自分だけ目覚めたチートスキルで無双できるとでも思いましたか? 残念でした! チートスキル禁止法の成立でチーターは全員監獄送りです♪(完結)

熊吉(モノカキグマ)

「とある少年のありふれた日常」:1


 15歳の高校1年生男子、蔵居 和真(くらい かずま)にとって、それは、なにげない日曜日になるはずだった。


 朝起きて歯を磨き、スマホの画面を見ながら朝食をとり、特撮ヒーローとアニメを見て、後はネットサーフィンをしてもいいし、ゲームをしてもいい。


 和真の自由で自堕落(じだらく)な生活に、文句を言う者は誰もいない。

 両親はテストで平均点より少し上くらいの成績を維持していれば、和真の生活態度について文句を言わないくらい寛容(かんよう)、悪く言えば放任主義の人たちだ。

和真が通う高校はどこにでもありそうな平凡なもので、偏差値は高くないし勉強もキツクは無く、教師たちも学生たちへいくつも宿題を出すようなことはしない。


 和真は、学校の勉強については要領がいい方だった。

 学校の授業を受けながら次のテストでどんな問題が出るのかを予想するのが得意で、「ヤマ」を外したことはほとんどない。

 もちろん、急な小テストや、教師たちの気まぐれによってしくじることはあったが、両親が和真に求める[平均より上]という点数は維持できている。


 教師たちが出した宿題も、金曜日の内にすっかり終わらせてある。

 和真はいわゆる[帰宅部]だったから、時間はたっぷりとあるのだ。


 つまらないことをさっさと終わらせてしまった和真は、土曜、日曜の二連休の間、ずっと自分の好きなことだけをするつもりだった。


 高校に入ってから始めたアルバイトのおかげで和真の懐(ふところ)は暖かく、この前も最新のゲームソフトを買った。

 オンラインで仲間と一緒に遊ぶことができるもので、昨日はずっとそれで遊び、ようやく欲しかった装備一式を整えることができた。

 見た目がかっこいいからと、同じ装備を作ろうとしていたフレンドは装備を作るための素材集めが間に合わず、和真のことをとてもうらやましがっていた。


 とてもいい気分だ。


 和真にはやりたいことが他にもあった。

 今、世間ではやっているスマホのゲームアプリでイベントが実施されており、レアキャラを集めなければならないからだ。

 あまりお金を使い過ぎないようにといつも母親などから注意されるし、アルバイトをするようになってゲームへの課金は全て自分で行うようになったから気をつけてはいるものの、和真はきっと、今月のバイト代の大半をこのゲームに課金してしまうだろう。


 朝食を食べ終え、母親の「もういいの? 」という呼びかけに生返事を返すと、和真は階段を上がって一戸建ての自宅の二階へと向かい、自室に閉じこもってベッドの上に寝ころんだ。


 ゲーム機のスイッチを入れても良かったが、いつもオンラインで遊んでいるフレンドは昨日、「装備一式をそろえるまでは寝ないぞ」と意気込んでいたから、きっと夜ふかしをしたに違いなく、まだ眠っているだろう。

 一人で遊んでもつまらないし、スマホのゲームアプリを始めるといつの間にか課金額がふくれ上がってしまうから、和真はひとまず、スマホで新しい動画でも探そうと思っていた。


 幸い今は6月の月初めでスマホの通信容量にも余裕があるから、こうやってダラダラと、実際にはほとんど興味が無い動画を眺めていても問題ない。

 和真はエアコンのきいた部屋で有名な動画投稿サイトを開き、新着動画を探し始めた。


 そして、和真の視界に、[オススメ]としてひとつの動画が表示される。


 海外から投稿された動画で、タイトルが外国語だから和真には断片的にしか意味が分からなかったのだが、[Cheat]という単語ははっきりと分かった。

 よく見かける単語なのだ。


「また、チーターかよ」


 和真はそうぼやきながらも、その動画を開いていた。


────────────────────────────────────────


 この世界には、チートスキルを身に着けた人々、[チーター]たちが数多く存在している。

 ここ数年になって激増し始め、今や世界中でその存在が認識され始めているチーターたちは、人々にとって嫌われ者であり、憧(あこが)れの的でもあった。


 自分だけが使える最強チートスキルで、思うままに無双する。

 和真だって、一度は憧(あこが)れたことがある。


 神を名乗る怪しい女神が和真の前に現れて、「お前にチートスキルを授けましょう」などと言ってくる夢を見てしまったことがあるほどだ。

 もっとも、飛び起きた和真は、自身が何のチートスキルにも目覚めておらず、何の変化も起きなかったと知って、そんな夢を見てしまった自分のことにかなり嫌気がさしてしまったのだが。


 表面的には、和真は多くの人々と同じように、チーターのことを嫌っていた。

 チートスキルで無双できれば、そのチーターは楽しいに違いなかったが、それに巻き込まれ、つき合わされることになる周囲の人々にとってはたまったものではない。


 多くの人々が、努力や苦労の末にようやく手に入れる結果を、チーターたちは簡単に手にしてしまう。


 不公平だった。


 だが、やはり、自分も何かチートスキルが欲しい。

 和真は、どうしてもそう思ってしまう。


 スマホの画面に表示された動画は、外国に現れたチーターたちが好き勝手に無双している様子を撮影(さつえい)したものだった。

 どうやら手の平から高圧の水流を噴射するというチートスキルを持ったチーターの様で、映画の中でしか見たことが無いような見慣れない街並みの中を、水流を使って飛行したり、それを阻止しようとする警官たちを水流で撃退したりと、自由気ままに振る舞っている。


「あーあ、パトカーがまっぷたつ。ホント、いい迷惑だよなァ」


 和真はそうぼやきながらも、本心ではうらやましくてしかたが無かった。


 和真はなんだかんだ要領よくやってきてはいたが、それでも、全てが自分の思い通りになることなんて無かった。

 たとえば、中学の時に両親のクレジットカードを使い、怒られるほど課金しても手に入らなかったキャラクターがいるし、和真の容貌(ようぼう)はあまりパッとしない、陰キャなどと陰口を言われるようなタイプのもので、女の子からモテた記憶もない。


 自分にも、チートスキルがあれば。


 画面の向こうでチーターがやっていることは[悪いこと]には違いなかったが、それでも、和真は無双するチーターがうらやましかった。

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