「それは何気なく現れた」:4
次に和真が目を覚ました時、和真は、プリズントルーパーたちに乗せられた船の一室にいた。
広さは、四畳半ほどだろうか。
パイプで作られたフレームの上にマットとシーツ、毛布だけがある簡易ベッドと、水洗式便座があるだけの、質素な部屋だ。
テレビで、こんな部屋を見たことがある。
監獄などにある、重い罪を犯した犯罪者を閉じ込めておくための独房だ。
和真はその独房の簡易ベッドの上にあおむけになって寝かされていた。
手にも足にも手錠はかけられていなかったが、首にだけは、何だかよく分からない装置のついた首輪が取りつけられたままとなっている。
「ぅぐっ!? いたっ、いたたたたっ! 」
自分がこの部屋の中では拘束されていないと知った和真は体を起こそうとして、痛みにうめき声をあげた。
捕まるときにプリズントルーパーたちに蹴られた場所がまだひどく痛んだし、スタンガンを当てられた首の辺りは電流で火傷でもしているのか、ヒリヒリと痛む。
一応手当はされているようだったが、怪我は治りきってはいないようだった。
痛みに顔をしかめながら顔を起こした和真は、次に、空腹を覚えていた。
気絶させられてから、いったい、どれだけの時間が経っているのだろう。
独房の中には時計は無く、スマホは家に置いたままになっているから、和真には時間が少しも分からなかった。
独房の中には通気用の小さな通風孔があるだけで外の様子も分からないから、今が昼なのか夜なのかさえ分からない。
ずいぶん長い時間、気絶していたのだろうということだけしか分からなかった。
何か無いかと周囲を見回してみたものの、食べられそうなものは何もなかった。
鋼鈑で作られた無機質な壁と天井、そして床。
後は、部屋の中を死角なく監視できるように設置された、二台の監視カメラがあることを見つけられただけだった。
「おーい、誰か、いませんかァっ! 」
あまりのひもじさに、和真は監視カメラに向かってそう叫んでいた。
プリズントルーパーたちが和真を撃たなかったということは、少なくともかれらには和真を殺すつもりはないということだった。
それはあくまで[まだ]という条件つきのことかもしれなかったが、和真を生かしておくつもりがある以上、食事くらいは出してくれるのではと、和真はそう思っていた。
それは、日本に生まれ、平穏で退屈な、しかし両親が毎日三度の食事を用意してくれるという生活を送って来た和真の、甘い考えだったのかもしれない。
和真は自分が異常事態に巻き込まれているということはよく分かっていたが、そういう、日常的な部分を引きずっていた。
だが、幸いなことに、和真は食事を用意してもらうことができた。
≪食え≫
突然、独房のどこかに設置されているらしいスピーカーからプリズントルーパーの冷酷そうな声が響くと、和真の独房の扉の一部が開き、そこから食事の盛りつけられたトレーが差し込まれた。
ただし、それは[料理]と呼べるようなものではなかった。
いくつかに区分けされたトレーには、メインとなる肉料理、主食となる乾パン、味の想像がつかない派手な色をした二種類のジャム、溶け出さないように表面をコーティングされたチョコレート菓子、コップ一杯の水が用意され、手を汚さずに食べられるように先割れスプーンもあった。
だが、それらは厨房(ちゅうぼう)で料理されたものではなく、レトルトの食品を温めただけのものだ。
いわゆる[軍用レーション]と言われるようなもので、機械的で画一的な、空腹を満たすための[食料]だった。
それでも和真は空腹だったし、贅沢(ぜいたく)や要望など言っていられない。
身体の痛みに顔をしかめながら食事のトレーを手にした和真は、母親の作った[料理]が[特別]であったことに初めて気がつきながら、「いただきます」と言って、その[食料]を食べ始めた。
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和真の独房での生活は、それから数日に及んだ。
船内の密室でも時間間隔が狂わないよう、部屋の照明が自動的に調整されて昼と夜が分けられていたため、和真は目覚めてからの日数を数えることができた。
その間の生活は、退屈なものだった。
和真は独房に閉じ込められたままで、朝と夜に差し入れられる食事をする以外は、ベッドに寝ころんでいるか、部屋の中をうろうろしていることしかできなかった。
せめて、ひとつでもいいから、何かが映し出されるモニターが欲しかった。
テレビでも、ゲームの画面でも何でもいい。
退屈を紛らわせることができるものが欲しかった。
これなら、学校で、眠気を誘う教師の授業を延々と聞かされている方が、はるかにましだった。
その上、和真の生活は二十四時間、監視カメラによって見られている。
和真の側から誰が見ているのか、本当に見られているのかどうかは少しも分からなかったが、独房に備えつけられた監視カメラというのは相手を見張るためのものなのだから、和真は常に誰かに見られていると思わなければならない。
プライバシーも何もない生活には抵抗感が強くあったが、和真はそれに耐える以外の選択肢は用意されていなかった。
そうして何日も続いた独房生活に突然、変化が起こった。
ある朝の食事を終えた後、急に和真の独房にプリズントルーパーたちが姿を現し、和真に手錠をはめて、独房の外へと連行したのだ。
和真は、今度は脱走などたくらまずに、本当にプリズントルーパーに言われた通りに行動した。
ここは船の上で、逃げても無駄だし、痛い目を見るだけだと身体に刻み込まれている。
それに、退屈な監禁生活よりは、何でもいいから変化があった方が嬉しかった。
そうして和真が連れてこられたのは、船の甲板の上だった。
数日ぶりに口にする外の空気、潮風の香りに包まれながら、和真は、船の進行方向にひとつの島があるのを目にしていた。
まだ霞(かすみ)がかかっていてよく見えないし、そこがいったいこの地球のどこにある島なのか見当もつかなかったが、それは、和真がずいぶん久しぶりに見る陸地だった。
そして、どうやら、その島こそが、和真が連れていかれる場所であるようだった。
「ようこそ、プリズンアイランドへ」
息をのんで島の姿を見つめている和真に、プリズントルーパーのひとりがそう和真を軽蔑(けいべつ)するように言った。
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