第三章の三 神の加護①
橋姫と別れた三人は、その足でヤタガラスの導きにより、ツクヨミのいる
「ツクヨミー、いるんでしょ~?」
あずさは寒さに震える声でツクヨミを呼んだ。
「神に対してその態度なんですね」
「あずさ、どうしたの」
ツクヨミはきょとんとして尋ねる。
「契約、して欲しいの」
あずさは端的に答えた。
「契約?」
ツクヨミは
「これから、
あずさは真剣な眼差しで訴えた。ツクヨミはなるほど、と言うと何事かを呟く。そしてそっとあずさの額にキスをした。
「あ、ありがとう……」
あずさは少し顔を赤くして呟いた。ツクヨミはにっこりと微笑む。
「僕が契約するってことは、姉さんとも契約をしたいのかな?」
ツクヨミが言う。あずさはまだ顔を赤くしながらも頷いた。
「はっきり言って、僕たちは戦闘向きではないけれど、それでもいいの?」
ツクヨミは真剣な声で言った。
あずさはその真剣な眼差しに吸い込まれそうになりながらも、しっかりとツクヨミの目を見て答えた。
「うん。二人の力が必要になる日が来ると思うの」
「二人、じゃなくて二柱、だよ、あずさ」
結人がすかさず訂正するが、あずさは聞いていないようだった。あずさの真剣な眼差しに、ツクヨミは分かった、と言うとにっこり笑ってヤタガラスを呼んだ。
「
ツクヨミの言葉に、ヤタガラスはかぁ、と一鳴きすると飛び立った。あずさたちは、
ヤタガラスに導かれて到着した場所は、天空、とも言いがたい、しかし確実に今の奏たちが住んでいる場所とは建物の作りが違っていた。もくもくとした地面は、それでもしっかりと歩けるようになっている。建物は高床式のものが多くあった。
「うわぁ~、久しぶりに来たけど、こんなにじっくり見たのは初めてかも!」
あずさは目を輝かせている。
「姉さんのいる所へ行こう」
ツクヨミの言葉に頷くと、三人と一柱はゆっくりと歩いて行った。そして、一際立派な高床式の建物に辿り着いた。ツクヨミはその扉をトントン、と叩くと中から気だるげな声が聞こえてきた。
「だぁれ~?」
「ツクヨミです、姉さん」
「入りなさい」
その声にツクヨミはゆっくりと扉を開けた。
中は豪奢な作りとなっていた。大きなホールとなっているような雰囲気の場所、その中央の椅子の上に黒髪の長い、長身の美女の姿があった。
「ほぅ……?」
アマテラスは一同を見渡して声を漏らしていた。
「あずさではないか。久方ぶりだな」
あずさに目をやり、アマテラスはにやりと笑っていた。あずさも、
「お久しぶりです」
と返す。
「そっちは人間と、
アマテラスは奏と結人を見やって言う。
「随分と大所帯で……、一体何用なのだ?」
アマテラスの声は涼しげで、しかしこちらが緊張してしまう程の威圧感があった。奏はアマテラスの姿に萎縮し、結人もまた奏同様に最高峰の神の存在に萎縮していた。そんな中、あずさだけが堂々としている。さすがは、神に選ばれた少女、と言ったところだろうか。
「アマテラス様、お願いがあります」
あずさは堂々と言う。アマテラスは、ほぅ、とため息にも似た息を吐き出すと、何だ、言ってみろ、と言った。
「私と、神の契約を結んでください!」
あずさは深々と頭を下げている。慌てて奏と結人もそれにならって頭を下げる。アマテラスはその美しい顔を歪めるでもなく、涼しそうな顔で言った。
「よかろう?」
「えっ? いいのっ?」
「あぁ。あずさには世話になったからな。それに、神々の願いを聞いてくれる、唯一無二の存在だ」
アマテラスはいたずらっ子のように微笑みながら言う。そしてあずさに、近くに、と言う。あずさはゆっくりとアマテラスへと近付いていった。そしてツクヨミ、橋姫同様、アマテラスは小さな声で何事かを呟いた。その後、小さくあずさの額にキスを落とす。
「これで、良いのだろう?」
アマテラスは満足そうに微笑んだ。あずさは笑顔で、
「ありがとうございます!」
「礼には及ばぬ。
「いえ……」
あずさは小さな声で答えた。
「まずは、私を守護してくださっているアマテラス様とツクヨミにお願いするのが筋だと思ったので」
あずさの言葉にアマテラスは満足そうに微笑んでいる。
「では、
アマテラスはそう言うと、手を前後に振り、ツクヨミたちに部屋から出て行くように促す。
部屋から出ようとする間際、ツクヨミがアマテラスを振り返って言う。
「姉さん、ありがとう」
にっこりと微笑んで言われ、アマテラスはいいから行け、と合図を送るのだった。
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