「クラン」:2
でたらめな刑期を与えられてしまった和真は、早期出所を果たし、日本へ帰るために[特別任務]をこなさなければならない。
その特別任務とは、和真に目覚めたチートスキル、[劣化コピー]によって、できるだけ多くの囚人(チーター)たちから、チートスキルをコピーすることだ。
その任務は停滞し続けていたが、和真に大きなチャンスが巡って来た。
和真がなかなか接触できずにいた、囚人(チーター)たちの間の[大物]から、直接お声がかりがあったのだ。
うまくすれば、強力なチートスキルを、短期間でいくつもコピーすることができるかもしれない。
すべては和真の立ち回り次第ではあったが、もし、成功すれば、早期出所へ向けて大きく前進することができるのだ。
和真は急いで食事を終えると、和真に接触してきた二つのクランの内、どちらに先に会いに行くかを考えた。
頼りにできるのは、このチータープリズンにおける数少ない[知人]と呼べる相手、千代とピエトロだけだった。
チートスキルを使ってプリズンアイランドでのみ通用する電子マネー[グディ]を稼ぐ仕事を終えた千代とピエトロを捕まえた和真は、自身の特別任務のことは伏せたうえで、二人にクランからの接触があったことを話し、「その二つのクランは、どんなクランなのか」をたずねた。
「それは、また、大ごとになっているみたいだね」
和真の質問にまず、そう言って驚きをあらわにしたのはピエトロだった。
「いったい、どうしてそんなことになっているんだい? 」
「はァ、実は、俺の受けた判決、懲役九百九十九年ってので、目をつけられたみたいで」
「なるほど、それか。確かに噂になっていたけど、アレ、本当だったのかい? 」
「実は、そうなんです。この前に呼び出しを受けた時が、あれがこの判決を言い渡す[裁判]だったんです」
「へぇ、驚いた! しかし、どうしてまた、そんなデタラメな刑期を? 和真くん、キミ、いったい何をしでかしたんだい? 」
ピエトロから逆に飛んできたその質問に、和真は「ははは、俺にもぜんぜん、ワケが分からなくて」と笑いながらごまかし、「それで、クランについてのことなんですけど……」と、さりげなく話題をそらした。
刑期についての話題から、和真に指示された[特別任務]についての話題に向かってしまっては都合が悪いと、そう思ったからだ。
千代もピエトロも[いい人]だと好意的に和真は思ってはいたものの、まだ出会ってから日も浅く、監獄生活の制約でそれほど頻繁に話をしているわけではない。
あくまで[知り合い]といったレベルにとどまる相手に、すべてを打ち明けられると思えるほど、和真は楽観的にはなれなかった。
「えっと、そうですねぇ……」
幸いなことに、和真が話題を変えたことに、千代もピエトロも気がついてはいない様子だった。
千代は左手の人差し指を自身のあごに当てながら少し考えた後、和真に、クランについて知っていることを教えてくれた。
[クラン・メンダシウム]は、チータープリズンに収監(しゅうかん)されている囚人(チーター)たちの間に形成された派閥としては、最大の規模を誇るものであるらしい。
驚いたことに、囚人(チーター)たちのうち、三割ほどがこのクランに直接、あるいは間接的に参加しているのだという。
クラン・メンダシウムは、[ラクーン]という名の囚人(チーター)を頂点としてできあがった派閥だった。
チートスキルの危険度をあらわすランクでもっとも危険とされるSランクに分類される強力なチーターであるラクーンは、エルフ族の男性であるらしい。
その出身も異世界で、チータープリズンが設立されて間もない時期からずっと収監(しゅうかん)され続けており、[重鎮]として、監獄を運営する側であるカルケルたちにも一定程度の配慮がなされているほど、強い立場を持っている。
一種の特権のようなものも与えられており、ラクーンには専用の牢獄(ろうごく)が与えられ、毎日の朝礼や課業などにも出席しなくていいなど、特別待遇が与えられている。
つまり、監獄を運営する側からも一定の待遇で迎えられているラクーンには、それだけ強い発言力があるということで、多くの囚人(チーター)たちからリーダーとして認められる要因にもなっている。
もう一つのクラン、[アイアンブラッド]は、囚人(チーター)たちの間の一割ほどが関係している派閥であるらしい。
その名前から連想されるとおり、殺伐(さつばつ)とした集団なのだという。
そこに所属している囚人(チーター)たちは、特に戦闘面で強力なチートスキルを持っている者が多く、[力こそが正義]という雰囲気を持っている。
派閥としての規模がクラン・メンダシウムより劣っているのは、この厳格に力を求める雰囲気について行くことのできる、戦闘力の高い囚人(チーター)の数がそれだけしかいない、ということでもある。
同時に、派閥のリーダーである[プルート]は派閥を強化したり維持したりといったことにはまったく無関心であるらしく、この点も、アイアンブラッドの規模がそれほど大きくないことに影響している。
派閥としての大きさであれば、クラン・メンダシウムの方がずっと上だった。
だが、チートスキルの[価値]、誰でも簡単で分かりやすい評価基準である[戦力]として見ると、アイアンブラッドに魅力がある。
和真はその二つの派閥から呼び出しを受けており、結局はどちらもおとずれる必要があったが、まず、どちらをおとずれるべきかを決めなければならなかった。
できれば、自分の特別任務を果たすためにより有用そうなクランと先に会っておきたい。
少しでも早く、日本に帰りたいのだ。
和真は千代とピエトロにお礼を言い、食堂を後にして歩き出しながら、自分がどちらの派閥を先に訪問するかを、すでに決めていた。
クラン・メンダシウム。
まずは、チータープリズンの囚人(チーター)たちの間で最大の派閥であり、より多彩なチートスキルをコピーできるかもしれないクランをおとずれるつもりだった。
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