残り1日と18日
あと1日と18日
そして、朝7時に起床、ニュースを見ながら朝ご飯を食べ、歯磨き等々を済ませ行ってきますと言い残し現場に向かう。
流石に、このルーティーン中には何も考えていたかったが、家を出てしばらくしたころに将来予測に示された“疑問に思う”前日が始まったことを意識した。
現場に到着後は、昨日と変わらぬような挨拶をし、スケジュールの確認。
そして、昨日と同じく考えを巡らせてた。
搬入用トラックが何台か来たものの、昨日のようなヘマはしないし、特に考えの妨げにはならなかった。
だから、午前中という時間を費やし、ずっと考え続けることができた。だが、何も浮かぶことはなく結論は、明日になればわかるだろう。ということ。
そんな無意味な時間を過ごしていたら、いつの間にか昼休憩の15分前になっていた。
「やべっ」
焦りを隠せず、思わず声が出てしまった。
その焦りからか伸びなどをすることなく、昼休憩開始時までには間に合わせるという気迫を出しつつ小走りでお伺いを立てに行った。
お伺いを立てた結果、今日の弁当希望者は17人中4人でいつもよりも少なかった。
これでは、急ぎ損だったかもしれない。
なんでも、昨日見つけたラーメン屋が美味しかったとのことで、今日はほとんどの人がラーメンを食べに行くんだという。
誘われたはいいもののラーメンを食べたい気分でもなったので丁重にお断りした。
自分も併せて5人分しか買う必要がないなら急ぐ必要もないな。と思い、Aシステムを見ながら、明日になればわかるという結論は本当に正しいのかなどと考えながらスーパーへと歩みを向ける。
すると、RPPから連絡が入った。
連絡の件名は「次の派遣先について」という、いつもの通知。
あっちこっちに行かされるキツイ仕事は嫌だが、緩すぎる仕事もそれはそれで嫌。緩くなく、キツくもない職場がベストな自分にとってはこの職場は少し不満だった。
だから、せめてでもこの緩すぎた警備よりはやりがいのある職場が来るように望み通知を開けた。
「6月2日(月)から8日間、計算処理会社Nアートにて一般事務の仕事に行くように。なお、当社従業員として千倉柚月もNアートにて勤務する。」
体は動かせるけど詰まらない警備仕事から箱の中でひたすら目の前の仕事を処理する事務仕事に転職か、、、と思っていたが、なお書きを見た瞬間、思わず立ち止まり、これまで味わったことの無い様な高揚を感じた。
この無機質な文に載っている千倉柚月さんは、RPPの東支部において、最も注目されている人物。
可愛い、美人、綺麗等々の聞けば誰しも褒め称えるような人で、老若男女問わず一度は仕事がしたいと思われる人と仕事ができる。
たった、これだけで、心が落ち着かなくなるものかと驚きを隠せず、スーパーの近くのベンチに腰を掛けた。
ベンチに座って、心を落ち着かせるはずが「来週は緊張せずに挨拶ができるだろうか」「暇な時間はどんな話をしよう」「彼氏がいなかったら告白でもしようか」等と色々と妄想が膨らんだ。
そしてふと我に返ると、皆の昼食を買うという使命を忘れていたことに気づきスーパーで買い物を済ませた。
皆の昼食を手にした帰り道でようやく情報を処理できたのか、遅まきながら「やった」と小さな歓喜の声が自然と出ていた。
結局、妄想をしたのせいで10分ほど遅れて、弁当を皆のもとへと届けた。
「やっと来たか」「いつもより遅かったな」「腹減ったわぁ」
なんてことを言われながらも、いつもと同じように和気あいあいと昼飯を食べ、雑談をし、午後の仕事に移った。
午後の仕事は、昨日と違い本当にやることがなかった。
これまで考えていた“疑問に思う”なんてことは頭の片隅に追いやられていた。考えていたことといえば、千倉さんのことばかり。
千倉さんとは、社内の集会などで数回あった程度だが覚えててくれているだろうか。いや、覚えているはずもないだろう。いや、もしかしたら覚えているかもしれない。いや、、、
とか
昼休み中に話が弾み、仲良くなったらどうしよう。そしてそのまま、付き合うことになったらどうしよう。そのためにも、話が弾む話題を考えなきゃ
などという無意味な想像をしているうちに、時間は過ぎていった。
仕事という仕事がなかったものの、ほとんどの仕事が手につかず、こんなんではダメだななんて我に返ったとき、ふと“疑問に思う”のことを思い出した。
思い出しついでにネタを変更して巡回しながら、考えてみるかと気持ちも切り替え、巡回を始めた。
しかし、簡単にネタも気持ちが切り替えられるわけもなく、巡回中も少し変な形の廃材を見つけては、これは話のネタになるのではないか。などと考えていた。
結局、疑問に思うについて考えていたのは、真剣に歩き始めだけだった。
気の入れ替えのために巡回をしたのにもかかわらず、気が抜けた状態で持ち場に戻った。
改めて気を抜き千倉さんのことを考えていると“疑問に思う”と千倉さんを一辺に解決する妙案が頭の中に浮かんだ。
それは千倉さんについて、今まで誰も気にしなかったようなことを“疑問に思う”のではないかという一石二鳥の案だった。
そうなったらなったで別にいいか、、、と一瞬納得したが、もし、その疑問が解決できなかったときは悲惨であることに気づく。
ならば、今のうちにもあらゆる千倉さんのことを考えよう。
そうすれば明日、千倉さんへの疑問が浮かぶこともないだろう。
もし仮に、明日、疑問に思うことが千倉さんのことでも、熟考した結果ならば後悔はない。
その浮かんだ疑問で、誰もなしえないほどに会話が弾み仲良くできればそれでいい。例え、会話が弾まず気まずくなってもみんなが知らないことを知れればそれでいい。
ここまで悩んできた“疑問に思う”たった一つだけで千倉さんとの話のネタになるのであれば、それだけで十分。そう考えている。
そんなこんなで考えを巡らせているうちに、いつの間にか終業時間を迎え、いつの間にか家の風呂に入っていた。
風呂に入ったとき、この喜びを両親にも伝えたいと思い至り、早く風呂を出なくては!と、いつもよりも早く風呂を出た。
そして目的通り、両親に対して千倉さんと同じ職場になることを話し、嬉しさを露わにしていた。
まるで、バラ色の人生を謳歌しているかの如く喋り続け、止まることはなかった。
頷いて聞いていてくれる母とは裏腹に、父は少し心配そうに
「そんなに興奮して、本物にあったときどうするんだ」
という真っ当な意見を吹っかけてきた。
「たぶん緊張して喋れないだろうね」
と返したら、父は大笑いし、今度は母が心配そうにしながら呆れ顔をあらわにした。
食事も食べ終わり、デザートを食べていると、つい数時間前まで真剣に“疑問に思う”とは何かを考えていたというのが嘘かのように、四六時中千倉さんを中心に物事を考えているのだな。と思い起こした。
疑問に思うについてもそうだが、自分にここまでの集中力があることに驚きを隠せない。この集中力が受験勉強に使われていたら、大学にも合格できていたのだろうかと、思わず無意味な想像をした。
だが結局、大学に受かったとしても将来予測の予測からはブレることはなくRPPに就職していたのだろう。差し詰め、大学と仕事の二束のわらじを履いていたかもしれない。
そんな人生を4年間継続できたのだろうかと、もしもの自分を思い浮かべたが過酷すぎるスケジュールになることに気付きゾッとした。
そして、更にゾッとする事実にも直面した。もし、二束のわらじを実行していたら千倉さんと勤務が被らなかった可能性すらもありえたのだ。
フルタイムだったからこそ、千倉と同じ職場になれた。この事実は、曲げることはできないだろう。
どんなことでも結局は、千倉さんに考えが結びつくことに感動しながら寝支度を始めた。
今日一日、昨日と同様に長い長い考え事をしていた。
だが、昨日と今日は心の持ちようがまるで違う。
来週の勤務が待ち遠しくてたまらない。
昨日は固いことを考えていたからすぐに寝られたものの今日はずっと興奮しっぱなしだ。
布団に入った後も、この興奮が抑えることができずに寝ることができないかもしれない。
なんて思ったが、布団に入るとスッっと意識が飛んだかのように眠りについた。
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