第21話:街へ繰り出し:eastern peninsula

 翌日のこと。


「じゃあ、レモン。あとの事は頼んだぞ」

「お任せください」

「坊主はあまり変な事をするんじゃねぇぞ!」

「しないよ」


 アランが旅立った。


 ハティア殿下がこの国に入ったという情報は確かだが、その後の足跡は辿れていない。


 この国に潜んでいる可能性が高いが、それに加えて自由ギルドの本部がある東の浮島に行っている可能性もある。


 この国での捜索は地の利がある静たちに既に頼んでいるため、東の浮島への調査はアランに任せることにしたのだ。


 ちなみにハティア殿下のことは俺の姉だと説明してある。流石に第二王女と説明すれば、色々と面倒だからだ。そこまでの弱みを見せられるほど信頼ができているわけでもないので。


 そして今。俺は街に繰り出していた。静と彼女のお付きの護衛一人と共に。


「要らないと言いましたよ」

「そういうわけにはいきません」

「もう」


 麗人という言葉が似合うだろう。着物を纏い帯刀した黒髪黒目の女性、雫さんが俺と静の後ろに控えていた。


 その足取りからして、かなりの実力者と分かる。


 彼女は俺の足元、正確には足元の影にチラチラと視線を向けていた。影に潜むレモンの魔物に気が付いているのだろう。


「それで静さん。どうして街に?」


 彼女が俺を街へと連れてきたのだ。できれば、レモンと一緒にハティア殿下の捜索をしたかったのだが。


 それに、この国の争いと妖魔の王について詳しく聞きたい。


「んー。あ、あそこに行きましょう! いい匂いがします!」

「あ、ちょっとっ!」


 巫女服ではなく、桜色の着物を着た静は誤魔化すように俺の手を引っ張り、甘じょっぱい匂いを漂わせる屋台へと向かう。


 みたらし団子を売っているお店だった。


「おじ様! 三本くださいな!」

「はいよ! 嬢ちゃんたち、べっぴんさんだからおまけで全員にもう一本つけてやる!」

「ありがとうございます!」


 花のような笑顔を浮かべてお金を払い、静がみたらし団子を受け取った。


「はい、どうぞです!」

「……ありがとう」

「……感謝します」


 有無を言わさずに渡してくるので、俺と雫さんは受け取った。ニコニコと見つめてくるので、仕方なくみたらし団子を食べた。


「ん! 美味しい!」


 甘じょっぱい香りとモチモチとした食感が口に広がった。とても美味しかった。懐かしい味だった。


 俺は夢中でみたらし団子を一本食べた。もう一本あったので、もう一本も夢中で食べた。


「気に入っていただけて何よりです」

「むぐ」


 静が手ぬぐいで俺のほっぺたを拭いてきた。みたらし団子のタレがついていたらしい。


 とはいえ、急にやられると色々と困惑するし、少し嫌だと思う。顔を背けた。


「もう……では、次はあちらにいきましょう!」

「あ、ちょっと」

「静様っ!」


 静は少し残念そうに唇を尖がらせたが、すぐに俺の手を掴んで駆けだした。雫さんはみたらし団子を慌てて食べて追いかけてきた。


 それから俺は色々な場所に連れまわされた。


「ん。美味しい!」


 たい焼きや饅頭、リンゴ飴などを食べたり。


「うわ! うなぎじゃん! この時期に食えるのっ!?」


 昼飯でうな丼を食べたりした。美味かった。


 食ってばかっりだったが、その頃になると日本での懐かしい食べ物を沢山食べられたためか、それなりにテンションが上がっていた。


 すっかり色々なお店を見てみたくなっていた。 


「ちょっとあの店、見てもいい?」

「どうぞ! ぜひみましょう!」


 町家が並ぶ中で、気になるお店を見つけた。店の前に掛けられた幕に『米屋』と書いてあった。


 つまり、米が売っている店に違いない。


 俺はウキウキで店に入った。


「いらっしゃい!」


 店員がいい笑顔で迎えてくれた。けど、それどころではない。


 前世の祖父母の家はそれなりに田舎にあった。近くには田が多くあり、米農家も多かった。


 だから、幼い頃田舎に帰って近くの子どもたちと遊んでいた時に、お米が貯蔵されている倉庫に入れてもらったことがある。


 土と青臭さ、そしてお米の香りに満ちていた。その匂いはとても印象強かった。


 だから、その匂いをお店で嗅げた時はとても嬉しかった。


「おばさん! お米って売ってるっ?」

「ん? まぁね。去年のに採れたのを売ってるよ。アタシは氷の魔法が使えるからね」


 貯蔵にはある程度冷やす必要があるからな。氷の魔法が使える人はかなり重宝されるだろう。


 って、そんなことはいい。


「じゃあ、売って! たくさん売って!」

「え、いや、たくさんは……」

「あ、そうだよね! じゃあ、売れる分だけでいいから! お願い!」

「ぅん、まぁ、いいけど、お金はもってるのかい?」

「あっ」


 そうだ。この国での通貨はもってないんだ。


 俺は慌ててもっていた鞄に手を突っ込み、“宝物袋”から色々と取り出す。流石に“宝物袋”は見せられないからな。


「お金はもってないけど、これじゃだめっ? 紅玉っていう宝石なんだけど!」

「うぇっ!?」

「あ、だめっ!?」


 この国じゃ価値はないのか。


「じゃあ、これは!? 金剛石! ダイヤモンド! めっちゃ硬くて綺麗でしょ!」

「えっ、いや、それは……」

「じゃあ、金! 黄金だよ!」

「ええっと……」

「宝石は駄目か。じゃあ、これ! 天魔蜘蛛の糸で作った布! 剣とかでも着れなくて、燃えない優れモノだよ! 見た目の綺麗だし、駄目っ!?」

「う、うぅん……」


 反応が悪い。やっぱり物々交換は信用ならないってことか。


「あ、あの、セオ様。お金はわたしが払いますので」

「いや、だって、これは俺の個人的な買い物だし、自分で払わないと」

「いえ、払わせてください! だから、それらをしまってください!」

「静様の言う通りだ! 早くしまえ!」


 静も雫さんも切実に訴えてきた。


 あ、やっぱりこの国でも高価なものだったんだ。店員のおばさんも凄く青ざめているし。


 俺はいそいそと鞄と見せかけた“宝物袋”へと拳大の紅玉やダイヤモンド、金塊などをしまっていく。


「あとでお代分、いや、上乗せした分を渡すから、お米をお願いします! 買ってください!」

「わ、分かりましたから頭をあげてください!」


 土下座する勢いで頭を下げれば、静は慌ててしまった。


「あ、ごめん」

「いえ」


 お米が買えるとなって興奮してしまった。俺は平静を取り戻した。たぶん。


 そうして、店員さんに話を通し、できるだけのお米を用意してもらった。


「今、お出しできるのはこれだけだけど……」

「十分だよ!」


 米俵十二俵分が目の前に並んでいた。


「けど、これを持ち帰るのっ?」

「あ、だいじょうぶ! 特別な鞄があるからね!」


 という名の“宝物袋”ではあるが。


 俺は米俵を〝念動〟で持ち上げて、鞄を通して“宝物袋”に突っ込んでいった。


「「「……」」」

「ん? どうかした?」

「い、いえ」

「そう。けど、ありがとうね! おかげで良いものを買えたよ!」

「それはよかったです」


 俺は店員に深々とお礼をして、米屋を出た。


 それからも、色々なお店で佃煮や海苔、味噌や醤油、漬物などを買えるだけ買った。


「こんなに買っちゃったけど、さっきの宝石とかで足りるよね?」

「十分すぎるくらい足ります!」

「なら、よかった」


 本当にこの国は日本の昔の食材や調味料に溢れていたな。


 家に帰ったら、今日買ったものでロイス父さんたちに日本の料理を振舞おう。故郷の味を知ってもらいたいし、楽しみだ。


 俺はホクホク顔で城に戻った。






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いつも読んで下さりありがとうございます。

面白い、また読みたいなど少しでも何か思いましたら応援や★、感想やレビューなどをお願いします。モチベーションや投稿継続に繋がります。よろしくお願いいたします。



追記(2024/9/21)

諸事情により本作の投稿は一ヵ月ほどお休みさせていただきます。

突然のお知らせになってしまい申し訳ありません。必ず投稿は再開しますので、どうかよろしくお願いします。


追記(2024/11/01)

近況報告のほうで11月の頭に投稿を再開したいと書きましたが、見通しが甘くまだ再開の見込みが立っておりません。一応、11月の中旬の再開を目指していますが、もしかしたら今年をまたいでしまうかもしれません。

よろしくお願いします。

詳しい言い訳は近況報告の方に書いております。

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