「特別任務」:1
「俺がこれから目覚めるチートスキルにしかできない、特別任務、ですか? 」
和真は、ヤァスの言葉にいぶかしむような表情を見せる。
刑期を大幅に減らして、元の日常に、日本に帰ることができる。
それは何よりも嬉しいことではあったが、和真はまだ、自分のチートスキルの正体さえ知らないのだ。
「えっと、ヤァス、さん? 俺、まだ自分のチートスキルが何なのかさえ、分からないんですよ? 」
「はい、もちろん、それは存じ上げています。……ですが、何も問題はありません」
不思議そうな顔をしている和真のことを作ったような笑顔で見返しながら、ヤァスは銀縁眼鏡の奥にある自身の双眸(そうぼう)を、怪しく細める。
「和真さんのチートスキルは、確かに、まだ目覚めてはいません。目覚めていないのだから、和真さん自身、どんなチートスキルを持っているのか、ご存じないことも承知しています。ですが、僕はすでに、和真さんのチートスキルの正体を、知っています」
和真はますます疑念を深くし、額にしわをよせた。
当の和真でさえ知らない、和真のチートスキルの正体を、ヤァスがどうして知っているのだろうか?
「実は、和真さん。……僕も、チーターなんですよ」
そして、その唐突なカミングアウトに、和真はきょとんとさせられてしまった。
ヤァスはそんな和真にはかまわず、人当たりの良い笑顔を浮かべたまま言葉を続ける。
「ボクは、[未来視]のチートスキルの持ち主なんです。……実は、そのチートスキルのおかげで、和真さんがこれからチートスキルに目覚めるということ、そして、それがどんなチートスキルなのかも、知っているのです」
[未来視]という言葉を聞いて、和真は、以前同じ言葉を耳にしていたことを思い出していた。
半年以上も姿を消していた長野という青年が突然その姿を現し、シュタルクが彼女の持つチートスキルを暴走させた時のことだ。
事態を鎮静化させるために現れたヤァスに向かって、カルケルが「未来視の力」というような言葉を使っていた。
「ちょ、ちょっと、待てよ」
和真は、自分自身もチートスキルを持つというヤァスの言葉に戸惑い、思わずそう口走っていた。
「ヤァスさん、あんたもチーターだっていうなら、どうして、あんたは囚人(しゅうじん)じゃないんだよ? それどころか、監獄の運営を管理する側にいるなんて、おかしいじゃないか! 」
暗に[不公平だ]という意思の込められた和真の指摘にも、ヤァスはその柔和な笑みを崩さない。
「それは、ボクの持つチートスキル、[未来視]の能力が、監獄を運営する側の人々にとってとても有用で、ボクは[役立(やくだ)たされている]からなのですよ」
ヤァスはティーカップを持ち上げ、カップに半分ほど残った紅茶を揺らしながら、和真に事情を話す。
「ボクも、最初は和真さんと同じように囚人(しゅうじん)としてここに連れてこられました。和真さんから見ると[異世界]、アピスさんと同じ世界から。ですが、僕のチートスキルは、監獄を運営する側に目をつけられました。「未来を見ることができるのなら、チーターの発生を予測し、未然にチーターを拘束することができるのではないか」、とね。それで、ボクは半年ほど前から、管理部のオブザーバーとして働くことになっています」
それからヤァスは紅茶を一口飲み込み、唇を濡(ぬ)らすと、言葉をさらに続ける。
「ボクはこの[未来視]のチートスキルを使って、これまでに何人かのチーターを、チートスキルが発現する前に収監(しゅうかん)してきました。実は、和真さんも、ボクが未来視でチートスキルに目覚めると予見したから、ここに収監されることになったのです」
つまり、和真が日本からプリズントルーパーたちによって連れ去られ、監獄生活を送っている元凶は全て、ヤァスにあるということだった。
だが、和真はもはや、そのことに怒る気にもなれなかった。
ヤァスがあまりにも自然に、いろいろなことを次々と話すせいで、理解するのがやっとでそれについて何か反応をするだけの余裕がなくなってきているのだ。
「そして、和真さん。貴方(あなた)が目覚めることになるチートスキルは、とても、危険なものでした。……それは同時に、ボクが見た[惨劇]を阻止できるかもしれない、大きな希望でもあるのです」
話に追いつくだけでも必死だった和真は、ヤァスのその言葉で、ゴクリ、と生唾を飲んだ。
頭の処理が追いつかなくなってきているが、これから重要なことが話されるというのは、よく理解できたからだ。
「ボクは和真さんに目覚めることになるチートスキルがどんなものなのかを、未来視によって予見しました。そして、ボクが見た[惨劇]、世界の運命を左右するような大きな出来事に、和真さん、貴方(あなた)が深く関わるということも。[惨劇]は、和真さん次第でより恐ろしいものともなり、和真さん次第で防ぐこともできるのです。その[惨劇]を未然に防ぐためには、貴方(あなた)を無理やりにでもここに連行し、監視下に置く他は無かったのです」
ヤァスの言う[惨劇]というものがどんなものなのかは和真には想像もつかなかったが、惨劇、というくらいだから、酷いことなのだろう。
そして、和真はその[惨劇]に、深く関わることになるのだという。
だからこそ、和真はここに連れてこられたのだ。
和真はようやく、自分がここに収監されている理由に、納得がいったような気がし始めていた。
「九百九十九年という刑期も、和真さんのチートスキルの危険性の大きさ、そしてその役割の大きさから、それだけの期間、監視が必要だろうと判断し、ボクが提案したものなのです」
ヤァスはさらにそう言うが、この、[懲役九百九十九年]という数字には、まだ和真は納得がいかなかった。
とても人間が生きられるような時間ではなかったし、どうして、そんなに長い間、収監(しゅうかん)されなければならないのだろうか。
「ボクが見た、これから、和真さんに目覚めるチートスキル。それは」
だが、和真は疑問を口にすることなく、ヤァスの次の言葉を、固唾(かたず)を飲んで待った。
理解するだけでも精一杯で、口を挟む余裕などなかった。
それに、和真が知りたいことは、ヤァスがこれから教えてくれるのだ。
「[劣化コピー]、すなわち、他のチーターのチートスキルを劣化コピーするというものです」
※作者より
和真くんのチートスキルですが、多分他にも似たこと書いてる人はいるだろうと思う(チートスキル小説はたくさんあるので)んですが、熊吉が検索した限りは発見できなかったのでこのまま最後まで使おうと考えています。
たとえ被っている部分があっても、中身はまったく別であるはずなので。
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