訳あって異世界で宝飾師に弟子入りすることになりました

蜜蜂

第一章 始まりは大草原

目覚めたら大草原

「どこ、ここ?」

思わず声をあげてしまったけれど返事はない。

 

 そりゃそうだ。周りには人影どころか、民家も見当たらない。

だだっ広い大草原。その真ん中に私はぽつんと立ち尽くしていた。


 目が覚めたら。大草原。

嘘でしょ。嘘すぎでしょ。

ちゃんと自分の部屋の自分のベッドに入って寝たよ。ここどこよ?

とりあえず、人のいるところを探そうと一歩踏み出した瞬間。


「動くな!」

見知らぬ男性の声と一緒に足元に矢が飛んできた。

「ひぇ!」

おぉ、ひぇっ! て本当に言うもんだね。

咄嗟にでた言葉に自分で感心……している場合じゃない!


「何者だ!」

矢と自分の発言に驚いている間に目の前には馬に乗った男性二名。

金髪のいかつい方はボウガンを私にしっかり向けている。

足元にあるボウガンはこいつが放ったに違いない。

……っていうか馬にボウガン?

何? もしかして、私、やばい人に絡まれてる?


「ジェード、ちょっと待ってよ。怯えてるじゃん」

銀髪の方が金髪にそう言いながら馬から降りてくる。

なるほど金髪の名前はジェードっていうんだ。


「おい! セレスタ、うかつに近寄るな!」

なるほど銀髪はセレスタ、と。


「大丈夫? ここは領主様のお庭で普通の人は立ち入り禁止なんだけど、君、どこから来たの?」

領主様? っていうか、ここ日本だよね?

目の前の二人は日本語を話しているけれど、どう考えても日本人には見えない。

えっ? 何? 

私、寝ている間にテーマパークにでも迷い込んだの? 夢遊病にでもなった?

それともまだ寝てる? 夢? 夢にしてはリアル過ぎない?


「えっと、言葉わかる?」

「おい! 何とか言ったらどうなんだ!」

いつまでも何も言わない私にセレスタが困った顔を、そして、ジェードが再度ボウガンを構える。


「あっ、えっと、言葉はわかります! 怪しい者でもないです! 領主様のお庭とは知らず」

「噓をつくな! この辺りで領主様のお庭を知らない奴などいるわけないだろう!」

「いやいや、本当に知らないんですって」

慌てて答える私にジェードが眉間の皺を深くし、今にもボウガンを打とうとする。


「ちょっと、待って! 話せばわかる!」

「もう、うるさい! ジェード、少し黙って!」

私とセレスタがほぼ同時に叫ぶ。

そして何を思ったかセレスタは持っていた剣でジェードのボウガンを叩き落とした。

もちろん鞘に入ったままだったけれど。


「とりあえず馬から降りる! 女の子の前だよ!」

突然のことに凍り付く私とジェードを無視して、セレスタが言葉を続ける。

すると唖然としたまま、すごすごと馬から降りるジェード。


「そして、謝る!」

「……ごめんなさい」

いや、ジェード、あなたは何も悪いことはしていないと思うよ。


「よし! そして、君!」

「はっ、はい!」

今度はこっちに来た。


「君は領主様のお庭に入り込んだ不審者なの! そこのところ自覚して! ちゃんと答えてくれれば手荒なことはしないから!」

「はい!」

思わず背筋を伸ばして返事をする。

えっ? 何? この人、ちょっと怖い……


「よし。じゃあ、少し話を聞きたいので、一緒にきてください」

「えっ、あの、私……」

「いいから、きてください!」

「はい!」

何? どこへ連れていかれるの? 私、どうなっちゃうの?


ここがどこなのか? そしてどこへ連れていかれるのか?

全くわからないまま、私はセレスタの馬に乗せられて、大草原、改め、領主様のお庭を後にした。

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