第6話 見ないふり

夢の中で賢介はすごく脅えた目で僕を見ていた。

「なんで、なんでそんなことっ…!」

賢介は必死に何かを訴えていた。

現実世界と同じ。賢介は明らかに様子がおかしかった。

虫が怖かったなどと考えたがそれじゃ説明がつかないほど僕の家に来た時に怖がって逃げていった。

何がそんなに怖かったのか。

僕の家は至って普通。大きくも小さくもない一軒家。

何も怖がるものも置いていないのだ。

何を見てそんなに脅えたんだ。

賢介が脅えた時、僕の溜め込んであった生ゴミを見ていた。あの生ゴミが原因だと考えられる。

でも、生ゴミを見て怖がるなんてことあるのだろうか。

量の多さか?確かに今は両親もいないため、1人だ。1ヶ月近く溜めたからと言って3つパンパンの生ゴミが袋に溜まっているのは不自然か。

ん?不自然?自然か不自然かなんて関係ないだろ。

何を考えているんだろうか僕は。

まぁいいや。それよりも今は目の前の賢介と話がしたい。

「賢介。噂、聞いたよ。どうしてあんなこと━━」

「や、やめてくれ!た、助け…あぁ!」

賢介は上手く走れず何度も転びながらも僕から距離をとった。

「ねぇ、待ってよ。話したいことがあるんだよ。何が行けなかったんだ?僕が何かしたか?」

「許してくれ!や、やめて…あぁ!あぁ!」

賢介は泣き喚いた。命乞いをする弱き者と言った感じだ。何がそんなに怖いんだよ。訳分からねぇよ。

僕は賢介とまた仲良くしたい。普通で刺激も何もないけど笑っていられた賢介と一緒にいたあの生活に戻りたいんだ。

「何がそんなに気に食わないんだよ!」

その瞬間、巨大な刃物のようなものが賢介の背後から迫り、貫いた。楠山の時と同様、とてもグロくて鮮明な血飛沫。肉。骨。

…あんな大きな刃物に貫かれれば即死か。

せめて夢の中でだけでも仲良くしたかった…。

話したいこと。賢介とやりたいこと。

きっとまだたくさんあっただろう。

でもこんな夢を見て、賢介には避けられて、僕はもう賢介と今までのようにはいかないのだと悟った。

「さようなら」

僕は泣いていただろうか。悲しんでいただろうか。

悔しくて歯をかみ締めていたのかもしれない。

いいや違うだろう。だって明らかに…


僕の口角は上がっていたんだから。


次の日、目が覚めると生ゴミの入った袋は3つから4つに増えていた。

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