第50話:噂では15分笑い続けると死ぬとか:the Jealousy and the disappointment 2

 怪獣の宴だ。


 そう思うほど、ギャーギャーやかましい。


「おい、セオ! これはどうするんだ! おい、セオ!」

「おい、エイダン! お前が机を叩いたから、揺れて僕の絵が台無しになった! ふんッ!!」

「ッ! 痛ッッ!? おい、カーター! 殴りやがったな、この野郎!」


 殴りあうアホども。


「フハハハ! 俺が一番綺麗な穴を開けられたぞ!」

「いや、俺だ!」

「嘘を吐くな! 僕が一番だ!」

「やんのか、こらっ!」

「おう、やってやんよ!」

「僕の火魔法で消し炭してやる!!」


 魔法をぶっぱなすアホども。


「アンタ、私のデザインパクったわね!」

「はぁっ!? アナタこそ、私のデザインをパクったのよ!!」

「ねぇ、アナタたちキーキーうるさいんだけど。ガキが」

「はぁっ!? アンタが一番年下でしょ! ちょっと勉強できるからって生意気な!」

「そうよ! 大体、アンタ! ネロ君に好かれて気に食わないのよ!!」

「……ふんっ」

「「ッッ!!」」


 髪を引っ張りあうアホども。


 他にも数人単位で争い始め、喧嘩し始める。


 しかも、


「ッ!! お前ら、〝風きり刃〟がこっちに飛んできたじゃねぇか! 何してくれてんだ!」

「はんっ! お前らがそんな所にいるのが悪いんだ!」

「ちょっと! アンタが突き飛ばしたアホが私にぶつかったんですけどっ! どう責任とってくれるのよ!」

「アホとは何だっ! ブスがッ!」

「キーーーッ!!」


 喧嘩の流れ弾が、他の喧嘩している奴らへとぶつかり、大きな喧嘩へと発展する。そして結局は、この部屋にいる子供たち殆どが喧嘩しあうのだ。


 かれこれ、三回目。二回も喧嘩を収めてたのに、また喧嘩を始めたアホども。


 ここにいるのが、皆、魔法や戦いを覚え始めた五歳以上の子供たちばかりというのもあり、喧嘩に可愛げがない。


 魑魅魍魎の魔物が跋扈しているマキーナルト領の子供と言うべきか、血の気が多すぎる。日本の子供たちの方がまだマシだったぞ。


「はぁ」


 俺は溜息を吐いて、フィンガースナップをした。


 すれば、部屋の中心で揉みくちゃになりながら、殴り合い、魔法を放ちまくっていた子供たちが〝念動〟と〝浮遊〟によって強制的に引き離され、宙に浮く。ついでに、〝魔力糸〟で全員をぐるぐる巻きに縛り付ける。


「おい、こらっ! セオ、放しやがれ!」

「僕は何もしてないぞ!!」

「クソッ! 何も動かせねぇ!!」

「セオ様、卑怯だぞ!」

「女の子に暴力なんて、最低よ! だからアンタモテないのよ!!」

「そうよ! エドガー様はこんな事しなかったわ!」


 他にもボロクソ、俺に向かって暴言が吐かれる。


 ……元気がよろしいことで。


 俺は口元をピクピクと動かした。周りの大人たちやルーシー様、ライン兄さんがヤバッと頬を引きつらせる。が、子供たちの言動が目に余るためか、俺の行動を止めることはない。


 俺は子供たちを拘束している〝魔力糸〟を消し、変わりに無数の魔力の手を空中に生み出す。


 “宝物袋”から取り出した耳栓を大人たちやルーシー様たちに渡して耳に装着しつつ、無数の魔力の手で子供たちの靴を脱がす。


 そして魔力の手で子供たちの足裏や首元、脇に横腹をくすぐる。あと、笑いを誘発しやすくする精神感応系の魔法を発動させる。


「あ、おまっ――ハハハハハハッ!」

「ちょっ、アハハハハハハハ! やめっ、あ、アハハハハハ!!」

「イ~ヒヒヒヒッ! やめて、お願い、やめて!」

「ギャハハぢぬっ! ギャハハハハハわらいぢぬッ!!」

「助けっ! ッヒャハ! ハハハ!!」

「アハハハハハハハ!!」

「キャハハハハハ!」


 割れんばかりの笑い声と悲鳴が響き渡る。あまりのうるささに、建物がガタガタと揺れるほどだ。


 そして一分近く、俺は子供たちをくすぐり続けた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

「し、しぬ……」

「うごけ……ない」

「いき、息がくるしぃ……」

「水、水ぅ」

「はひっ、はっ、はっ、笑いがとまらない……」

「ダメ、もう、むり……」


 子供たちは息も絶え絶えになる。ぐったりした様子で、床に寝っ転がっていた。俺はそんな子供たち〝念動〟で浮かし、自分たちの席に座らせる。ついでに、散らばった道具や材料などを元の場所に戻す。

 

 俺はニコッと笑って、言った。


「まだ騒ぎ足りない子はいる?」

「「「「「「「「……………………………………いない」」」」」」」」


 子供たちは死んだ目で、首を横に振った。笑うというのは、物凄く体力や気力を削るのだ。とても疲れるのだ。


 これで静かになるだろう。


 俺は満足げにうんうんと頷いた。そんな俺を見て、ルーシー様の隣にいたオルがガタガタと震えていた。


 また、そんなオルを見て、ルーシー様は意外そうな、何ともいえない表情になっていた。


「オル……その、アナタはまだ、いい子なのね」

「えっ!? ババア、頭がおかしく――痛ッ!」

「はぁ」


 急に褒められ、慌てるオルの失言に、ルーシー様はイラッときたらしく拳骨を落とす。


 今のはオルが悪いと思う。なんというか、オルはルーシー様にだけ言動が悪いからな。それ以外は、只の元気でうるさい良い子って感じだし。


 それにしても、やっぱり少し意外だったな。オルが喧嘩に参加しなかったの。


 ライン兄さんと一緒に遊んでいたオルは、ライン兄さんについてくる形で耳飾り作りに参加していた。ちょうど、材料の予備もあったので。


 そしてもちろん、オルは他のアホどもに絡まれたりしていたのだが、本人は耳飾りに作ることに夢中になり、アホどもの相手をしなかったのだ。たぶん、アホどもと喧嘩するより、耳飾りを作る方が面白いと思ったのだろう。


 あ、でも、一番凄いのはニューリグリア君だろう。


「ねぇ、ライン君。このエウ様の紋章のこの部分、ラドクリフ地方に伝わる精霊の紋章と似ているんだよ。たぶん、植物関連に対しての人のイメージというのが、文化や言語に関わらず、無意識的に一致している事だと思うんだけど。あ、いや、元々色々な土地に住んでた人が迫害を受けてここに流れてきたからともいえるかな。う~ん、けど、それだと他の地域との文化がもっと混ざっている気がするからなぁ……」

「にゅ、ニュー君はさっきの気にならなったの?」

「さっき?」


 ニューリグリア君はコテンと首を傾げる。


「いや、気になってないならいいんだよ」


 ライン兄さんは苦笑した。


 俺も苦笑するしかない。何せ、ニューリグリア君はさっきの子供たちの笑い叫び声を聞いても、ずっと耳飾りづくりに集中してたから。


 耳栓を身に着けていたわけでなはく、集中力で聞こえてなかったのだ。というか、耳栓を渡そうとしても集中力がヤバすぎて、受け取ってくれなかったし。


 それから俺は分身体で静かになった子供たちをサポートしつつ、自分の耳飾りやお守りを作っていた。


 オルやニューリグリア君も耳飾り作りに参加している事もあり、お手伝いだったルーシー様もご婦人たちの勧めで、耳飾り作りをし始めた。


「セオ様。ここにあのような模様を掘りたいのですが、こんな感じでよろしいのでしょうか?」

「ああ、うん。もう少し彫刻刀を平行にすると、力を入れずに掘りやすくなるよ」

「なるほど、ありがとうございます」


 物を作るのが楽しいのか、固い、というか、作られている感じのルーシー様の表情が、柔らかくなる。


 と、耳飾りを作り終えたライン兄さんが、耳飾りを装着して俺に見せる。


「セオ。どう、似合う?」

「うん、似合ってる。というか、異国の王子様みたいでカッコいいよ」

「ホントっ?」

「うん。服装さえ変えれば、お姫様でもいけると思う」

「……それはちょっと嫌だ」


 ライン兄さんの顔が少し暗くなる。俺は冗談だって、と笑う。


 ちょうど、オルも耳飾りとお守りを作り終えたらしく、俺に見せびらかしてくる。


「セオ、セオ! 俺のもカッコいいか!」

「うん、カッコいいぞ」

「だろ! とくにほら! このお守りを見ろよ! 狼だぜ!! ふふんっ!」

「カッコいい狼だよね」


 ぶっちゃけ言えば、オルは不器用なので、お守りに描かれた狼はかなり不格好ではあったが、オルの顔を見るとそれは言えなくなる。というか、普通にカッコいいのでは? と思えてくる。


 ここら辺が、子供の魅力かもしれない。


 それから、数十分。ようやく、子供たち全員が耳飾りとお守りを作り終えた。


 そしてそれと同時に、


「……ちょっといい?」


 地面から神霊であるエウがニョキっと顔を出したのだった。 







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