不認可短編集
@banibanbi
スマホを使えない女
「私、スマホ使えないの」
4月7日、教室の一角。何気なく座った席の隣の女はそう語った。
「スマホを使えないってどういう?教えてあげようか」という親切心からの言葉を、彼女は「そうじゃないの」と叩き落した。そうじゃないってなんだよ、と少しイライラしていると、
「ああ、別におちょくっているとかそういうのじゃなくてね」
と、その経緯を話し始めた。
「なんて言えばいいのかしら。この機械ってこう……スクリーンに映るものを操作したり、そこで音声を送りあったりするじゃない?それができないの。というか、そもそも画面がつかなくて」
そう言いながら、彼女はスマホの電源ボタンをカチカチと押しているところを見せる。確かにその画面にはなにも映っていないが、しかしこれはかなり重症であることの証左である。僕は頭を抱えた。
「電源が入っていないだけじゃあないの?」と少しキレ気味に、充電端子をさしこむ。すると画面には100%の文字が。どういうことなのだろうか。確かに画面は黒そのものであったはずなのだが。
「だから言ったでしょ?」と勝ち誇ったような表情の彼女。なにも勝ってはいないだろ、とは思いつつも、少し不思議なので聞いてみた。
「えーっと、科学ってあるじゃない?それが適用されないのよ、私には。というかそもそも科学って言うのは信じているからこそ存在するのであって、私はある時からそれを信仰しなくなったの。すると……」
尚更意味が分からない。思わず視線を机に向ける。適用とはどういうことなのだろう。それは万物すべてにあるべきであり、そもそも存在しないはずがないのだ。というか信仰ってなんだ。あるはずのものはあるだけで、それに疑いなんてかけられるわけがないだろう。
これらの問に解を得ようと視線を横に向ける。だが、そこにはただ空席があるだけであった。
結局、あれは幻であったのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます