第6話:決意はひょんなことから。唐突だ:spring break
俺たちはもう一度王城へ登城することとなった。ハティア殿下の居場所を報告するためだ。
ルーシー様はもちろん、その父親であるバールク公爵も同行している。
そして
「……して?」
「ドルック商会とマキーナルト子爵の助力により、ハティア殿下はヒネ王国にいることが分かりました」
「なるほど」
王様はクラリスさんを見やった。クラリスさんは一瞬だけ面倒そうに顔をしかめたあと、口を開く。
「儂から一つ。ハティア殿下、もしくはエドガーの失踪に関わった人物が一人、特定できた」
「といいますと、両者はやはり関わって」
「うむ。バッグ・グラウスという名の竜人である」
「「えっ!?」」
その名前を聞いて俺とアイラが驚いた声をあげてしまった。だって、知っている名前だったし。
王様が俺とアイラを見やり、そしてアイラへ質問する。
「知っているのか、アイラ」
「は、はい。お父様。バッグ・グラウスは小説家の名前でして。彼が書いた冒険小説はとても有名ですわ」
「小説家……」
それを聞いて、ライン兄さんやユリシア姉さんが小さく「あっ」と呟いた。家には彼の本がいくつもあるのだ。俺の愛読書の一つだ。
俺と同じく驚いた声をあげたのだから、アイラも愛読しているのだろう。
……アイラと感想を語り合いたいな。ふと、そんな事を考えていると、クラリスさんが目を細めている王様たちに補足する。
「ただ、それは仮の名……いや、本名をペンネームにしたといえばよいか。オリバー殿も知っている名としては、ただのバッグ。咆哮のバッグと言えば伝わるか?」
「……神金冒険者か」
「うむ」
神金冒険者。この世に五人といない冒険者の頂点に君臨する存在。一人一人が国と渡り合えるほどの武力を持つと言われている。
クラリスさんもその一人。
ロイス父さんたちは冒険者を止めたため、そのランクにはないが、しかし実力的には神金冒険者と言えるだろう。
……というか、エドガー兄さん、ズルいな。今までの話の流れからしてバッグ・グラウスに会ったっていうことだよな。
ズルい。俺だってサインを貰いたいのに。
「ともかくだ。可能性としてだが、もしかしたら二人ともヒネ王国を経由して東の浮島へと行くつもりではないかと」
「
「可能性としてはそれが一番高いと思える」
東の浮島って確か、冒険者ギルドなどをまとめる自由ギルドの本拠地だよな。空に浮かぶ小さな島にあるらしいけど。
そしてその島に行くルートは二つ。
俺たちが住むエア大陸の最北東に位置するルーロ王国から文字通りの『天の川』、つまり空を流れる川を遡上するルートか、ヒネ王国から『何かしら』を使って昇るルートのどちらか。
その『何かしら』はいろんな文献を読んでもでてこなかった。
というか、ヒネ王国は同じ大陸にあるのにかなりその国の形態が分かっていないんだよな。
半島で、唯一バキサリト王国と繋がっているのだが、その繋がっている部分には高い山脈が聳え立っている。
なので、ヒネ王国に行くにはその山脈を超える必要があり、実質的にヒネ王国は島国みたいなものとなっている。
海から行くルートもあるにはあるのだが、ヒネ王国の周りだけ、潮の流れがとても速くて、一流の航海士でないと外洋へと流されてしまうとか。
っというか、地図を見た限り、そんな複雑な潮の流れが起きるとは思えないし、魔法か、魔物か、それともヘンテコ生物なのか。その全部か。ともかく、妙な力で潮の流れを変えて、外からの人を寄せ付けないようにしている気がするのだ。
まぁ、そういうこともあって、どの国もヒネ王国と国交を結んでいるわけではないのだ。
そこにハティア殿下が向かわれた。大変厄介だ。
難しい顔で少し考え込んでいた王様は、ふと俺たちを見やった。
「まて。そなたらはどうやってハティアがヒネ王国にいると分かった」
「私が支援しているドルック商会がもつ郵便の流通網を通じてです。そのルートを使って私の使用人がハティア殿下の情報網を探った結果――」
「いや、そうではなく、その郵便の流通網はヒネ王国まで通じているのか」
……あれ、どうだったけ?
自由ギルドの傘下、輸送ギルドが持っていた流通網を買い取って使っているからな……
ええっと、“
――繋がっているよ。グラフト王国の港から一艘だけ出ているよ。それに手紙を預けているんだよ。
“
っというか、かなり流暢になっているな。普通に人格もってない?
――魂が成長したからね。僕もセオだし。
……非っ常に気になることを言われた気がするけど、うん、まぁ、後回し。
それで、船でヒネ王国へ行けるものなの? 潮の流れは?
――そこまでは分からないよ。世界の書架にもそこまでの情報は載ってないし。
まぁ、ともかく、船が一艘だけ出ていることは分かったな。ロイス父さんにこの事実を〝念話〟で伝える。ロイス父さんは頷き、王様に答える。
「はい。船が一艘だけ、グラフト王国から出ています」
「船が? どうやって?」
「それはこちらも把握しておらず。地元の船に預けている、と」
「なるほど……」
王様は顎に手を当てて考え込んでしまった。アダルヘルム殿下が声をかける。
「父上」
「ああ、すまない。だが、ようやく考えが纏まった」
それから王様はロイス父さんや他の家臣と交えて話し合いを重ねた。
俺たちは別室へと移され、暇なのでクラリスさんとアイラと話していた。ミロ王子やアダルヘルム王子、ルーシー様も一緒だ。
そっちはユリシア姉さんとライン兄さんに任せる。
「アイラ殿下もバッグ・グラウスの本をお読みに?」
「ええ。セオドラー様もですの?」
他の人もいるので少し堅苦しい言い方になってしまっているが、それでもバッグ・グラウスの小説について感想を言い合えるのが面白い。
あとで、手紙ももっと踏み込んだ感想を交換しよう。
「そういえば、クラリス様はバッグ・グラウスとお知合いですの?」
「うむ。あやつも長生きでな。かなり昔からの付き合いだ。放浪の旅をしていて、中々居場所が掴みづらいやつなのだが」
「ねぇ、バッグ・グラウスって神金冒険者なんだよね。隠密能力って高いの?」
「うむ。高い。高すぎる」
「なるほど……」
今回、ロイス父さんたちが簡単にエドガー兄さんを見つけられなかったのはそれが理由か。
っというか、先日のヂュエルさんが言っていた事を踏まえると、先のダンジョン
なんで、エドガー兄さんたちに協力しているんだろう。それに、バインもハティア殿下と一緒にいるようだし……
色々と知りたいことが多い。というか、やっぱりバッグ・グラウスに直接会ってサインが貰いたいな。
けど、クラリスさんの言いぶりだと、ふらっとどこかに行ってしまう人のようだし……
「ところで、クラリス様はヒネ王国に行ったことがあるの?」
「そういえば、あるの。かなり昔だから、今はどうなっているか分からんが」
「どんな国でしたの?」
「こことはかなり暮らしぶりが違うな。山々や水が豊かな国でな、四季に富んでおった。主食は米だったな」
「米を? 食べられるんですの?」
この世界の米はタイ米を更に不味くしたようなものだ。俺の口には全くもって合わない。エレガント王国の人々の口にも合わない。
「いや、品種が別なのだろう。食感も味も全くもって異なっておっての。そう、あれだ。セオが前に言っていたものに近い」
「あら、セオ様が?」
「俺が?」
首をかしげた。
そういえば、前に日本のお米について話したような気がするけど……
「えっ! あれに似ているのっ?」
「た、たぶんの」
もしかして、こっちに転生してから食べられなかったお米が食べられるっ? マジでッ!?
よし、決めた。今すぐ、ヒネ王国に行こう。
バッグ・グラウスにサインを貰いに、そしてお米を食べにいくぞ!
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いつも読んで下さりありがとうございます。
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新作の『ドワーフの魔術師』を投稿しています。
ドワーフの魔術師がエルフの戦士とわちゃわちゃのんびり世界を旅する物語です。今作と雰囲気が似ていると思いますのでぜひ、読んでください! どうかお願いします!
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