第7話:ルール説明と序盤展開:play money

「一通り説明したけど、分からない事があったらこれから渡すゲームブックを読むか、もしくはゲーム中に遠慮なく聞いて。それとバンカーは俺がやるね」


 一通りエレガント王国版モノ〇リーのルール説明をし、ルール内容が書いてあるルールブックをそれぞれに配った。


 プレイヤーは、俺、ライン兄さん、ユリシア姉さん、レモン、ユナの五人だ。ブラウはレモンと組んでいる。


 そしてサイコロを投げて順番を決めようかとなった時、膝の上にのせているブラウをそのモフモフの尻尾で包んだレモンは、う~ん、と唸る。


「どうしたのよ、レモン」

「いえ、ユリシア様。これ、どう考えてもセオ様が有利だなと思いまして」


 レモンが俺を見た。


「これ、セオ様の前世にあったゲームですよね?」

「ま、まぁ、それをこっち版に改良したけど」

「でしたら、ゲームの攻略情報も知っていますよね? そもそもゲーム制作者なのですから、ある程度の定石は理解しているかと思います」

「……黙秘権を行使します」


 プイっとそっぽを向く。


「バンカーはお金の分配や、その競売を担当しなくてはなりませんから役割としてかなり重要です。セオ様はプレイヤーも兼任するそうですから、まだルールを理解していない私たち相手にズルを働くこともできるでしょう」


 淡々と詰めてくるレモン。


「それにセオ様は投げるサイコロの目を操作できますよね?」

「そ、そんな事は……」

「セオ様の手先の器用さなら可能かと」

「ッ! それだったら、レモンやユリシア姉さんも可能じゃん! それにバンカーは俺一人で担当するから、必然的に競売に参加しにくくなるし不利だよ!」

「……それもそうですね」


 レモンは顎に手を当てて、言う。


「でしたら、セオ様はハンデとして競売への参加不可とゲームスタートの順番を最後にしてください。また、サイコロですがこちらの器に入れて回してください」


 レモンはどこからともなくちいさなお椀を取り出した。


「……分かったよ。けど、お手柔らかにね」

「……優しくはしますよ」


 俺とレモンは意味深に視線を交わす。ユナやユリシア姉さんはコテンと首を傾げていたが、ライン兄さんだけは不審そうに目を細めていた。


 そして、エレガント王国版モ〇ポリーが始まった。ユリシア姉さん、ユナ、レモン、ライン兄さん、俺の順番だ。


「じゃあ、それぞれにお金を配るね」


 俺は緑や赤など、色の着いた紙を配る。


「セオ、これは?」

「それはお金の紙」

「貨幣の紙版ってこと?」

「そう。このゲーム内におけるお金で、さっき渡したルールブックに色に対応した価値が書かれてるよ」

「紙幣ね……橙色が大銀貨一枚か」


 ふぅん、とライン兄さんは面白そうに頷いた。


「じゃあ、私がさいころを振ればいいのよね!」

「うん」


 ユリシア姉さんはお椀にさいころを二つ入れ、振ってボードの上に落とす。


「合計で三ね!」


 ユリシア姉さんは自分の駒を進める。


「ええっと、オーデントリ領地。ここに止まったらどうなるのよ!」

「どうなるのよって、さっき説明したでしょ。まず、オーデントリ領地を購入、つまり永久借用書を買えるわけ。オーデントリ領地は小銀貨四枚だね」

「……ん? その借用書を買ってどうするのよ?」

「ええっと、建物を建てたりして、そのマスに止まった他のプレイヤーからお金が貰えるんだよ」

「……ん? どうやってそんな事ができるのよ? お金を巻き上げるなんてできるわけないじゃない」


 ゲームであるが、どうやらユリシア姉さんの現実的な価値観とぶつかってしまって理解できていないらしい。


 レモンやライン兄さんはさもありなんと頷いているので、ゲーム内容を理解できているようだけど、ユナは少しだけ首を傾げていた。


 俺はユナとユリシア姉さんにできるだけ分かりやすいたとえ話をする。


「そうだね。現実的にはありえないけど、この領地には宿、泊まれる場所が一つもないんだ。住民は一切泊めてくれなくて、周囲には魔物もうじゃうじゃいて野宿すらできる状態じゃない。そこで、その土地の借用書……借用書は分かるよね?」

「それくらいは分かるわ」

「借用書を買った人は、その土地を買うと同時に魔物避けの結界を張る。そしたら、そこは安全で泊まる事ができるでしょ? そしてそこで安全に野宿させてあげるから、そこで泊まる人はお金を払う。ここまでいい?」

「魔物くらい自分で――」

「あ、一般的な人の話ね。自分で魔物避けの結界を張れるとか、夜はどこにも泊まらないとか想定してないよ。ゲーム内だしね」

「え、ええ。そうね」


 ユリシア姉さんは一瞬だけ視線を泳がせ、頷いた。


「でも、野宿だとあまり高い金額を要求できないでしょ」

「確かにそうですね」

「だから、自分でお金を払ってその土地に宿屋を建てる。食事だったり布団だったりがついてくる」

「そうすると、金額設定を高くできるというわけですか」

「そう。そしてその宿のグレードをこの家の数で表すんだ。グレードが上がればもっと高いお金を要求できる」


 俺は小さな家の模型を見せる。本来は質ではなく、数を表すだけなのだが、まぁここは分かりやすさ優先で。


「まぁ、現実的な事を考えるとツッコミどころ満載だけど、あくまでゲームだから。その土地を買って宿のを上げれば、いっぱいお金が貰えると思ってもらっていいよ」

「分かったわ」


 ユリシア姉さんはふふん、と頷く。


「じゃあ、私はこの領地を買うわ! そして宿を建てるわ! グレードは一よ。そして、みんな、ここに泊まりなさい! 私にお金を払うのよ!」

「払うかどうかは、サイコロの出目しだいだから。あと、宿は建てられないよ」


 小銀貨の価値をもつ赤の紙幣四枚と引き換えに、オーデントリ領地の借用書を受け取りウキウキのユリシア姉さんに注意する。


 最初に説明したけど、やっぱり一回で理解できるルールではないしな。俺は丁寧に説明する。


「え、どうしてよ!」

「ボードをよく見て。領地ごとに色分けされているでしょ?」

「確かに」

「同じ色の借用書を全て手に入れて、つまり独占モノ〇リーをするとようやく宿が建てられるんだ」

「……ちぇ、そうなのね」


 ユリシア姉さんは拗ねたように唇を尖がらせた。


「そんなに拗ねないで。他のプレイヤーがそのマスに止まったのにお金が無くて買えなかった場合競売がかけられるし、それにもし自分が欲しい土地を持ってたら、そのプレイヤーと交渉して土地をゲットできるから。そしたら早めに独占モノ〇リーできるよ」

「あら、そうなの! 奪い取る事はできないのかしら!」


 どこの山賊ですか。


「流石にそれはできないけど、交渉次第だね。とはいえ、最低限の交渉ルールはあるから、ルールブックを読んでね」

「……分かったわ」


 交渉ルールが書かれているページを見せると、ユリシア姉さんが少しうへぇとした表情をした。読むのが面倒なのだろう。


 けど、直ぐに表情を切り替える。


「ともかく、いっぱい土地をもって独占モノ〇リーすればお金がいっぱいもらえるのよね! さぁ、皆! そのためにここに止まりなさい! 泊まって私にお金を貢ぐのよ!」

「だから、出目次第だって。あと、貢ぐって言葉は聞こえがわるいから、使わないで」

「分かったわ! セオ、私にお金ちょうだい!」

「……はぁ」


 ポジティブだなぁ、と思いながら俺はユナにサイコロ二つとお椀を渡しながら、尋ねる。


「大体、分かった?」

「はい。ありがとうございます」

「どういたしまして」


 それからユナ、レモン、ライン兄さん、俺の順にサイコロを振った。レモンに関しては本人ではなく、ブラウがサイコロを振っているが。ブラウはお椀にサイコロを入れてボードに落とすのがかなり楽しいらしい。


 そして一巡して、


「なんで、なんで誰も泊まらないのよ!」


 ユリシア姉さんがキレていた。


「まぁ、確率的に合計三の目が出るのって、そんな高くないし」


 一番高いのは合計七だ。


 ちなみにぞろ目を出した場合牢屋いきで、強制的に三ターン休まされる。


「まぁ、序盤なんてこんなものだよ。気にしない気にしない」

「僕なんて所得税とかいうものにお金をぶんどられたしね」


 所得税マス、つまりお金を徴収するマスに止まったライン兄さんは思いっきり拗ねていた。


 そしてジロリと俺を見る。


「それに引き換え、順番が最後のセオが一番幸先いいスタートを切ったよね」

「なんのこと?」

「セオが止まったのはネスト輸送ギルド。今後の展開を踏まえて考えると、ともかくギルド関連の施設を買うのは、有利な気がするんだよね」


 ギルド関連の施設は、前世のモノ〇リーにおける鉄道や公共会社、公共会社の例として挙げられるのは、電力会社や水道会社といった施設だ。


 鉄道に対応する輸送ギルドのマスは四つあり、その各輸送ギルドの権利書を多く入手するほど、そのマスにおけるプレイヤーからの徴収料が増加する。


 一つだけだと緑の紙幣一枚、つまり小銅貨十枚分しか徴収できないのだが、四つ全て揃えていると大銀貨一枚分を徴収することができる。


 他のギルド施設は商業ギルドと冒険者ギルドにしてああり、それぞれ一つづつなのだが、その二つのマスに止まったプレイヤーは必ずサイコロをふりその出目に対応したお金を徴収されてしまう。


 しかも、サイコロの出目を確率で計算した場合、かなり出やすい場所に存在しており、堅実に資金調達ができる場所でもある。


 なので、ライン兄さんの読みは正しい。序盤展開で上位に行けなくとも、これらの権利書を持っているだけで、終盤まで有利に戦えることができたりする。


 まぁ、それをライン兄さんに教える理由はないので、スマシ顔で答える。


「でも、結局、サイコロの出目次第だし、運でしょ? レモンも見ている中で、流石にイカサマはできないし。ライン兄さんも頑張って泊まればいいんだよ」

「……むぅ」


 不服そうなライン兄さんをいなしながら、ユリシア姉さんから順にまたサイコロを振るった。


 それを二回、三回、と繰り繰り返し、全プレイヤーがボードのマス目を三周する頃には、差が生まれてきた。


 そして今のビリ、つまり総資産が少ないのは、


「どうしてこう出目が悪いの!」


 ライン兄さんであった。

 

 ちなみに一位はユリシア姉さんだ。それに追随するように僅差でユナが二位。三位はレモンとブラウチームで四位が俺だ。


 俺の場合サイコロの出目はよかったのだが、競売に参加できないため欲しい土地を先んじて手に入れることができなかったので四位となっている。


 とはいえ、サイコロの出目の運の良さや交渉などによってギルド関連の施設をある程度揃えられてきたので、序盤の展開としてはかなり堅実で有利に進められてはいる。


 序盤展開ももうそろそろ終わり、ここから中盤展開、つまり借用書巡りプレイヤー同士での売買交渉が活発になってくる頃合いである。


 俺が優勝するために、そしてライン兄さんにお金の大切さを教えるために、色々な策略を練って行動しないとな。


 ……レモンと協力して。





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