6月

更地

 数日ぶりに外に出たら、近所に更地ができていた。取り壊していたアパートが、工事を終えたのだ。

 私は、更地が好きだ。見るとすっきりする。そこで営まれていたはずの人間の営みが、無に帰す。そんな様子が、私には爽快なのだ。

 空き地や空き家ではいけない。そこに元々何かがあって、その姿を知った上で、更地になるのがいい。

 こんなにもあっけなく、人間の営みなんか壊れてしまうんだと思うと、清々しくなる。

 人間の営みは、大層なもののように語られるけれど、実はあっけなく壊れる脆いものだ。


 そのことを、取り壊しの過程を通して、じっくりじっくり教えてくれる。

 立派な家を構えることにも、さして意味はない。死んだらすべて無になるのだから。

 寂しいだろうか。

 私は清々しく思う。

 どうせ死んだら無なのだ。それならば、後悔なく、好きに生きた方がいい。


 更地は、私を前向きにしてくれている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る