第47話:男性陣がメインの講師陣で女性陣がそのサポート。にしても人数差ありすぎ:the Jealousy and the disappointment 2

「あ、あそこ、あそこ」


 俺は、街中は周りよりも二回りほど大きなレンガの家を指さす。


 ここら辺は完全な住宅街のため、観光客もほとんどいない。だから、既に俺もクシフォスさんの肩から降りているし、ルーシー様も手を繋いでいない。


 先陣を切るようにタッタッタッと駆けた俺は、〝無障〟で透明な足場を作って昇り、扉の高い位置にある――五歳児の俺にとって――ドアノッカーを掴んで叩く。


 〝無障〟を切り、家の前で待てば、数秒もするとドアが開く。美麗な灰色の長髪が特徴的な凛々しい女性が、現れた。


 妖人族の一つ、灰の精霊を祖にもつ灰霊族にして、マキーナルト領の放浪兵団副団長のルルネネさんである。


「……これはセオドラー様、どうかしましたか?」

「ほら、あと一時間後くらいにイベントあるでしょ? その手伝いをしにきた。後ろの二人も手伝いって」

「後ろの……ッ!」


 ルルネネさんはルーシー様とクシフォスさんに気がつき、息を飲む。慌てて頭を下げる。


「これは、バールク公爵令嬢様にアイラ王女殿下近衛騎士様」

「そう畏まらなくてもいいですわよ。今日は公爵令嬢として来たわけではないので」

「私もただの騎士でございます」

「……なるほど。ひとまず、中へお入りください」


 ルーシー様とクシフォスさんの言葉を吟味したルルネネさんは、ひとまず俺たちを中に入れてくれた。


 家の中には数十人近い女性と、数人の男性がいた。女性の年齢はかなりバラバラで、若い女性から老婆までいた。男性の方は気難しそうな初老だけである。


 それらの人間がせわしなく、家の中を行ったり来たりしていた。


 そして皆が俺たちに気が付く。


「あら、セオ様じゃない。どうしたの?」

「何? また問題を起こして逃げてきたの?」

「あ、セオ様。もしかして、屋台荒らしして追い出されたのか!」

「そういえば、セオ様対策をしたのに、全て攻略されたとか旦那がほざいてたような」

「それともあれかい? また、男どもをこき使うのかい?」

「いや、私たちへの無茶ぶりもあるね……」


 ……あまり歓迎されている様子ではなかった。まぁ、色々とやらかしてはいるし、いい評判ってわけではないからな。


 ユリシア姉さんが言うには、女性陣にとっての俺は美味しいお菓子のレシピを持ってたり、暇な男どもに仕事を与える存在であると同時に、厄介な種をばら撒く問題児っぽいし。


 そして初老の男性陣は笑顔で俺を出迎えてくれた。


「セオ坊! お前さんが居れば百人力だ!」

「毎年、かなり苦労するからな! ほれ、あの“分身”で文字通り百人だ!」

「助かった! 童たちにひげを引っ張られるのは凄く痛いんだ!」


 ……だいぶ苦労が伺える様子である。そしてその苦労を俺になすりつけようという魂胆が丸見えである。


 そんな大人たちの反応にルーシー様とクシフォスさんが苦笑いしていた。大人たちがルーシー様たちに気が付く。


 ルルネネさんが咳払いして、説明する。


「セオドラー様と一緒に手伝いをしてくださるお方である」

「ルーシーですわ。突然ですが、今日のイベントを手伝わせていただけないかしら? 力仕事でも何でもしますわ」

「クシフォスでございます。私もルーシー様同様、何でもいたします。気遣いは不要でございます」


 男性陣が俺に面倒そうな目を向けた。俺は肩を竦める。けど、女性陣はルーシー様たちを見て鬱陶しがった様子も見せず、むしろ黄色い悲鳴のようなものがあがる。


「ルーシーさんだよね! 数日前に見たときから、話したいと思ってたの! その髪、どうやって手入れしてるの!? ねぇ、それと今、令嬢で流行ってる恋愛小説についてなんだけど――」

「あ、待ってっ。私、私が先よ!」


 若い女性たちが物怖じせずルーシー様に近づき、質問攻め。ルーシー様は少し戸惑いながらも、気さくに接する若い女性たちに微笑みを見せる。


 おばさまたちはクシフォスさんに近づき、身のこなしや魔力の質の良さを褒めている。


 ……たぶん、長くこの土地で生きてきている女性にとって、戦えるということはかなり重要度が高いのだろう。


 そして騎士であるクシフォスさんもそこら辺の価値観に重きがあるため、直ぐに仲良くなる。


 そしてものの数分もしないで女性陣と打ち解けたルーシー様とクシフォスさんは、彼女たちとともに家の奥へと消えていった。


 残されたのは初老の男性陣と俺だけ。困惑したように顔を見合わせ、俺は尋ねた。


「それで、今日って何のイベントをするの?」

「あん、セオ坊。知らないで来たのか?」

「うん。イベントがある事と何か作るって事は聞いてるんだけど、それ以外はさっぱり」

「……はぁ」


 茶色の毛むくじゃらなひげが特徴的な初老の男性、ヴォフォリクがやれやれと溜息を吐く。


 黒狼族で常に眉間に寄った皺が特徴的な初老の男性、ゲオルクが肘でヴォフォリクをどつく。


「セオ様が天然なのは身に染みて分かってるだろ。それより、そんな溜息吐いて機嫌損ねられる方が面倒だぞ。貴重な労働力が逃げる」

「そうだぞ」


 くすんだ金髪の普通に頑固そうな初老が同意する。


 ……いや、さ。俺も自分で、行き当たりばったりな性格だって分かってるけど、ムカつくな、こいつら。


「あ、ほら。セオ様の目がどんどん死んでいってるぞ。このまま存在感がなくなって、いなくなるぞ!」

「捕まえろ! 確保だ、確保!」

「おう!」


 初老たちが俺に手を伸ばす。


「気持ち悪いっ! 女性ならまだしも、お前らに捕まえられて嬉しくないって! 逃げないから、離れろ!」

「お、おう。確かにそうだよな」

「おっさん何かに囲まれても嬉しくないよな」

「分かるぞ。俺も子供のころは若い姉ちゃんたちに囲まれてキャッキャウフフしたいと思ってたからな」


 キャッキャウフフとか、語彙が古いな……


 呆れた目を三人に向けながら、俺はもう一度尋ねる。


「で、結局、何を作るの?」

「耳飾りだよ。それとお守り」

「ああ、あれか」


 マキーナルト領に元々住んでいた人たちの文化の中に、魔除けの耳飾りとお守りというのがある。


 子供が成人するまで魔物に襲われないように祈願するもので、毎年、年に一度大人の戦士が用意した魔物の素材を使って、子供たちが自分たちでその耳飾りとお守りを作るのだ。


 まぁ、今は成人ではなく、十歳までの子供になっているが。安全性が増したため、教育に専念できるようになり、十歳以上の子供なら魔物と戦えるくらいにまで強くなっているので。


 マキーナルト領では戦士か否かが子供かどうかの境目でもあるし。


 けど、冬に入る前のような気がしたけど……


 そんな俺の疑問を読み取ったのか、ヴォフォリクが呆れながら説明する。


「冬の前だと冬支度で忙しいだろ。最近、子供の数がかなり増えてきて、そんな忙しい時期に大勢の子供を相手にやってられるかって話しが出たんだ」

「へぇ、俺それ知らない」

「知らないって、覚えてないの間違いだろ。セオ様も子供なんだから、絶対ロイス様から今日の事伝えられてるだろうし」

「え~、でも、ライン兄さんとかも知らなかったけど……」


 そこまで言って、俺はあることに気が付く。


「あ、やっぱりロイス父さんたち言い忘れてるよ。ゴタゴタがあったせいで」

「ゴタゴタ? そういえば、さっき、若い娘たちがユリシア様について何か言ってたような」

「そう、それ。それでロイス父さんもアテナ母さんも冷静じゃないっていうか……」


 俺はやれやれと肩を竦めた。そして“分身”を二体召喚して、一体を屋敷へ。もう一体をライン兄さんの所へと向かわせる。


「これでライン兄さんとブラウも来ると思うよ」

「そうか。まぁ、最悪ルルネネに転移で連れてきて貰えばいいから、そこら辺はいいんだが」


 男性陣三人がガクブルと肩を震わせる。


「子供たちはジッとしてられん。騒ぐ暴れる寝る」

「最低限、作り方などを工夫しているとはいえ、刃物も使う。喧嘩で斬りあいし出した馬鹿も過去にいる」

「あと、魔法を暴発させる子もいるやもしれん。特に幼い子ら」


 息ぴったりに説明する三人。仲いいな、こいつら。


「つまり、俺が“分身”で一人一人危険がないように見てやればいいのね? ああ、それと作り方と材料の確認もさせて。あと、作業場も」

「ああ、もちろんだ」


 そして俺はヴォフォリクたちと色々確認を行った。 






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