第16話016「絶体絶命」
「「「
アリアナ、オーウェン、レナの三人が
「オーウェン、レナ⋯⋯私がバスケルの相手をしエビルドラゴンから引き離す。その後はお前たちでエビルドラゴンの注意を引きつけながら村から遠ざけ、少しでも多く時間を稼ぐんだ、いいなっ!」
「「はいっ!!!!」」
「応援は必ず来る! それまでの辛抱だ!」
「「⋯⋯はいっ!!!!」」
アリアナは二人に指示を出した後、エビルドラゴンの頭の上にいるバスケルに飛び込んでいく。
「バスケル〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」
ガキンっ!
アリアナは持っていた剣で思いっきりバスケルに斬りつけた。しかし、バスケルはそれを身につけている籠手で簡単にガードする。
「っ?! お、お前⋯⋯
「いかにも。こう見えて私は剣や槍といった武具ではなく自分の拳での攻撃を最も得意とする」
——
通常、剣や槍などに魔力付与して戦う者がいる中で少数だが、拳や脚に魔力付与し戦うスタイルを得意とする者がいる。それらの戦闘スタイルの者たちは『
ちなみに、
しかし、バスケルはそんな
「ちなみに通常の
「っ!?」
ズバっ!!!
「ぐっ⋯⋯!!!!!」
「剣も扱いますがね」
バスケルは背中に隠していたであろう剣を出し、アリアナを斬りつけた。
アリアナは身を引いて躱したが
「ふむ? 今のは完全に腕を落とすつもりで斬りつけたのですがその身体能力⋯⋯アリアナさん、あなたもしや身体強化系の
「⋯⋯」
「ふむ。否定しないところを見るとそのようですね。だとすると、Cランカーという表面的なランク評価よりも実力は上ということですか⋯⋯面白い」
そう言うと、バスケルはエビルドラゴンから離れたところに降りる。
「いいでしょう。あなたの腕前⋯⋯見せてみなさい。その上で絶望を見せてあげましょう」
バスケルは以前、余裕の笑みを浮かべている。
「ふん⋯⋯いいだろう。そのニヤけた顔を苦悶の表情に変えてやるよ!」
すると、アリアナがキッと目を見開いた。
「⋯⋯
ドン! ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!!!!!
「「なっ?! ア、アリアナ先生っ!!!!」」
アリアナが
そのプレッシャーにオーウェンとレナが思わず声を上げてアリアナを見た。
アリアナの金色の髪がユラユラと揺らめき、手負いの獣のように「フーフー」と目の前の獲物を狩るだけに一点集中した表情でバスケルを睨みつける。
「なるほど。確かに身体能力が格段に上がりましたね」
「⋯⋯ウルサイ、シネ」
「ふむ。
「ガァアァァァアァァァアァァァ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
アリアナがバスケルに激しくぶつかり、拳や蹴りの連撃を繰り出す。バスケルの反撃はなく防御にのみ徹していた。
「⋯⋯イケる」
レナはそんなアリアナの猛攻を見てバスケル打倒に希望を見出した。
「レナ、来るぞ!」
「っ!?」
オーウェンの声に反応したレナが振り向くと、エビルドラゴンが炎を口から吐く瞬間だった。
「
オーウェンが剣から大きめの水の矢を放ち、エビルドラゴンの炎の軌道をわずかにズラす。そのタイミングでレナは横に飛んで何とか炎の直撃を躱した。
「集中するんだ、レナ。僕たちの役目はエビルドラゴンを村から引き離して時間を稼ぐこと、いいね?」
「わかったっ!」
レナとオーウェンはエビルドラゴンの炎を躱しつつ攻撃魔術を繰り出し、村から少しずつ離れるよう誘導していった。
すべてはアリアナの作戦どおりに戦況は進んでいた⋯⋯はずだった。
*********************
「急げ⋯⋯急げ⋯⋯急げっ!!!!!!」
俺は避難場所へと向かう列から抜けると、近道である林の道なき道を使って最短で村へ着いた。
「っ?! そ、そんな⋯⋯」
俺は最短ルートで村に着いたので、最初の村から避難した時間を含めても10分ほどしか経っていないはずだった。だが、目の前には⋯⋯アリアナ先生、オーウェン、レナがバスケルとエビルドラゴンの前に倒れていた。
「ふむ。アリアナさんの
「ぁあ⋯⋯」
俺は三人の惨状を見てショックのあまり、迂闊にも三人の前にヨロヨロと歩いて近づき膝をつく。バスケルの目の前に無防備に姿を晒した。
「ん? なんだ君は?」
バスケルが話しかけるが俺はショックで意識朦朧としていた為、その言葉に反応しなかった。
「魔力は通常の平民よりも微弱⋯⋯何しにきたのですか?」
バスケルは俺を見つけるとゆっくりと近づいてくる。
「ああ⋯⋯もしかしてこの三人を心配して戻ってきたのかな? 大丈夫ですよ、まだこの三人は死んでいません。気絶しているだけです⋯⋯今はね? ククク⋯⋯」
バスケルがさも楽しげに説明する。逃げなきゃいけないのに俺はこの惨状に絶望すると同時に恐怖に支配されその場から動けずにいた。
「ふむ? どうやら恐怖のあまり体が硬直しているようですね⋯⋯かわいそうに。いいでしょう。ひと思いに殺して差し上げます。大丈夫、この三人と一緒にエビルドラゴンの炎で焼いてあげますから寂しくないですよ?」
「あ、ああああああああ⋯⋯」
そう言うと、エビルドラゴンが口をパカァァと開ける。口の奥で炎が作られていく。
——そうか、俺は死ぬのか。
転生したばっかりなのに。
あ、でも、死んだら次はセレブリチーな天国ライフが待っているんだっけ?
なら、それでいいか。
そうだよな。別に死んでも天国行きは決定してるんだ。
それでいいじゃないか。
でも、三人はどうなるんだ?
別にいいじゃないか。たった数ヶ月程度の関係なんだし。
数ヶ月⋯⋯一年も経っていないのか。
なのに、どうしてこんなに悲しいんだろう?
答えはカンタン。それだけ素敵な人たちだったから。
そう⋯⋯前世では出会ったことのない優しくて愛おしい素敵な人たち。
そんな人たちが目の前で倒れてるのに俺は何もできず終わる⋯⋯のか?
悔しい⋯⋯悔しい⋯⋯悔しいぜ、馬鹿野郎ーーーーーーーっ!!!!!!!!!!
「では、さらばだ。少年」
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーっ!!!!!
エビルドラゴンが猛烈な炎を吐き出した⋯⋯俺と倒れている三人に向かって。
その時だった。
『いや〜すまん、すまん。急な用事があったもんでな!』
「っ!!!!!! か、神様クソじじいーーーーっ!!!!」
——瞬間、俺は真っ白な空間へと意識が移動した。
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