第14話:物語だとこんな感じに言っておけば仲間になるよね。え、フラグ?:Second encounter

 未だにバインは起きない。気絶している。


「どうする?」

「どうしようね。引っ叩く?」

「じゃあライン兄さんがやってよ。言い出しっぺだし」

「え、セオがしてよ」


 嫌だよ。引っ叩くなんてしたくない。俺の手が痛くなる。


 そんな表情をすれば、ライン兄さんは溜息を吐く。それから、お肉を食べる。どうやら、叩き起こすのはやめたらしい。


「今日中に起きるかな?」

「起きるでしょ。たぶん。まぁ、起きなくても魔力は覚えたから王都にいる限り探せるし、今日でなくてもいいんだけどさ」

「確かに。ホント、ソフィアに教えてもらって良かったよね。セオの場合、分身体を使えば感知範囲と精度も上がるんでしょ?」


 俺は頷きながら、お肉を噛む。頬張る。リスみたいかもしれない。


 アテナ母さんたちの前だとこんな事できないからな。俺もライン兄さんもしてしまうのだ。ハメを外す。


「……んぅ。ここは……」


 と、口にいっぱい食べ物を入れたせいでうまく飲み込めず、苦難していた時、くぐもった声が聞こえた。


 バインが起きたらしい。


 何度か目をしばたたかせたあと、気絶する前のことを思いだしたらしく、頭を抱える。髪の毛をかきむしる。


「まめるも」

「はへるほ」

「……はぁ?」


 バインが間抜けな顔を俺たちに向ける。それから怪訝そうに眉をひそめる。


 いや、俺もライン兄さんも口に食べ物を入れた状態だったため、キチンと言えなかった。


「「ほっとまっへ」」

「あ、ああ」


 俺とライン兄さんは広げた片手をバインに向け、少し待ってもらう。それから急いでもぎゅもぎゅと口の中の食べ物を噛み、果実水で飲み干す。


 それから二人そろって、


「「禿げるよ」」


 さっき言いたかったことを言った。


 そしたらバインは顔を赤くして怒鳴る。


「ッ! 禿げねぇよ! まだ若いわ!」

「若くてもそうかきむしったら禿げるんだって」

「ソフィアがよく言ってたよ。優秀な苦労人の青年が数年後に禿げてることが多いんだって」

「ッ!」


 バインが「ああ、クソッ」と言いながら、頭をかきむしろうとして、やめる。少ししてからゆっくりと大きな溜息を吐く。


 そして俺とライン兄さんに胡乱な目を向ける。


「で、王国どころか、大陸の名のある商人が、いや様々な貴族が注目しているツクルとガンサクが俺になんのようだ?」

「え、そんなに注目されてるの?」

「てっきり、王国内だけだと。ぶっちゃけ、ロイス父さんたちの伝手欲しさに色々と話がくると思ってたんだけど……」

「だよね。そんな感じの匂わせた手紙が多かったし」


 俺とライン兄さんが軽く驚く。


「……マジかよ」


 バインが再び溜息を吐く。ホント、一気に老け込んできたな。朝出会った若々しい青年姿はないぞ。


「あのな。親任せにしてるとしても、お前たち名義で商会を運営してるんだったら、評判くらいキチンと把握しておけ。子供だろうが関係ないぞ」


 そう言ったバインが指を使って数えていく。どうやら、注目ポイントを押してくれるらしい。


「一つ。そもそもツクルは一昨年突如と現れ、既存の魔道具とは比べ物にならない物を作り上げた魔道具師。それでここ十年ちょっとで大陸にも名を轟かせるアカサ・サリアス商会に新たな魔道具を提供していた奴だぞ。しかも、裏に英雄様がいるような匂わせもあった。商人たちが引き抜き縁作りに躍起になるのは当たり前だろう。……ってか、セオって今五歳だったか? ってことは、マジかよ。三歳であの魔道具を創ったのかよ。いや、英雄様が……それはないか。アカサ・サリアス商会はそこらへんに厳格だからな」


 バインがもの凄い目で俺を見てくる。恐ろしさが少し混じっている気がするが、それでも敬意と驚愕が占めているか?


 まぁ、いいか。


「二つ目。ドルック商会がここ半年以上毎月発行している月刊誌。ここ最近になって、その月刊誌に乗っているいくつかの技術が王国のお抱え魔道具師が学会と職人ギルド合同で魔道具発展保護のために技術登録意見書を提出したのもある。あれで、魔道具を扱う多くの商人がドルック商会を注視し始めた」

「ああ、そんな要請があったような……。クラリスさんが書いても問題ないって言ってたから書いたのに、なんか凄く怒られたんだよね。俺、そんなおかしなこと書いてなかったと思うんだけどさ……」

「そうそう。だいたい、ドルック商会は魔道具の商会じゃなくて、出版の商会なのにさ。そっちで注目してもらいたいよ」

「うんうん」

「はぁ……」


 バインが深い溜息を吐く。俺たちに呆れた表情を向ける。


「三つ目。これもつい最近だが、筆記ギルドとの共同事業の開始を発表しただろ。あれで、商人だけじゃなく貴族も注視しだした。タイプライターにより人件費が大幅に削れるのもあるが、手紙の権益を危惧するものもでてきている」

「あれ? タイプライターの件って公表したっけ?」

「いや、してないけど……そこらへんは俺が関わったから、キッチリしていると思うし……」


 俺はそう言いながら、“宝物袋”から書類の束を取り出す。筆記ギルドとの事業書だ。文字は全てタイプライターで打たれている。


 俺が分身体を駆使して書いたので、大体の書いたある場所は覚えてる。そのページをめくり、一読する。


「うん、やっぱり最初の発表時ではタイプライターの件は秘匿になってたけど……やっぱり漏れたか」

「やっぱり?」

「うん。俺たちはアカサ・サリアス商会側だから色々ときっちりしてるけど、向こうはギルド。しかも、筆記ギルドは数百年以上体制とか変わらなかったんだよ? そこらへんは結構甘いと思ってたから、ある程度予想してたんだ」

「へぇ、そうなんだ」


 ライン兄さんが初めて知ったと言わんばかりの表情をする。俺がジト目を向ける。


「一応、言ったと思うし、事業資料を渡したよね?」

「い、いや……」

「まぁいいや。けど、駆け出し商人のバインにまで漏れてるとは思わなかった。計画を早めるかな……」


 バッとそっぽを向き、ピューピューと口笛を吹くライン兄さんに溜息を吐く。それから俺がポツリと呟けば、バインが割って入る。


「いや、俺は優秀な情報屋が知り合いにいるだけだ。知っているのは、上位貴族とそのひも付きの商会が主だな。後は、大物商会か」

「へぇー」

「ってか、俺の前にそんな話をしていいのか? その書類だって、見えてんぞ」 


 バインが心底呆れた表情を俺に向ける。


 俺は良い笑顔で頷く。


「見せてんだよ。バイン」

「……チッ」


 バインが顔をしかめて舌打ちする。幼児に向かって舌打ちとは。まぁ、いいけど。


「……で、四つ目。ガンサクがつい最近、処女作を競売にかけただろ」

「あ、うん。ちょっとした落書きだったけど……」


 は? 


 ライン兄さんのアトリエにいっぱい気合入れて描いたやつあったじゃん。なんで、公式に競売にかける処女作が、落書きなんだよ……


「なんで処女作を落書きにしたの?」


 少し語気を強くして尋ねれば、ライン兄さんが少しだけ頬を引きつらせて答える。


「なんか、そっちの方が面白いかなって……。ほら、自信作を出すより、なんか良い感じしない?」

「全くもってひねくれてるよ、ライン兄さん。だいたい、みんな真剣に取り組んで真剣に公表してるんだよ。そう手抜きした奴を出すのは、失礼だと思うけど」

「うっ。……しょ、しょうがないじゃん」


 そうライン兄さんがしょぼしょぼという。


 何か隠してるな。


 が、ここで問い詰めても仕方ないか。

 

 俺がそう思った時、バインがライン兄さんに呆れた表情を向ける。


「芸術家たちをこぞって嫉妬させたあの絵が落書きか」

「……うっ」


 ライン兄さんが少しだけ申し訳ないような表情をする。バインも何かに気が付いたのか、それ以上はツッコまない。


 そして俺たちに飄々ひょうひょうとした笑みを浮かべながら、鋭い瞳を向ける。

 

「他にも片手では数えきれないほどの話題をドルック商会は持ってるんだ。それこそアカサ・サリアス商会の時よりもお前たちは注目されてんだぞ」


 バインはそれから溜息を吐く。今日で何度目だろうか?


「それなのに坊主たちときたら……」


 よし、ここだな。


 俺とライン兄さんが目配せする。


「なら、バイン。僕たちの下で働かない? 俺たち甘いからさ、そこらへんを管理してくれないかな?」

「今日ので確信したけど、バイン、駆け出しの商人どころか、一介の商人以上の目も知識もあるよね。その声も大きな力だし」


 最初からこれが目的。


「坊主たち、ありがたい提案だが――」


 もちろん、バインはそれを少しだけ予期していたらしく、少しだけ目を見開きながら、直ぐに断ろうとする。


 だが、逃がさない。


「あ、そう? じゃあ、これ、知ってる?」

「ッ」


 俺は“宝物袋”から数枚の書類を出す。


 それを見てバインが頬を引きつらせる。


「自由ギルドが保証している特別登録書。魔道具に関する設計登録みたいなものだけど、俺、これの許可書をバインにおろしてないんだよ。つまり、今日売っていた魔道具の全て、これに違反するけど? もちろん、知ってるよね」

「き、汚いぞ!」

「俺、五歳児。まだ子供で純粋だよ?」

「嘘つけっ!」


 バインが頬を引きつらせる。ついでにライン兄さんが俺にジト目を向ける。え、酷くない? 俺だって純粋な子供だと思うんだけど。


 そんな俺の心情は放っておき、バインは真剣な表情を俺たちに向ける。


「だいたい、俺は登録されている魔道具を一つも使ってない! あれは、俺の知り合いが作った物だ。登録書だってあるぞ」

「ふぅん」


 やっぱりか。ほとんど似てたけど、少しだけ違う部分があった。というよりは、一部だけ売るから、必要ない回路機能を切断してたんだよな。


 まぁ、それも含めて色々と知りたいし、できれば引き込んでおきたいのはある。将来、面倒な商売敵になりそうだし、商売人としての倫理観とかもしっかり植え付けておきたいなぁと思ったりもするし。


 だが、表情を見る限り、どうやらバインの意志は固いらしい。


 なので、俺は柏手を打つ。


「分かった。なら、アカサ・サリアス商会に紹介するのは?」

「……それも断る」

「そう」


 俺は席を立つ。とは言っても俺は五歳児なので、椅子に立つことになるんだが。


 ライン兄さんもいいの? といった表情を向けながら立ち上がる。俺は問題ない、と頷く。


 “宝物袋”から一枚の紙とペンダントを取り出す。


「これ、俺たちがいる場所。で、こっちは王都にあるアカサ・サリアス商会支部の専用ペンダントで、これがあれば上に通して貰えるよ」


 バインの前に置く。


「バイン。俺はバインが商会で働いてくれたら、とてつもなく面白いことになると思っている。理由はないし、ただの直感だね。たまたま俺の魔道具の一部を面白いことで売っていたのもあるのかもしれない」


 俺は続ける。


「ただ、バインの声がいいと思った。その声で商品を語り、売り出すバインの姿が普通に格好いいと思った。まぁ、人の商品に小細工加えて売るのはどうかと思ったりもするけれど」

「僕も。能力抜きにバインが楽しそうなんだよ。あと、セオが少し怒っているのが面白かったし」

「ライン兄さん?」

「何でもないよ」


 バインは黙り込む。


「まぁ、あと一週間近くいるからさ。気が向いたら来てくれると嬉しい。それに俺がいうのもなんだけど滅多にないチャンスだと思うよ」

「じゃあね。バイン、ここに夕食代置いておくから」


 俺とライン兄さんは椅子から飛び降りて、お金を置く。


「あ、ちょっとま――」


 じゃあね、と言って、バインが言い終わる前にサササッとお店から出た。



 Φ



「セオ、あれで良かったの?」

「大丈夫大丈夫。たいてい、あんな感じのことを言っておけば来てもらえるだろうし。それに、言ったことも本心だからさ」

「ふぅん」


 俺とライン兄さんは夜風に辺りながら、屋敷へと戻った。






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