「モニター」:1
影雄は、チータープリズンで起こっている事件の、その裏側について、知り得た情報をできる限りカルケルへと打ち明けた。
そして、それらの事件の首謀者が、ヤァスであるということも。
「チっ。あのヤロウ、最初から気に入らなかったんだ」
影雄からできるだけの情報を聞き終えたカルケルは、不愉快そうにそう言った。
「チーターのクセに、オブザーバーだとか何とかで好き放題しやがって。ここは俺様の[王国]なのに、奴は俺様に隠れてコソコソ動いていやがった。鼻につくが、管理部の協力者だからと、俺様でも自由には調べられなかったのさ。……それに、あのとりつくろったような顔。あれが一番、気に入らねェ」
それから、カルケルはイスに座り直し、深々と溜息をついた。
「しかし、俺様も[ヤキ]がまわったもんだ。疑わしい、怪しいと思っていたのによ、ヤァスの企みに気づけないなんてなァ」
「なぁに、まだまだ十分、逆転は狙えるさ」
そんなカルケルに、影雄は笑い飛ばすような口調で言う。
「ヤァスの最終的な目的は、セシールに聞いても結局分からなかったが、奴がよからぬことをしようとしているのは明白だ。奴は、セシールに催眠を施して利用していたし、このプリズントルーパーたちの反乱も、奴が主導していることもはっきりとしたしな」
「はっ、はい! 反乱したプリズントルーパーたちは、ヤァスの指示で動いています」
影雄に視線を向けられると、アピスの羽交い絞めから解放されたセシールが、うんうんと何度もうなずいてみせる。
「それに、カルケル獄長が協力してくれることにもなったしな」
「ああ、もちろんだ。約束は守る。……しかし、プリズントルーパー同士で戦うとなると、仲間同士で撃ち合いをすることになる。セシール、反乱した奴らがどうしてヤァスに従っているのか、分かるか? 」
「あっ、はい、それは……、シュタルクさんと同じように、催眠されているんだと思います」
セシールはカルケルからの問いかけにまたうなずき、ええと、ええと、と、自分の記憶を必死に探りながら答えていく。
催眠によって記憶を改ざんされている影響からか、まだよく思い出せないことが多い様子だった。
「じ、実は、ずっと前から、少しずつプリズントルーパーさんたちに催眠をかけていたんです。健康診断の時とか、そういう時に合わせて一人ずつ。ヤァスが合図をすれば、ヤァスの指示に従って動くように、です」
「なるほど。……それをやったのは、乙部楓(おとべ かえで)というチーターだな? 」
セシールは影雄からの問いかけにもまたうなずいて肯定した。
「催眠されているだけ、か……。ますます、攻撃は命じにくくなるな」
セシールの説明を聞いたカルケルはまた、不愉快そうにそう言った。
「融通(ゆうずう)のきかない奴らだが、全員、俺様のかわいいかわいい部下たちだ。装甲服を身に着けているから多少の攻撃にもなんともないが、その分、敵対して戦うとなると手加減が難しい」
「その通りだ。できれば穏便に済ませたいが……。ヤァスと直接対決に持っていくことはできないだろうか」
カルケルの、おそらくは本心からの言葉に、影雄も真剣に考え込む。
その時、取調室の扉が数回、ノックされた。
その音に、カルケルが少し億劫(おっくう)そうに答える。
「誰だァ? 」
「獄長。ご報告が」
返って来たのは、プリズントルーパーの声だった。
「何だ? 反乱側が動いたのか? 」
「イエスです。外をご覧ください。反乱部隊はヘリコプターを飛ばし、スピーカーを使ってプリズンアイランド全域に向かって呼びかけ行っています」
「呼びかけだァ? ……チッ、今度は、何をおっぱじめやがったのか」
カルケルは舌打ちすると、立ち上がって取調室から出ていく。
和真たちもお互いの顔を見合わせた後、ヤァスが新しく起こした行動を確認するため、取調室を後にした。
────────────────────────────────────────
監獄棟の窓から外を確認すると、プリズントルーパーの報告にあったように、空を何機ものヘリコプターが飛んでいた。
その多くは小型で軽快さが売りの汎用ヘリコプターだったが、プリズンアイランドの中心付近、島のどこからでも見える場所には、ローターが二つついている大型の輸送ヘリコプターが数機、固まって飛行している。
汎用ヘリコプターはプリズンアイランド中を何かを捜索(そうさく)して飛び回っているようだったが、輸送ヘリコプターは、一つの巨大なモニターを数機がかりで上空に吊り下げていた。
和真たちがその光景の意味が分からず、いぶかしんでいると、モニターが起動し、そこに、ヤァスの上半身が映し出される。
ヤァスは、銀縁眼鏡の下に、いつもの作ったような笑みを浮かべて映っている。
〈あー、あー、聞こえますでしょうか。見えていますでしょうか。蔵居 和真くん? 〉
「お、俺? 」
カルケルが現れた時もそうだったが、なぜか自分を名指しするヤァスに、和真は素っ頓狂(とんきょう)な声をあげながら自分自身のことを指さしていた。
もちろん、ヤァスには、和真がそこにいることなど分かってはいないはずだ。
だが、島中から目にすることができる巨大なモニターの中で、ヤァスは、この映像や音を和真が見聞きしているという前提で話を進めていく。
「蔵居 和真くん。どちらに隠れているのかは分かりませんが、今すぐに投降して、出てきてください。これは依頼ではなく、命令です。和真くん、キミはボクに逆らうことはできないのです」
(なんだ、アイツ! 偉そうに! )
ヤァスの言葉に、和真は内心で舌を出した。
これまで和真のことをいいように散々利用してきた相手に、今さら大人しく従うつもりもないし、その必要もないはずだった。
今の和真には、ヤァスの陰謀に立ち向かう仲間たちがおり、カルケル獄長以下、大勢のプリズントルーパーたちも味方になったばかりなのだ。
だが、和真は、表示の切り替わったモニターの映像を見て、息をのんだ。
何故なら、そこには、シュタルクをはじめとして、オルソ、千代、ピエトロ、長野の五人、セーフハウスで安全に隠れているはずの全員が、捕らえられ、拘束されてしまっている様子が映し出されていたからだ。
捕まってしまった仲間たちは全員、手錠をされ、ロープで何かの柱に縛りつけられ、どこかの薄暗い場所で並べられている。
〈和真くん。ボクに跪(ひざまず)くのです。……さもなければ、キミのお友達たちが、これから酷い目に遭ってしまいますよ? 〉
辺りに、ヤァスの勝ち誇ったような言葉が響き渡った。
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