第四章の三 出発

 神々の春の宴から、季節は更に進み、新緑の季節となっていた。

 寒々しかった景色に緑が息づき、また新たな命が輝きだす。そんなゴールデンウィークのある日。

 倉田奏くらたかなでは田んぼのあぜ道を歩いていた。早いところでは既に田植えが終わっており、薄い緑が風に揺れている。

 すると空からヤタガラスが舞い降りてきた。


「あら、ヤタガラスじゃない」


 奏の言葉にヤタガラスはかぁ、と一鳴きする。そしてぴょこぴょこと跳ねていた。これはまた新たな依頼がツクヨミのところに届いたのだろう。

 奏はそうあたりをつけると、ゆっくりとヤタガラスを追いかける。

 柔らかい新芽が芽吹く山を登っていくと開けた場所に出た。そこにはほこらが一つ。そして見知った顔の二人の少年少女が立っていた。


「奏、おっそーい!」


 少女が少し頬を膨らませながら言う。


「あずささんも、かなり遅かったですけどね」

結人ゆいと、うるさい」


 あずさと結人の変わらない掛け合いを見ていると、奏は微笑ましく思えてくる。


「ごめんなさいね~」


 奏は笑顔で二人のもとへと歩いていく。

 さて、今回は誰からのどんな依頼なのだろうか。


「受験生なんだから、ちょっとは手加減して欲しいものだわ」


 あずさと結人は進級し、三年生になっていた。今年度は受験生と言うことになる。しかし神々にそんなことは関係なかった。

 新たな依頼を携えたツクヨミが、ほこらの後ろから出てくる。


「みんな、集まってるね」


 ツクヨミは三人を認めるとにっこり微笑んでいた。


「ツクヨミ! 私たち、受験生なの! 今年はもうちょっと手加減した依頼にしてよね!」


 あずさの言葉にツクヨミは、はいはいと受け流している。

 そしてツクヨミがほこらへと声を掛ける。

 そこから一つの影が現れる。今回の依頼者のようだ。

 新緑の季節、最初の依頼はどのようなものなのか。奏は少しワクワクする自分がいるのに気付いていた。去年の自分からは考えられない。

 新たな出発にはもってこいの晴天の下、奏は依頼者となる神を迎えるのだった。

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神様と妖の静穏化 彩女莉瑠 @kazuno

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