第15話:ゲームを邪魔されたらキレる。特に対戦してるときは:painting

 エドガー兄さんが王都に旅立って数日。


 昼食を終え、収穫祭で大人たちが忙しく暇なのでうちが建っているキーナ丘で昼寝をしていた頃。


「アル!!」

「リュネ!!」

「ケン!!」

「ッ!」


 アルたちが急に虚空から現れた。


 俺は飛び起きる。


「アル! リュネ! ケン!」


 俺は落ちてくるアルたちをぎゅっと抱きしめた。一週間近く、アルたちがいなくなったので心配していたのだ。


 それから一分近く。


 アルたちを存分に抱きしめた後、俺は尋ねる。


「それでアルたちはどこに行ってたの?」

「アルアル」

「リュネ」

「ケンケン」


 ……うん。教えてくれないか。ロイス父さんやアテナ母さんも教えてくれなかったしな。


 理由があるんだろう。


 いつも俺にべったりのアルたちが、俺に内緒でどこかに行ったとしても、うん、分かってる。


 ……ちょっと寂しい気がするが、うん、しょうがない。


「ところで、ミズチやユキは?」

「アルル」

「リューネネ」

「ケン」


 なるほど。ミズチはライン兄さんに、ユキはレモンのところに帰ったと。各々、自分たちが一番好きな人に最初に会いたかったと。


 嬉しいな。


 と、思考が逸れた。


 つまり、家に帰ればいるのか。レモンは家で仕事しているらしいし、ライン兄さんは本を読んでいたはずだしな。


 昼寝にも飽きたし、帰るか。



 Φ


 

「ただま~」

「……お帰り」


 家に帰り、リビングに行けば、ライン兄さんが首にミズチを巻きながら、ソファーで寝っ転がり分厚い本を読んでいた。


 返事は返すが、見向きもしない。


 まぁ、いつも通りだ。集中しているライン兄さんが返事を返した方がマシと言えよう。


 なので、俺も同じだ。


「さて、暇だし進めるか」


 “宝物袋”から取り出したるは、どこにでもある木材。両手で持てるくらいの大きさに既に加工してある。


 と、


「アルル!」

「リュネ!」

「ケン!」

「あ、こら! それは駄目ッ!」


 木とか花とかが大好きすぎるアルたちが勝手にそれを部屋に運ぼうとしたため、慌てて取り上げる。


 それからアルたちに今から物を作るから、と伝え、代わりに昼寝している時に飾ったらいいかなと思って摘んだ花を渡す。

 

「アル! アル!」

「リューネ。リュリュ」

「ケケンッ! ケン!」


 その花を受け取ったアルたちは、部屋のどこに飾るかを語り合いだしたので、しばらくは大人しいだろう。


 その内にロイス父さんに頼まれていたことを終わらせないとな。


「最初はパチンコを作ってみるか。バネとかもあるだろうし、釘もある」


 足りない材料や道具を“宝物袋”から更に取り出し、俺はリビングの一角を使って工具を始める。


 風魔術を使いながら、材木をカットしたりする。


 ……難しいな。


「収穫祭での屋台の遊びだしな。夏祭り的でいいから、賭博要素はある程度外したいよな。っつか、ならパチンコというよりスマートボールの方がいいか。横の方が打ちやすいだろうし、夏祭り感がある」


 収穫祭は内輪的な部分が大きい。そして大抵、内輪で大人たちが集まるといえば、酒を飲んで騒ぐだけが多い。


 が、ここ最近はようやく出生率も上がり、子供が増えたこともあり、また、外から移住してきた若い人たちも少なからずいる。


 そういう人も楽しめるアイデアがないかと言われ、祭り関連で夏祭りとかな遊びをいくつか提案したのだが、思いついたのがそれなりに道具を使うもので、作る時間も人手もないとのこと。


 つまり、俺が作れということだ。


 まぁ、義手関連もひと段落したし、他にもやるべきことなどはあまりない。ドルック商会に関しても先々月王都に行ったときに、従業員は集めたので、彼らに丸投げしている。


 ぶっちゃけ、俺もライン兄さんも開発とかが担当であって、商業戦略とかはあんまり得意じゃないからな。


 お飾りの社長みたいなもので、下に丸投げしているのだ。


 とはいえ、毎日上がってくる報告書はきちんと読んでいるが。……分身体が。


 ほんと、“分身”の能力スキルは本当に助かってる。なんせ、もう一人の自分がいるみたいなもんだからな。単純計算で生きている時間が二倍になるのだ。


 とはいえ、デメリットも大きい。魔力消費がかなりでかいのだ。たぶん、常人なら十分発動させるのもかなり苦労するだろう。


 しかし、赤ちゃんの頃から魔力訓練はしてきたからな。一応、魔力量だけならアテナ母さんに近いのだ。


 ともあれ、


「これでいいかな?」


 風魔法や“細工術”、あとは金槌などと言った工具を使ってトンカントンカンすること、数十分。


 小学生の図工で作った感じのスマートボールが完成した。


「急いで作ったから、ところどころ雑だけど、まぁ味があっていいか。あ、けど、このままだと、面白くないかも」

 

 完成したスマートボールを見下ろして、そう感じる。手作り感はいいとしても、木目とかがガッツリ見えているんだよな。


 普通は宇宙とか動物の絵とかが描いてあるし、そっちの方がなんかワクワクするんだよな。恐竜の絵とか描いてあって、ティラノサウルスの口の中にボールが入ると楽しいし。


 得点とかも描かないといけないし……


 そう思って、俺はチラリと本を読んでいるライン兄さんを見やる。


「む。まだ、時間がかかりそうだな……」


 ライン兄さんは本読むの邪魔すると、ものすごく不機嫌になって手が付けれられない状態になるからな。


 特に、ソファーとかベッドとかに寝っ転がって読んでいるときはものすごくリラックスして、自分の世界に入り込んでいる時だし。


 駄目だな、と思ったとき、


「あら、アンタ。帰ってきてたの?」

「えお!」

「あ、ユリシア姉さんにブラウ」


 ブラウを抱っこしていたユリシア姉さんが現れた。二階のユリシア姉さんの自室で遊んでいて、飽きたから降りてきたのだろう。気配で、二階にいたのは知っていたし。


 ここ最近、ユリシア姉さんはブラウを自分の持ち物と言わんばかりに、常に一緒にいるんだよね。


 昔、自分が持っていたぬいぐるみとかで遊んだり、週二ほどで行うアダド森林の魔物間引きとかで稼いだお金を使って赤ちゃん用の洋服を買って着せ替え遊びをしている。


 まぁ、俺もライン兄さんも弟だったからな。


 妹ができてそりゃあ、嬉しいのだろう。最初はあんまり妹して実感が湧かなかったらしいが。


 ユリシア姉さんに言わせれば赤ちゃんだと、男も女も大して変わんないんだと。一歳を超えたあたりから、違いがでるとか。


 正直、分からん。


「それで、アンタ。何してんのよ」

「あ~う?」

「あ、ブラウ。それは危ないから、めっ! だよ」

「めっ……?」

「そうそう、めっ!」


 ブラウが床に散らばっていた木材の切れ端や釘を手に取ろうとしたので、駄目と伝えて、俺はブラウが触って怪我しそうな物を“宝物袋”にしまっていく。


 それから無視したせいで少し不機嫌になっているユリシア姉さんの質問に答える。


「スマートボールだよ」

「スマートボール?」

「お~る?」


 ユリシア姉さんとブラウが首をかしげる。


「ほら、ロイス父さんから屋台で出す遊びを考えてって言われてさ」

「ああ、そういえばそうだったわね。今年は去年の死之行進デスマーチの慰労もあって、商人とか貴族とかもたくさん来るらしいし、宣伝もしたらしいから王都からも旅人がそれなりに来るんだったわね」

「え、何それ。俺、そこまで聞いてないんだけど」


 何、慰労って。凄く面倒くさそうな名前なんだけど。


 ってか、慰労って身内感でやるなら楽しんだけど、外部の人が付き合いでやると大抵つまらなくて、面倒なものになるからな……


 そんな表情を読み取ったのか、ユリシア姉さんは頷く。


「アンタが産まれる前に一度、死之行進デスマーチの慰労って言ってそれなりの貴族が押し寄せて来たけど、面倒そうだったわよ。ほら、死之行進デスマーチの慰労とかじゃないと、貴族って家に来れないし。だから、父さんたちが疲れていたわ」

「だよね」

「ええ。けど、まぁ私たちには関係ないわ。そうのは父さんたちに押し付ければいいのよ!」

「いいおよ!」


 ユリシア姉さんがドヤ顔でそういえば、ブラウがキャッキャと真似をする。


 そして、


「残念ながら、それは無理だね」


 ちょうど先ほど、帰ってきたロイス父さんが首を横に振った。手には三枚の手紙を持っていた。


 ……嫌な予感しかしない。







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いつも読んで下さりありがとうございます。

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また、カクヨムマラソンのこともあり、外伝としてエドガーの物語を書いています。

投稿頻度はこっちに引っ張られ、基本不定期ですが、ぜひ読んでいってください。

『英雄の息子は英雄になりたい~エドガー・マキーナルトの野望~』

https://kakuyomu.jp/works/16817330653959025735

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