第17話:初めての外国でしかも懐かしいので浮かれ調子:On the way 2

 さて、どうするか。城にドナドナされているレモンを眺めながら、俺は悩む。


 このまま俺も城に潜入してもいいが、既に分身体も城に入っている。


 そもそも、俺たちの目的はハティア殿下を探すことだ。城にそんな情報はあるとは思えない。


 なら、俺がするべきことは街での聞き取り調査。


 つまり、俺はまず! あそこに見えるお団子屋さんに向かうべき――


『坊主。ちょっといいか?』

『アラン。どったの?』


 アランから〝念話〟が届いた。


『騎士たちが話していた予言とやらが知りたい』


 騎士? ……ああ、武士のことか。そういえば、武士っていう概念はないもんね。


『それで城に潜入して調査してくれと?』

『アランさん! 流石に危険です! 見た限りかなり腕のたつ人もいます! 調査は私の影の魔物にさせますので』

『いや、レモン。お前の魔物は見つかる。どうやら、聖女かそれに匹敵する存在がこの城の中にいる』

『聖女?』


 聖女ってあの聖女? めっちゃ癒したり浄化したりする力をもつシスターのことだよね?


『ん? 何を言ってるんだ? 聖女は聖女だぞ。神々の権能の一端を扱うことのできる生まれながらに祝福された存在だ』

『じゃあ、ロイス父さんたちとかも? 神々の権能が使えるよね?』

『いや、あれとは違う。いや、ロイスはエルメスさまの恩寵を授かっていたから、聖女以上の存在だが……まぁともかく、魔を知り魔を祓う存在だとでも思っておけ。それがいる』

『本当にですか?』


 レモンが首を傾げる。俺も首を傾げる。


 分身体を通じて“魔力感知”でそれらしき存在を探しているが、見当たらないのだ。


『いや、いる。俺の仙人としての勘がそう言っている』

『まぁ、アランさんの勘はそう外れませんしね……』

『じゃあ、俺は潜入してその聖女とやらを探すよ。たぶん彼女が予言に関わってるんでしょう?』


 聖女と予言の二ワードを並べられて、その関連性を無視することはできない。


『いや、予言と聖女は関係ない……いや、聖女らしい存在だというだけで聖女とは確定していないのか。なら、その可能性も……』


 アランが悩んでいる。


『どっちみち手がかりはそれしかないんだし、ダメだったら次をあたるよ』

『それもそうだな。頼むぞ、セオ。あと、決して危険な真似はするな。ダメだと思ったら全力で逃げろ』

『その時は私たちも全力で暴れますので』

『分かった。二人も気を付けてよね』


 二人ともワザと捕まっている状態だ。だから、いつでも脱出できるわけだけど、それでも危険はある。ちょっと心配だ。


「だからこそ、さっさと予言とやらの調査を終わらせるか」


 俺は美味しそうな匂いを漂わせるお団子屋さんを名残惜しそうに見やりながら、魔術で姿を隠し、“隠者”などで隠密をして城へと向かった。



 Φ



 で、城に潜入した。


「おお、武士がいっぱい。着物を着た人しかないじゃん」


 外の城下町もそうだったけれど、エレガント王国とは違って着物やそれに準ずる服を着ている人しかいない。ちょんまげも多い。


 帯剣も全て刀だし、ザ・日本の昔だ。


 だからこそ、俺は近くの和室の屏風をめくる。


「確か、前世で旅行に行ったときに……あ、あった」


 前世の日本のお城に似ているからもしかしたらと思ったけど、案の上だ。屏風の裏側には人が一人通れるくらいの穴があった。


「こういうのは鉄板だよね……」


 隠し通路とかテンション上がった俺はウッキウッキで穴の中に入って。


「っぉお!」


 ガコンという音と共に床が外れて真下に落ちた。ギリギリのところで縁を掴み、なんとか這い上がも、それと同時にカーン、カーン、カーンと鐘の音が響く。


「侵入者だ! 侵入者を探せ!!」

「つるし上げろ! 晒し上げろ!」

「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」


 ドタバタとこちらに向かってくる足音と、怒声。


 ……うん。どうやら罠に嵌ったみたいだ。


 そりゃそうだよな。屏風の裏なんて鉄板過ぎるもんな。逆に罠を仕掛けるとか、あるもんな。


 くそぅッ!


『セオ様! 大丈夫ですかっ? 今すぐ暴れますよ!』

『だ、大丈夫じゃないけど、大丈夫! まだ暴れなくていいから! 何とか誤魔化せる!』


 俺は“宝物袋”から五つの金属の球体を取り出す。それを急いで細工術で形を変形させて、鼠の形にした。


 そして魔術を発動させて、その鼠を操る。三体は床の穴から下に落とし、二体は和室でクルクルと走らせる。俺は天井に張り付いておく。


 そして十人ほどの武士たちが飛び込んできた。


「っ。鼠だと」

「いや、それはあり得ない。鼠二匹ではあの床板は落ちない――」

「待て」


 鋭い目の男武士が走り回る二匹の鼠の形を金属を見下ろしたかと思うと。


「なっ、からくりっ!?」


 一瞬で抜刀して真っ二つにした。


 他の武士たちが驚く。俺も驚く。抜刀の瞬間が見えなかったからだ。


「こんな生き物そっくりのからくりが……」

「式神と同じような仕組みを利用しているのだろう。からくりの鼠を侵入させて巫女様について探ろうとしたのだ」

「なるほど金属だから重さがあり床下が落ちたのですか」

「ああ。念のため下の穴の方にも人を向かわせ、からくりの鼠を探させろ」

「ハッ」


 何人かの武士が和室から去る。鋭い目の武士が真っ二つにした金属の鼠を手に取る。


「……高い鍛造技術だな。陰陽師どもにこのような力を持つものがいたか?」

「さぁ。あちらの国ではなんとも」

「まぁよい。ともかく、巫女様をあ奴らに奪われてはならない。警備を更に厳重にせよ」

「はっ」


 そして武士たちは和室を去った。


「ふぃー。なんとか事態は切り抜けられたかな」


 俺は流れてもいない冷や汗を拭く仕草をした。


「それにしても巫女様か」


 気になるワードだ。


「まぁ、他にも気になるワードがあったんだよね。陰陽師って……」


 急急如律令とか唱えてそうな連中である。式神とか言っていたし。


 しかも、ここの人たちはそれらと争っているようだ。さてはて、面倒だが……


「まぁ、どっちにしろ、その巫女とやらを探すのが先決かな。聖女と同じ存在かもしれないし」


 ということで、俺は先ほど以上に慎重に隠密して、罠も十分に警戒しながら城を探索する。


 武士たちや女中の会話を盗み聞いたりして、情報収集を行う。特に食事処と台所では丹念に情報を集めた。


 何故、食事処と台所かと言えば、人間である以上食事はするからだ。巫女様がどこにいるか分からないが、結局、食事処に食事を食べにくるか、もしくは女中かそれに準ずる誰かが食事を作って部屋にまで持っていくはずだ。


 そしてそこで収集した情報と、武士たちの警備の配置や盗み見た城の構造図から巫女様とやらがいる位置を大まかに割り出した。


 俺って潜入の天才なのでは?


 あとはその近辺の部屋を片っ端から調べるだけだ。俺は屋根裏に忍び込んで、一つ一つ部屋を確認していく。


「……ここも違うようだね」


 屋根裏の隙間から部屋を見下ろして誰もいないことを確認して、俺は這って移動する。


「最後はこの部屋だけど……」


 そして最後のめぼしい部屋を覗いたのだが……


「……いない」


 巫女様らしい人はいなかった。


 ……俺の推測が間違っていたのか? 


 ま、まぁ、こうゆう潜入調査とか初めてだし、そう上手くいかないよね。別に俺は天才じゃないもん。ただ前世の記憶をもつ一般人だし。うん。


 ……まぁ、ちょっと悔しい。


 そう唇を尖がらせていると、あることに気が付いた。


「あれ? この部屋の下って、確か何もなかったよね?」


 城の構造図では俺が見下ろす部屋の下はちょうど壁の間だ。けれど、“魔力感知”には僅かに魔力の反応があるのだ。


 俺は慎重に屋根裏を取り外して、飛び降りる。そして床の畳みをコンコンと叩く。


「……ここかな」


 畳みを取り外した。階段があった。


「ビンゴ。俺ってやっぱりこういうのが得意なのかも!」


 俺はウッキウキで階段を降りた。


 そして降りた先では。


「お待ちしておりました。異国の勇者様」

「人違いです」


 いわゆる白と朱の巫女服を着た幼くもとても美しい少女が平伏してきた。


 物凄く面倒なことだと直観した俺はクルリと踵をかえした。





======================================

いつも読んで下さりありがとうございます。

面白い、また読みたいなど少しでも何か思いましたら応援や★、感想やレビューなどをお願いします。モチベーションや投稿継続に繋がります。よろしくお願いいたします。


『異国の勇者』と気になるところなのですが、1週間夏休みをいただかせてもらいます。

そのため次回の更新は8月18日とさせていただきます。よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る