第16話:いつも通りの逃走と捕獲。お約束:painting

 ものすご~く嫌なタイミングで登場してきたロイス父さん。その手には四つの手紙があった。


「あ、僕、ちょっと部屋に戻るよ」

「え、あっ!」


 俺がトンカントンカン音を鳴らしてスマートボールを作ってた時も全く反応しなかったライン兄さんが、バッと起き上がると同時に読んでいた本を脇に抱えて、ロイス父さんの脇をすり抜けてリビングから出ようとした。


「わ、私もブラウのおむつ変えなきゃ!」

「あう?」


 ユリシア姉さんもブラウをさっと抱き上げ、ライン兄さんと同じようにロイス父さんの脇をすり抜けて部屋を出ようとした。


 しかし、


「忙しいところ悪いけど、少しだけ時間をちょうだい?」

「う、うん」

「は、はい」


 ロイス父さんが二人の頭を優しく触り、そういった。


 ライン兄さんもユリシア姉さんもロイス父さんのその言葉に逆らえず、動きを止めて頷いてしまう。


 とぼとぼともといた場所に戻った。


 そしてロイス父さんはどうせ逃げられないと悟っていた俺を見やって、


「セオ。どこに行くの?」


 転移した。


「はぁっ!? 何でッ!?」


 場所は既に外。


 “分身”と“隠者”。それから、エウから貰った〝神樹の祝福〟の能力の一つ、エウの御神木、つまり天高くそびえ立つトリートエウの根っこがある場所内なら自由に転移できる力。


 俺はロイス父さんが帰ってきた時に脳内にかき鳴らされた危機感アラームに従って、俺の身代わりとなる分身体を創造し、“隠者”と〝神樹の祝福〟の転移で逃げたのだ。


 バレない自信があったのだ! なのに!


 既にラート街にまで逃げ込んだ俺は、屋根を伝って走る。ロイス父さんが空を駆けて追いかけてくる。


「魔力痕跡を残し過ぎなんだよ、セオ!」

「残してないよ! 魔力感知も併用して、一切痕跡が残らないようにッ!」

「それでも少しだけあったし。セオの魔力感知はまだまだ甘いんだよ」

「いやいや、甘いとかそういう次元じゃないでしょ!」


 俺はそう言いながら、無属性魔法の〝光球〟を応用した閃光弾を放つ。同時に、俺自身の魔力を周囲に拡散させる。


 そして俺は閃光に紛れて、裏路地に飛び降りる。“隠者”などを併用して、飛び降りた場所で隠れる。


 ここで裏路地を逃げるのは逆に悪手。動き回るのは危険だ。


 何故なら、普段の俺は裏路地に隠れた後も油断せずに移動してロイス父さんから遠ざかろうとするからだ。


 つまり、灯台下暗し。


 わざと動かないことによって、ロイス父さんが自ら遠くに行ってもらう。


 ロイス父さんの魔力感知は俺よりも優れているらしいが、だからこそ閃光と一緒に俺の魔力を大量にばらまいた。


 これでここら周囲一帯は俺の魔力が満ちて、ロイス父さんは常に俺の魔力を感じ取っている状態になる。木を隠すなら森である。


 抜かりはな――


「セオ?」

「ッ!!」


 後ろにロイス父さんがいた。見抜かれていたのだ。


 俺はロイス父さんの姿に驚き息を飲み、


「偽物だよッ!!」


 ニィッと嗤った。

 

 俺の……いや分身体が光りだす。


 これも灯台下暗し作戦もブラフ。トラップなのだ!


 本体の俺は既に街の外に逃げている。


 街の一部の地面の下にもトリートエウの根っこがある。魔力拡散はそこにまで及んでいて、本体の俺は既にそこまで逃げて〝神樹の祝福〟で転移したのだ。


 ついでに、数十体の分身体もマキーナルト領に散った。


 収穫祭の準備で忙しいロイス父さんは俺の捜索に時間は掛けられないだろう。


「俺の方が一枚上手だったね! ロイス父さん!」

「ちょ、待って!」


 分身体が自爆した。ロイス父さんがそれに巻き込まれた。



「……ふぅ」


 そのさまを遠くで確認しながら、俺は安堵の溜息を吐いた。


「危ない危ない。絶対、あの手紙は絶対に面倒極まりないやつだよ。どうせ、貴族が来るから案内しろとかそんな感じでしょ。もしかしたら、俺たちとの同年代もいるかもしれないし、面倒」


 ぶつくさとそう呟きながら、俺は屋敷にいる分身体を通してユリシア姉さんとライン兄さんの様子を探る。


 二人ともロイス父さんが俺を追いかけている間に逃げようとしていた。


 しかし、


「あ、捕まった」


 屋敷に戻ったロイス父さんによって捕まり、リビングに連れ戻されていた。


 俺はロイス父さんが屋敷に戻ったのを確認したので、屋敷にいた分身体を消す。ついでに、完成してあったスマートボールも“宝物袋”で回収した。


「さて、どうやって時間をつぶそうかな」


 ロイス父さんも夕食の時まで無粋な話をすることはないだろうし、それ以外は収穫祭の準備でとても忙しいから、俺がノコノコとロイス父さんの目の前にでも現れない限り問題ない。


 だから、夕食まで何で時間を潰そうと考えたとき、


「え」


 膨大な魔力、そう、アテナ母さんの魔力が一瞬で俺を包み込んだ。


 そして、


「ようやく揃ったね」


 俺はロイス父さんの前に現れた。屋敷のリビングに俺はいた。アテナ母さんによってロイス父さんの目の前に転移させられたのだ。


 唖然とするしかない。


 ロイス父さんがにこやかな笑顔で答える。


「もともとセオが逃げることは想定内だったんだよ。こういうことに関してのセオの危機感知能力はピカ一だからね」

「そ、それはどうも」

「だから、街で仕事をしているアテナに事前に頼んでいたんだよ。セオと分身体の意志のパスを監視して欲しいって。用心深いセオは必ず僕の様子を探るはずだからね。そして案の定、ここにいた分身体を通じて帰ってきた僕の様子を探った」

「あ」


 つまり、俺がロイス父さんを確認した際の分身体との僅かな魔力の繋がりを感知して、アテナ母さんは場所を割り出したのか。


 しかも、アテナ母さんはここにおらず、街で仕事をしているのだ。いくら魔力感知が広く、優れていたとしても俺だってそれなりに隠密の腕はある。


 ソフィアとの特訓のおかげで放出魔力まで偽装できるようになったのだ。


 ある程度俺がいる場所を想定していなければ、分身体との魔力で繋がってる意志のパスを感じ取ることはできない。


 ロイス父さんがイケメンスマイルで言った。

 

「セオ。僕の方が一枚上手だったね」

「うっ」


 俺は項垂れた。



 Φ



「それで何の用なのよ!」


 ブラウをぎゅっと抱きしめながら、頬を膨らませたユリシア姉さんがロイス父さんを睨む。

 

 ロイス父さんは苦笑いしながら、手に持っていた四つ手紙を見せる。


「今回、収穫祭にはそれなりの貴族が来るけど、街にある来客用の屋敷に滞在してもらう。あと、来るのは武闘派というか、騎士団関係や軍関係の人が多いから、貴族のような堅苦しいのはあんまりない。ちょっと、手合わせとかはあるかもしれないけど」

「それで?」

「だから、その方々は問題ない」


 そう強く頷いたロイス父さんにライン兄さんが胡乱な目を向ける。


「“は”ってことは、そうじゃない人がいるんでしょ。ぶっちゃけ、この紋章を見るだけで想像つくけどさ」


 ライン兄さんは思いっきり顔をしかめ、四つの手紙の封蝋の刻印を見た。俺の眉間にも皺がよる。


 ユリシア姉さんはう~んう~んとうなっていた。たぶん、見たことあるような、ないようなって感じで唸っているんだと思う。ブラウが真似して唸る。


「大公爵と王族だね。前もだけど、死之行進デスマーチの慰労という名目上、あの方々が率先して動かなきゃいけない。もともと国の災害だったから」

「つまり、王族か、それに血縁関係のある大公爵が来るってことなの!? 嫌よ! 面倒じゃない! 特にあの自分、お花畑ですわ! とか装いながら、裏でこそこそやってるあの女狐が来るなんて嫌よ! エドガーがいないのに!」

「えおあいないおに!」


 ユリシア姉さんがバッと立ち上がり、嫌々と首を横に振る。ブラウが面白そうにそれを真似する。


 俺は隣にいたライン兄さんにこしょっと尋ねた。


「お花畑って誰?」

「ッ。駄目だよ、お花畑なんて! ハティア王女殿下のこと!」

「ああ。確かにめっちゃぽわぽわしてたしな。それでいて、かなり頭が回るような感じだったし」


 ユリシア姉さんが言いたいことも分かった。


 けど、なんか、ユリシア姉さん、物凄くガタガタ震えているんだよな。面倒とかよりも恐怖って感じがする。


 ライン兄さんがそれに気が付いたようでこっそりと教えてくれる。


「僕も詳しく知らないんだけど、エド兄がいうには飼い主らしいよ」

「飼い主?」

「うん。昔、怒り狂ったユリ姉をたしなめたんだって。物凄い手際だったって言ってた。それ以来、逆らえないとか」

「へぇ~」


 そういえば、同じ年だからな。英雄ロイス父さんの子供として、王族と話す機会もそれなりに多かっただろう。


 と、その時、


「ユリシア、落ち着いて。王族が来るわけじゃないから」


 ロイス父さんがそういった。


  





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いつも読んで下さりありがとうございます。

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また、カクヨムマラソンのこともあり、外伝としてエドガーの物語を書いています。

投稿頻度はこっちに引っ張られ、基本不定期ですが、ぜひ読んでいってください。

『英雄の息子は英雄になりたい~エドガー・マキーナルトの野望~』

https://kakuyomu.jp/works/16817330653959025735


 

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