第三章の七 三日間③
現世で待っていた奏は、イザナギの態度の報告を受けた。
「あらまぁ、そんなことがあったのね」
奏はにこにこ笑っていた。自分の命がかかっていることなのに、何故こんなにも笑っていられるのだろうか。あずさと結人は疑問に思っていた。
「何故、笑っていられるのですか?」
結人の質問に、奏は、
「なるようにしかならないもの」
そう言って笑っていた。
「それに、アマテラス様とツクヨミ様がいらっしゃるなら、何とかなるような気がするの」
にっこり笑いながら言う奏に、あずさは翌日の黄泉の国での
三日目。
奏、あずさ、結人、そしてツクヨミとアマテラスが揃って、ヤタガラスの導きにより黄泉の国の入り口へと集まっていた。
「行こうか」
ツクヨミの言葉に全員が頷いて中へと入っていく。
最初にあったはずの
遠めでも分かるシルエットがある。
「期日だ」
良く澄んだ声で
暗闇の中、あずさたちは前に進み出る。そして
「アマテラスと、ツクヨミ……?」
驚きを隠しきれない声で言う
「母様……?」
「母上……?」
アマテラスとツクヨミは
イザナミは、イザナギが来ると思っていたため
「愛しい我が子、何故ここへ……?」
イザナミの言葉に、アマテラスとツクヨミが答える。
「父の代わりに参りました」
「あの人は、どうしていますか?」
「元気にやっていますよ」
三柱はしばらく話し込んでいるようだった。
「今は何をしているのですか?」
イザナミの言葉に、アマテラスとツクヨミがあずさの方を向いて答えた。
「あの者の守護をしております」
「人間の、守護?」
「あの者は、神の願いを叶える、唯一の存在なのです」
アマテラスとツクヨミの言葉に、イザナミの無い瞳が少し揺らいだ気がした。
「私の願いは、叶えてくれなかった……」
イザナミの声は震えていた。
「母様、僕たちが来たことで、どうかその人間を返してはくれないでしょうか」
ツクヨミが提案する。重い沈黙が流れる中、イザナミは口を開いた。
「愛しい我が子。答えは、否だ」
「何故です?」
「約束、だからな。『あの男』を連れてくることが」
そして奏に向かってイザナミは手を伸ばす。
「さぁ、
その時だった。
「来たぞ」
「イザナギ……?」
声のする方を一同が振り返ると、短い銀髪の男の姿があった。イザナギだ。
「また
イザナギは冗談めいて言う。
イザナギの姿を認めたイザナミの無い瞳からぽろぽろと涙が流れている。
「イザナギ……。酷いです」
「悪かった」
イザナギとイザナミにはそれだけで話が通じたようだった。
「イザナミ様、イザナギ様がいらっしゃいました。約束です。奏を、私たちに返してください」
あずさが言う。イザナミは分かった、と言うと奏を傍へと呼んだ。
「この者の魂はここにあるべき物ではない。元の世界へ戻れ」
イザナミの言葉が終わると、奏の霊体は小さな粒子となって消えて行った。
「本当に、神の願いを叶える人間がいるのだな……」
イザナミはそう言ってあずさたちを眺めた。
「さぁ、愛しい我が子、そして人間と
「イザナミは?」
あずさの言葉にイザナミは寂しそうに微笑んだように見えた。
「私は、
そしてイザナギのほうを見つめる。イザナギもイザナミを見つめていた。今度は逃げたりせず、しっかりと愛しい妻だった神の姿を目に焼き付けているようだった。
「父上、行きましょう」
アマテラスに促され、イザナギはその場を後にするのだった。
現世に戻ってきた一同は、何故ここに来たのかとイザナギに質問していた。
「外見だけを愛していた、と思われたくなかったのでな」
イザナギはそれだけ言うと、一足先に
「父上は素直ではないな」
アマテラスが微苦笑しながら言った。そしてアマテラスも
「早く
ツクヨミにそう促される。それを聞いたあずさがはっとして、急いで帰ろう、と結人をせっつくのだった。
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