「特別任務」:2
そのヤァスの言葉を聞いて、和真は、(うん……? )と、なんとも言い表せないような微妙な気持ちになった。
他のチーターのチートスキルをコピーできる。
それは、分かった。
実際、危険な能力であるのも間違いないだろう。
どんなチートスキルであろうともそれをコピーして使用できるのだから、使い方によっては間違いなく強力なチートだ。
だが、その、コピーという言葉の前に、余計な言葉がついている。
[劣化]という単語がついているのだ。
つまり、和真は他のチーターからチートスキルをコピーすることはできるが、その力はオリジナルには及ばない、ということになる。
これが、どうして、懲役九百九十九年を言い渡されるほど[危険]で、ヤァスが見たという[惨劇]を防ぐ力にもなり得るというのだろうか?
「なんだか、引っかかっているようですね」
ヤァスは、和真が複雑そうな顔をしているのを見て、内心で戸惑っているのを察したのか、説明をつけ加える。
「確かに、和真さんのチートスキルは[劣化コピー]、つまり、オリジナルのチートスキルよりも弱いということですが、そんな部分が思慮に値しないと思えるほど、決定的な特徴があるのです」
「えっと、それは? 」
「コピーできる数に、制限がないのですよ」
思わず聞き返した和真に、ヤァスは不敵な笑みを浮かべる。
「和真さん。貴方(あなた)は、どんなチーターのチートスキルもコピーして使うことができます。それも、より多くのチーターからチートスキルをコピーすればするほど、同時に、いくつものチートスキルを使うことができるんです。……この意味、お分かりになりますよね? 」
和真はヤァスの言葉に、ゴクリと唾(つば)を飲み込み、それから、どうにかうなずき返していた。
例えオリジナルから劣る[劣化コピー]であろうとも、一人でいくつものチートスキルを使うことができるというのは、それはもう、とてつもなく有利なことだ。
相手がどんなチートスキルを持っていようとも、和真は自分がコピーした様々なチートスキルからどんなチートを使うかを選択して対抗することができる。
状況に応じて、その場に適したチートスキルを、自由に使うことができるのだ。
ヤァスが[危険]と言うのも当然だった。
一つ二つ、チートスキルをコピーしただけでは、劣化コピーであるために何の意味も持たないだろう。
だが、それが十になり、百にもなれば、和真はもはや[オンリーワン]であり、[ナンバーワン]にもなれるはずだった。
たとえばジャンケンの勝負で、相手はいつも出せる手が決まっているのに対し、和真はその相手に合わせてどんな手を出すのかを決められるということだ。
「ボクは、貴方(あなた)を[特別]だと考えています」
予想もしていなかった自身のチートスキルの正体に、半ば放心していた和真に、ヤァスは微笑みを浮かべながらさらに語りかける。
「ここ、チータープリズンには、何百人もの囚人(チーター)たちが収監(しゅうかん)されています。その一人として、同じチートスキルを持っている者はいません。その、様々なチートスキルを、和真さん、もし、貴方(あなた)がコピーして使いこなすことができるとしたら? 」
おそらく、和真はどんなチーターをも超えることができるだろう。
そして、和真は、絶対的なチーターとして、[無双]することができるのだ。
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なんだか、あまりにも都合の良すぎる話のような気がした。
確かに和真は自分もできることなら[無双]してみたいとは思っていたが、本当に自分にこんな素晴らしいチートスキルが目覚めるのだろうか?
わずかに和真の中に残った理性が、唐突に明かされた[真実]を知って浮ついている和真に、必死にささやきかけている。
そもそも、ヤァスはどうして和真とここで話をしているのか。
彼の作り物のような笑顔の向こうにはいったいどんな意図があり、そして、和真は彼に、何をさせられようとしているのか。
ヤァスの言う[惨劇]、和真にしか防げないかもしれないそれは、いったい何なのか。
「そ、それで? 」
和真は、いくつものチートスキルを自在に使いこなして無双する自身の姿を想像し、思わず緩(ゆる)みそうになる表情を必死に押さえつけながら、ヤァスに問いただす。
「俺は、何をすればいいんですか? 」
そんな和真の様子に、ヤァスは笑みを深くし、顔を和真へと近づけ、ささやくように言う。
「貴方(あなた)には、ボクと同じように、監獄を運営する側、管理部のオブザーバーとして働いていただきたいのです」
「俺が、管理部で? 」
「そうです。……貴方(あなた)のチートスキル、[劣化コピー]があれば、そのチートスキルで多くのチーターたちからチートをコピーすれば、貴方は[最強]のチーターとなることができる。そして、これから起こる、ボクが見た未来、とてつもない[惨劇]を、防ぐことができるかもしれないのです。……和真さん、貴方(あなた)は、[主役(ヒーロー)]になることができますよ」
それは、陳腐(ちんぷ)な言葉だった。
だが、魅力的だった。
陰キャだとか何とか、陰口を叩かれるような、要領がいいだけの根暗な少年である和真が、物語の主人公となることができる。
和真を中心に、全てが、世界が回り始めると、ヤァスは言うのだ。
和真はその言葉に、我を忘れてしまっていた。
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