オリハルコン製の悪役令嬢が頑丈すぎて、ギロチンでも火炙りでも処刑できない
モプルトトムンタン
第一章 悪役令嬢が頑丈すぎて処刑できない
第1話
ボロボロの洗いざらしのワンピースに身を包んだヘンリエッタ公爵令嬢は背中側で手首を縛られ、断頭台にゆっくりと向かう。俺は彼女の細い手首を縛る縄を持ち、彼女の逃げ道を塞ぎつつ歩く。
断頭台を取り囲む群衆からは怒号と惜しむ声との両方が聞こえてきて、時々言い争う怒鳴り声もする。国民は、この処刑が正義なのか悪なのか、判断が出来ずにいるのだろう。
俺だってそうだ。
一端の兵士でしかないが、ヘンリエッタ様の悪役っぽさは何となくわかる。
「オーホッホッホ」って高笑いをするし、命令口調で遠慮がない。俺のことも立ち姿がなってないだの、顔がパッとしないだの貶すばかりだ。
しかし、会話を重ねれば重ねるほど、案外悪い人でもない気がしてくる。表面上は悪役令嬢っぽいんだけど、なんか違うんだよなー。
「ジャック。世話になったわね」
俺を振り返って、ヘンリエッタ様が言った。
つり目気味の紫色の瞳が俺を見ている。
彼女のウェーブがかったシルバーの髪は、今はボロボロになりくすんでいる。しかし、それでも太陽の光を反射して、きらめいて見えた。
「……ヘンリエッタ様、あの」
「おい、時間だ」
処刑人が俺が握っていた縄を奪い取り、ヘンリエッタ嬢を無理矢理断頭台の前に引っ張って行った。
ヘンリエッタ様が「ちょっと! レディには優しくしなさいよ!」と処刑人に怒鳴るが、無理矢理跪かされた。
ヘンリエッタ様の細い首に、処刑人が持つ大きな斧が添え当てられる。
「ちょ、あの! やっぱり!」
俺は思わず右手を伸ばし、ヘンリエッタ様と処刑人に向かって叫んだ。
処刑人は俺に見向きもせず、自分の仕事を成し遂げる為に斧を大きく振りかぶり、そして振り下ろした。
「ヘンリエッタ様はっ!」
ガッキーーーーーン!!!
次の瞬間、猛烈な金属音が鳴り響き、ポカンとした空気が流れる。
処刑人が持つ斧が、ヘンリエッタ様の首で止まり、辺りに大きな金属音を鳴り響かせた。
「……鉄の斧じゃ、殺せないと思うんスが」
俺は、呆気に取られる処刑人にむかって言った。群衆も、何が起こったのか分からずに呆然としている。
「……乱暴に跪かせておいて、いつまで待たせるのよ! 処刑するなら早く処刑なさいよ!」
ヘンリエッタ様の大きな声だけが、広場に響いた。
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