を見る目がな⋯⋯『初見』という感じじゃなくて『本当にあった』という感じだったんだ」

「あー、なるほど。キャスコはその辺わかりやすいからなー」

「それに今回、要請で駆けつけた第五騎士団の幹部は副団長だけだが、第六術士団は団長のキャスコ自ら出張でばってきているところを見るとな⋯⋯。もしかしたらキャスコの目的はこの『黒い石』だったんじゃないかと俺は踏んでる」

「うーむ、確かに⋯⋯」

「それじゃあ、一度キャスコちゃんに話を聞きに行きましょうよ?」

「おーそうだな。それがいい」

「いやいや無理だろ? あいつはいまや第六術士団の団長だぞ? さっきゾイドが言っていたとおり、俺たちが簡単に話ができる相手じゃ⋯⋯」


 リリーとヴァーズがウォルターに直接キャスコに聞きに行こうと提案。


 しかし、ウォルターが「場を弁えたほうがいい」とその提案を否定しようとしたその時、


「あれ? リリー先輩、ウォルター先輩、ヴァーズ先輩じゃないっすか! チース! お久しぶりっすー!」

「「「っ!? キャスコっ!!!!!!!!!」」」


 三人が話しかけようかどうか悩んでた相手⋯⋯見た目『銀髪幼女』の第六術士団団長キャスコ・クゥインスター本人が直接話しかけてきた。



*********************



「え?『黒い石』ですか?」

「ええ。キャスコちゃんはあの『黒い石』のこと、知ってるの?」

「はい」


 キャスコはリリーの質問にあっさり即答する。


「あれ? キャスコ⋯⋯お前、『黒い石』のこと隠してたんじゃないのか?」

「え? 別に隠してなんかいませんよ、ヴァーズ先輩? 説明するのが面倒臭かっただけです」

「マ、マジか⋯⋯」


 ヴァーズはあまりにもあっさりと答えたキャスコに拍子抜けする。


「それでキャスコ⋯⋯あの『黒い石』てのは何なんだ?」

「あれはですね、ウォルター先輩。『愚者の石フールズ・ストーン』っていう石でして⋯⋯」

「「「愚者の石フールズ・ストーン⋯⋯?」」」


 キャスコは嬉々として説明を始めた。


「はい。『愚者の石フールズ・ストーン』は、魔族が魔獣を使役するために使っていたという魔族側の魔道具製作者の一品でして、存在は知っていたのですが前の大陸間戦争ですべて消失したと言われていた魔道具なんです。でもですね! 今回バスケル辺境伯がその愚者の石フールズ・ストーンを持っているという噂を聞いたのでもしかしたら手に入るんじゃないかなーと思って今回、この魔獣討伐に参加したんですよー! そしたら本当に出てきたじゃないですか! 私、すごく興奮しちゃって! それで、ここの調査は早めに切り上げてすぐに王都の研究所に戻って解析しようとですね⋯⋯」

「だから、あんなに早く適当な結論を出したのか」


 ハァ〜⋯⋯と深いため息を着く三人。


「適当だなんて心外です! 一応、誰もが納得いく形で且つ、愚者の石フールズ・ストーンの存在を公にしないための練りに練った調査結果にしたんですよー! プンプン!」


 キャスコが怒っている仕草をしつつ説明をする。


「それじゃあ、キャスコちゃんの見解はどうなの?」

「そうですね⋯⋯まず今回、一番の疑問点は『誰があのエビルドラゴンを倒したか』ですが⋯⋯」

「ちょ、ちょっと待て! やっぱりエビルドラゴンは誰かが倒したのか?」


 ヴァーズが驚いた様子でキャスコに尋ねる。


「はい。それは間違いないです。愚者の石フールズ・ストーンはあくまで魔獣を制御するだけの魔道具なので命を奪うものではありません」

「ということは、あの調査結果は嘘てことか?」

「嘘⋯⋯というよりかは『秘匿した』という感じです。だって、そういう形にしないと『混乱』を招きますよ?」

「混乱? そりゃーどういう⋯⋯」

「わかりませんか、ヴァーズ先輩? もし、愚者の石フールズ・ストーンは魔獣の命を奪わない、と本当のことを言ったら『では、あのBランカーの魔獣を倒したのは誰だ?』ってことになりますよね? そしたら、そんな『正体不明の実力者』がこの国に存在するということを知らしめることになります。そんな敵か味方かわからない存在は国にとっても国民にとっても『脅威』でしかありません。『脅威』は混乱を招きます。なので、私は一部の人間以外には公にしないと判断して『秘匿』にしたんです」

「な、なるほど⋯⋯」


 さっきまでおちゃらけていたキャスコが一点、真面目な顔で調査結果の真意をヴァーズに説明。


 ヴァーズはキャスコの迫力に圧倒された。


「なるほど。キャスコ、お前の言い分はわかった。それは正しい判断だと思う」

「でしょー、ウォルター先輩!」


 キャスコがすぐにおちゃらけてウォルターに甘える。


「ちなみに、その『正体不明の実力者』についての見当はついているのか?」

「それについては私もわからないです。まったくの『謎』です」

「お、お前でもわからないのか?!」

「はい」


 知識量豊富なキャスコを持ってしても『正体不明の実力者』については謎だということに三人は驚く。


「少なくともその『正体不明の実力者』は、あのBランカーのエビルドラゴンを一瞬で消し去るだけの圧倒的な実力者であることは間違いありませんね。エビルドラゴンが暴れた形跡はなかったんで⋯⋯」

「「「た、確かに⋯⋯」」」

「私⋯⋯愚者の石フールズ・ストーンも気になりますが、その『正体不明の実力者』にもすっごく興味あるので徹底的に調査するつもりです。フフフ⋯⋯フフフ⋯⋯」

「そ、そうか」


 キャスコの黒い瞳が鈍い光を放ってユラユラと揺れている。


 キャスコは興味を持ったものに対して執拗に追求する習性がある。


 そのしつこさと執念は度が過ぎているものの、その調査能力はズバ抜けていると周囲の評価は高い。


「何かわかったら報告しますね、せんぱ〜い。じゃあ、これで〜」

「わ、わかった」

「よ、よろしくね、キャスコちゃん」


 そう言って、フラ〜とキャスコは去っていった。

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