黒霧の少女20
左手には黒字で模様と文字が描かれた禍々しい赤色の札。
右手には黒曜石の様な漆黒の杖。その杖は時計の分針の様にも見える。鏡のように周りを映すが人は映っていない。
心臓が早鐘を打つ。体が熱い。まるで血管の一つ一つが燃え上がっているようだ。
視界も少しボヤける。陽炎を見てる様なユラユラとした感じ。
これは魔力の暴走だ。過去に2度体験した感覚そのものだ。けど今は妖力と魔力の2つを同時に使っているはず。魔力だけ暴走するのはおかしい。
空の変化に気にも止めず燈火は雷を打ち出してくる。空は燈火の手元に集中し、魔力が一瞬でも動いた時に転移を発動させ……れない!
しまった!と思う頃にはもう遅い。咄嗟に腕を体の前で交差させる。
……なにも、ない?ラッキーだ。もう一度転移を試みる。……駄目だ、出来ない。なら、こっからは転移無しだ。
今度は目の前一面を覆う様な火炎が迫る。
逃げれないっ、なら撃ち合うまで!
空は杖にありったけの込める。
揺らぐ視界で杖を振りかざした。空は迫る火炎から目を逸らさない。
火炎の中央で淡い青緑の時計がぶつかる。時計は逆回りに分針を回し、一回転すると同時に炎は淡い光となり辺りに散った。
光の雨は幻想的に2人を包む。暫くの静寂。
次で最後だ。この力を続けるのももう持たない。
俺はさっきとは比べのにならない程の魔力を、更に使い慣れない妖力も込める。
燈火も同じ様に最大魔力を込めるのが分かる。
思わず苦笑いがでる。規模が、格がちがう。偽物のくせに!ふっざけんな、全てだ、全てを元に戻してやる。
杖を振りかざす。
燈火も同時に杖を振る。あくまでも優雅に下から軽く一振。
巨大な火の鳥、その周りを雷の龍が3匹。とてつもない熱量と電圧。
圧倒的な力はゆっくりと全てを飲み込むように近づき、近づきながら更に力を大きくしている。
空の魔法の時計はしかし、それらの前に立ちはだかり正面衝突する。
耳を劈く激しい轟音。鼓膜が破れる程の振動。耳の痛みなんて感じる暇もない。
体の熱が限界に近い。息は上がり、鼻血が垂れる。頭でブチブチと嫌な音がする。
でも、時計の針は少ししか動かない!
「……も……どれっ、…はぁっ!ああああああああぁぁぁっ!もっどれぇ!!!」
全ての感覚は消え、空の意識はそこで途絶えた。
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