「それは何気なく現れた」:2

 和真は襲撃者たちによって担ぎあげられると、もはや抵抗する気力もなく、大人しく運ばれていった。


 人間を運ぶようなやり方ではなかった。

 襲撃者たちはまるで物を運ぶかのようなやり方で和真のことを扱っていた。


 和真はドサリと、放り投げられる様に車の荷台に詰め込まれた様だった。

 頭に布袋を被せられてしまったために自分に視力が戻りつつあるのかどうかさえ和真には分からなかったし、布のせいで周囲の音もくぐもってしまって、よく聞き取れなくなってしまっている。


 異変に気づいた母親が悲鳴をあげ、必死になって和真のことを呼ぶ声は何とか布越しにも聞き取ることができた。

 だがそれも、バン、と和真が押し込められた車の扉が強く締め切られてしまうと、まったく聞こえなくなる。


 やがて、和真と襲撃者たちを乗せた車はゆっくりと走り出していった。

 おそらくは大きなトランクルームを持つワンボックスタイプの車で、和真はそのトランクに無造作に積み込まれているのだろうということは何とか推測することができたが、一切の身動きができず、頭に被せられた布袋で目も耳もすさがれてしまった和真にはそれ以上のことは何も分からなかった。


 襲撃者たちは、何者なのか。

 どうして、自分を捕まえたのか。

 どこへ自分を連れて行こうとしているのか。


 そして、自分はいったい、どうなるのか。


 和真にはなんのの説明もされなかった。


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 和真にとって不本意で少しも楽しくないドライブは、かなり長い時間続いた。

 車は和真の家の近所を遠く離れ、高速道路に入って長い距離を走行している、ということだけは何とか分かったが、和真にはやはり、自分がどこに連れ去られようとしているのかはまったく分からなかった。


 不安でしかたが無かった。

 自分を捕まえた相手、自分が捕まった理由、自分がどうなるのか。

 何も分からなかったというのもあるし、襲撃者たちの和真への冷酷な扱いからいって、明るい未来はまったく想像できなかった。


 襲撃者たちに蹴られたり、押さえつけられたりしていたところがジンジンと痛みを訴えかけている。

 青あざができたどころか、腫れてきているのかもしれなかった。


 それでも、和真は沈黙を保っていた。

 襲撃者たちに手当てをしてくれるように頼んだとしても、かえって痛めつけられるのではないかと、怖かったからだ。


 和真には、自分がこんな目に遭う理由が少しも想像できなかった。

 何か悪いことをした覚えや、事件に巻きこまれるようなことに関わった覚えもない。

 和真の家はお金持ちなどではなく、身代金目的で誘拐されるといったことも考えにくい。


 考えてみると、襲撃者たちは不自然さの塊(かたまり)だった。


 白昼堂々と、しかも自宅の玄関先で和真を襲撃し、拉致(らち)した。

 和真を安心させて外におびき出すために、少女を囮に使いさえしている。

 誘拐犯のやり方ではないし、もちろん、警察などのやり方でもない。


 かなり統率の取れた集団であることは間違いなかった。

 ただの男子高校生とはいえ、和真は襲撃者たちに対して何の抵抗もすることができなかったし、その襲撃の計画はよく練られていて、正確に実行されている。


 しかも、襲撃者の一人がどこかへ連絡をしていたことから、彼らはどこかからバックアップを受けていることになる。


 HQ、という呼びかけの単語は、和真も聞いたことがあった。

 以前遊んでいたことがあるFPSのゲームなどで度々耳にした単語で、何かの本部とか、そういう意味で使われの呼び出し符号だった。


 ということは、襲撃者たちは軍隊なのだろうか?


 しかし、自衛隊がわざわざ和真にこんなことをするとは思えなかったし、ましてや、外国の軍隊が、日本にまでやってきて和真をさらう理由など想像もつかない。


 とにかく、何とかして逃げ出さなければならないだろう。

 相手は正体不明。

 これから何をされるのかも分からない。

 そして、少なくとも襲撃者たちは、警察でも自衛隊でもない。


 このまま黙ってされるままになっていては、どんな目に遭わされるか分かったものではないのだ。


 しかし、和真にはどうすることもできなかった。

 両手どころか両足にまで手錠をはめられて身動きが取れない上に、意味は分からないが首輪までされてしまっている。

 おまけに、頭にはすっぽりと布袋が被せられて、何も見えないし、音もくぐもってでしか聞こえてこない。


 どうやら和真の目は失明などしていなかったようで、目を開くと暗い中にも布袋の布地がなんとなく見えるのだが、それがどうしたというのだろう。


 和真を乗せた車はやがて、高速道路を下りて下道に入ったようだった。

 車の速度が明らかに遅くなったし、信号で停止したりしているのか、車は何度も加減速をくり返している。


 和真は襲撃者たちの目的地が近いことを悟り、危機感を強くしたが、やはりどうすることもできなかった。


 そして、長いドライブの後、車は襲撃者たちの目的地へとついてしまったようだった。


 車が停車したかと思うと、和真が押し込められていたトランクが開かれる音がし、襲撃者たちが和真を車の外へと引っ張り出した。

 車のトランクルームから引っ張り出された和真は、鋼鈑のように固くて冷たくてすべすべとした感触の地面の上に放り出されて、身体を打ちつけた痛みでうめき声をあげる。


 襲撃者たちはそんな和真にやはり容赦せず、和真を座らせると、そこで和真の頭に被せられていた布袋を取り去った。


 ようやく視界を取り戻した和真は、周囲の明るさに目がなれておらず、思わず目を細めながら、初めて襲撃者たちの姿をその目にした。


 そして、和真は、驚きのあまり言葉を失った。


 自分をいきなり捕らえた襲撃者たちの正体。


 それは、削除されてしまった動画にちらりと映っていた、漆黒の装甲服に身を包んだ兵士たち、プリズントルーパーだったからだ。

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