無題(Into The Fire)

@ayumi78

無題(Into The Fire)

ボクら死神にも、たまには休日がある。大体月に1回位かな?それ以外は文字通り昼夜問わず働いてる。もちろん日本でいうところの盆も正月も。で、今日はそのたまの休みになる、はずだった。

「すまんが、今日は出てくれないか?人手が足りないんだよ」

「えー?せっかくの休みやのに?」

「いや、この地域の死神は足りている。が、足りない地域もあるんだよ。特に最近足りなくなった地域があってな」

ピンときた。あそこか。

世界には沢山の国と地域がある。全ての国と地域が平和なら問題はないけれども、紛争や内乱、クーデターなんかで国がめちゃくちゃなところも沢山ある。

その国の内部だけならまだしも、他の国が絡んできて、色々な事をやってくれたりもする。

「さっきミサイルが発射されて、街の中が吹き飛んだそうだ」

「了解。ほな、行ってきます」

やれやれ、休暇はお預けやな。


「よっ、と。……これは凄いな」

上空から地上を見てみる。あちこちに爆撃の跡、穴だらけになったビル、ひっくり返ったバス、そして……

「……酷いな」

と、同じく派遣された死神仲間が呟いた。

「せやな。予想超えてるわ」

「お前でもか……」

「まあ、これに近いのは経験済みやけどな。行くで」

ボク等は大鎌を取り出し、現場へと向かって降りて行った。

聞こえるのは泣き声と呻き声と怒声、それから

「おい、それはこっちの領域じゃない。信仰が違うじゃないか!」

「こっちだってそうだ!これはそっちで面倒見ろよ!」

小競り合いをする奴等。おそらくボク等と同様に派遣されてきた死神達だろう。

目の前の魂を救うより、信仰の是非を問うのかよ……

小競り合いを見て、そいつらの周りに仲間が寄り集まってきた。もう爆発寸前だ。

「おい、まただよ」

「あいつら下っ端じゃないか?集めて持って帰るだけなのに、なんで」

そう、集めるだけなんだ。窓口は同じだけど、そこから更に分けられ、それぞれの信仰に応じた場所に連れていく。これが黄泉のルールだ。

なのに……

「さわるな!」

「難癖つけてきたのはそっちだろ!」

あー、もうイラつく……

「おい!お前ら!」ボクは我知らず怒鳴っていた。

「ええ加減にせえ!今は信仰の話をしてる場合ちゃうやろ!目の前が見えへんのか!こいつら彷徨わせたままでいいんか!喧嘩は後にせえ!退け!ボクが1人でやる!」

怒りにまかせて大鎌を振るう。

ボクの仲間も、「こいつの言う通りだな。信仰心は素晴らしいが」

と言いながら、「けどよ」

と、今度はボクに向かって「我を忘れるなよ」と苦言を呈した。

「ごめん」

「とりあえずあいつらはほっといて、こっちはこっちの仕事をするぞ」

「そうね。ここは子供の魂も沢山いるから、人手がいくらあっても足りない」

あんな奴らに構ってる暇はないよ。

「せやな。悪かった」

冷静に、冷静に……

気持ちを切り替えて、ボクは目の前の事だけに集中した。


「とりあえず終わったな」

「せやなあ、さすがに疲れたわ」

回収している間も、魂はどんどん増えていく。こういう時用に、と渡された大きな籠も、みるみるうちに満杯になった。幾つも取り替えて、ようやく人心地ついたところだ。

「その……さっきは済まなかった。君の言った通りだ」

後ろから、さっき小競り合いをしていた奴らがおずおずと声をかけてきた。

「もうええよ、片付いたし。今度はあんな事せんといてな」

ひらひらと手を振りながらボクが言うと、「あんたの事聞いたんだ」と言ってくる。

「へえ?誰に?」

「私等の上役だ。知り合いだったんだな」

「あ、知ってるよ。昔世話になったからさ」

「意外にキャリアが長いんだな」

「まあ、この見た目やし。これもほぼコスプレ」

ボクがさっと腕を振るうと、いわゆる「死神」の姿になった。右手には籠、左手には大鎌を持ち、頭の上から黒いローブを被っているという、あれだ。

亡者や魂を怖がらせてはいけない、優しく接する事。あの時学んだ事は、今でも記憶に残っている。

「せやから」

また元の姿に戻って、

「今はこっちの方が楽。」

世界中を巻き込んだあの大戦争でデビューして、あちこちの戦場で魂を救ってきた。戦火の中や大量の人々が殺害された場所、そんな場所にボクもいた。何をどうしたらいいのか分からなくて立ちすくむボクに、「目の前の事に集中しなさい。とにかく魂を救いなさい」と助言してくれた大先輩がいた。その人がこいつらの上役だったなんて、

「世間は狭いな」とつくづく思う。

さ、今日はこれで終わり。「あんたら、宗教の違いよりも大事な事があるって分かったやろ?次はちゃんと仕事してや」と言い残し、ボクらは帰り支度を始める。

「…あの人、元気やったんやな。今度会いに行くか」

空はいつしか白み始めている。さて、またいつもの場所で頑張りますか、と1人呟いて、この場所に別れを告げた

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