第三章の七 三日間①
さて、三人が人間界へと帰ってきた一日目は、もうとっぷりと日が暮れていた。無言のまま人間界に帰ってきた三人だったが、その無言を破ったのは奏の言葉だった。
「あずさちゃん、
その言葉に、あずさはキレた。
「このっ! 馬鹿っ!」
突如浴びせられた罵声に、奏はどうしたら良いのか分からない。
「こういう時は『ごめんなさい』じゃなくて『ありがとう』なの! なのに、奏は最近ずっと謝ってばかりで……」
あずさは込み上げて来る涙を押し殺しながら主張する。その顔を見た奏は申し訳なさが込み上げて来るものの、もう『ごめんなさい』とは言わなかった。代わりに、
「ありがとう、あずさちゃん」
あずさはいつものように微笑む奏に安堵する。
「あぁ、あずさちゃんに触れられないのは不便だわ」
「えっ?」
突然の奏の発言にあずさはどきっとする。
「頭をぽんぽんしてあげたいのに、この身体じゃ出来ないわね」
奏は苦笑しながら続けた。あずさは何だか肩透かしを食らったような気分になる。
「じゃあ、代わりに僕がしましょうか?」
今まで黙っていた結人が口を開いた。あずさは、二人に向かって子ども扱いしないで! と叫ぶ。
そんな会話をしていたら、もうあずさの家の前まで来ていた。
「送ってくれてありがとう! また明日ね!」
あずさはそう言うと、ぱたぱたと家の中へと駆け込むのだった。
奏は結人の部屋へと案内されていた。
霊体のままでは自宅へ帰っても仕方がないのだ。
「お邪魔します」
奏は結人へと言う。そして床に寝そべっている自分の遺体と対面することになった。
「あら、アタシ本当に死んじゃってるのね」
奏は困ったように笑って言った。
「でも、結人くんまで黄泉の国へ来てくれるなんて思ってなかったわ」
奏はあずさと一緒にいた結人の姿を思い出してくすりと笑いながら言った。
「自分でも、どうしてあの行動に出たのか、分かりかねます」
結人はそう呟く。
実際、結人には何故あずさと共に黄泉の国へと行ったのか、本当の理由が分からなかった。ただ、奏の
それを聞いた奏は優しく微笑んでいた。
「ありがとう、結人くん」
そして、今日はもう夜も遅いので寝ましょう、と提案する。
結人は妖怪なので別に寝なくても平気ではあったのだが、明日から『ある男』を探さなくてはいけない。
そのためにも体力は温存しておくべきだろうと判断し、結人は浅い眠りへと落ちていくのだった。
翌日。
結人の部屋には奏とあずさの姿があった。三人は
「アタシね、その男について少し心当たりがあるの」
口を開いたのは奏だった。
「誰っ?」
「イザナギ、よ」
「イザナギ?」
「ツクヨミ様とアマテラス様のお父様、と言ったら分かりやすいかしら」
あずさの疑問に微苦笑しながら答える奏。そして話は国作りの時代にまで
イザナギにはイザナミと言う妻がいた。二柱は地上に降り立つと様々な神を産み、そして国作りを始めたのだった。
しかしイザナミはカグツチを産み落とす際、カグツチの放つ熱さによって火傷をし、死んでしまう。イザナギは深く悲しみ、そして黄泉の国へとイザナミを迎えに行くのだった。
そう、それはまさに今回のあずさと同じ行動なのだ。
黄泉の国で出会ったイザナミは、既に
イザナギは待った。しかしいくら待っても愛しいイザナミの姿は現れない。痺れを切らしたイザナギは奥へと進んでしまう。そして、見てしまうのだ。愛しい妻の変わり果てた姿を。
イザナミは激怒しイザナギを追いかける。しかしイザナギは次々と追っ手をかわして、何とか元の世界へと命からがら逃げ切ることが出来るのだった。
この時、イザナミはイザナギに言った。
『あなたがそのような態度なのならば、私は毎日千人の人間を殺しましょう』
それを聞いたイザナギは言う。
『ならば、私は千五百人の人間を産もう』
こうして二柱は正式に離婚をした、と言うのが古事記に書かれている。
しかしここで一つの疑問が生まれる。イザナミは何故、すぐに
それは
「この話に出てくるイザナミの姿と、黄泉の国で出会った
奏は言う。なるほど、もしイザナミが
「確信はないわ。それに
奏は言う。
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