異世界に来たからには無自覚あおり冒険しちゃいがち

ちびまるフォイ

それはあおっていますか?

異世界からやってきた勇者は、持ち前の強力な魔法で魔物を焼き払った。


「おお……なんて力だ……!」


もはや人外と言わざるを得ないほどの魔力を見て村の人達は驚いた。


けれど、とうの勇者はというと異世界滞在時間ものの数分で

この世界の標準を知らないためにすっとぼけた返しをした。



「え? こんなの普通でしょう?」



まもなく勇者は「あおり冒険」の罪で捕まった。


牢獄の中で勇者は必死に無罪を訴えた。


「俺がなにしたっていうんだ!」


「自覚ないのか? お前はあおり冒険したじゃないか」


「そんなの聞いたこともないよ!」


「そりゃお前は異世界から来たんだからな。

 村の人を不快にさせたり、恐怖を抱かせるようなあおり冒険は

 この世界じゃなによりも重い罪なんだよ」


「そんな……」


勇者の魔力をもってすれば自分の前にある鉄格子をアメ細工のように溶かして、村を火の海に変えることもできる。

けれど自分の力は人のために使うと誓っている。


「もうあおり冒険はしないか?」


「もちろんだ! あおり冒険を知らなかったから

 意図せずあおってしまっただけであって、もう大丈夫だ!」


勇者の必死の弁明のかいあって、やっと牢獄から出ることができた。


「今度はあおりに思われないようにしなくちゃ。

 無自覚のフリをするのはもちろん、いばるのもNGだろう」


「キャーー助けて! 魔物よーー!!」


時報のように轟いだ女性の悲鳴に駆けつけると、

町の一帯に魔物の群れが押し寄せてきた。


「おのれ魔物め。やっつけてやる。はぁーー!!」


勇者の手から放たれた魔法は一瞬にして魔物を消し炭に変えてしまった。


「ありがとうございます勇者さま! お強いんですね!」


尊敬でうるんだ瞳を向けられた勇者は、あおり冒険を思い出し無自覚なフリを避けてあおりにならないよう謙遜して答えた。


「いえいえ、こんなのすごくないですよ」



「……それはあおってるんですか」


「え」


「私が強いんですねって言って、誰がどうみてもすごいのに

 こんなのすごくないって言うことは、こんなのもできない私はクソザコナメクジってことじゃないですか」


「そこまで言ってないでしょう!?」


「言ってないってことは思ってるってことね!! あおられたわ!!」


勇者はふたたびあおり冒険の罪で収監された。

初犯では許されたが再犯ともなるともはや取り付く島もない。


「お前、次やったら死刑だから」


「死刑!? 重すぎませんか!?」


「お前のあおり冒険のせいで普通に暮らしている人がどれだけ怯えているか。

 加害者というのはいつも被害者の苦労を知らないんだよ」


「俺もある意味で被害者なんですけど」


「もうこの場で死刑執行してほしいと?」


「すみませんごめんなさい反省してます!」


勇者はなんとか外にこそ出られたがもはや自由ではなかった。


「いったいどうすればいんだ。無自覚なふりをしてもあおりになり、

 かといって謙虚にしてもあおりに受け取られてしまう……。

 この世界の人はなんて心が狭いんだ」


いつ自分が意図せずあおってしまうかわからない。

そこで勇者はひとつのアイデアを実践してみることにした。


神よりさずかった洗脳魔法をこの世界に住まう全員にかけて、

勇者の魔力がごくごく普通でありふれたものであると常識を書き換えた。


「これでもう俺が能力を見せつけているとか思われなくなるぞ!」


勇者が安心すると、ちょうどいいタイミングでドラゴンが飛んできた。


「誰か助けてーー! ドラゴンが!!」


「ようしまかせろ!」


勇者は自分の比類なき力をふるってドラゴンをやっつけた。

村の人達は倒してくれた勇者にいたく感謝した。


「ありがとう、おかげで助かったよ」


「いえいえ、こんなのたいしたことないですよ」


謙遜した勇者の言葉に、常識を書き換えられている村人はうんうんとうなづいた。


「そうですね。あなたくらいの魔力の人はこの世界にゴロゴロいます。

 なんにも特別なことではない。あなたはなんてことない普通の人間です」





「てめぇ、あおってんのか!!!」


勇者は村人に掴みかかったのを最後に死刑に処された。

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