死に戻り
「助けて……」
そう言葉を残して、彼女は人型の化物に捕まり、連れ去られていく。
「待て!」
そう叫んで僕は追いかけるが、すぐに別の化物に道を塞がれる。僕は唯一の武器である小銃で化物めがけて攻撃するが、そんなものが通じるはずもなく、弾丸は無情に跳ね返される。
そして、化物が振り下ろした鋭刃が、僕の首に迫り……
気がつくと、真っ白な空間にいた。
何も見えず、前後左右どころか上下も分からない。意識だけが空間にあるように感じる。
彼女はどこに行った?化物は?理解が追いつかない。
……やっと状況が分かってきた。
きっと僕は、化物に殺されたんだろう。
正体不明の化物が地球で暴れ回るようになって数ヶ月。化物は人間を殺し、または攫い、人類は窮地に追い込まれていた。
化物はどうやって生まれたのか、目的は何なのか、攫われた人々はどうなるのか、誰にも分かっていない。
僕も住んでいた家を壊され、ずっと彼女と2人で逃げ続けていた。
ここまでだったのか…
生き延びれなかった、そして彼女を助けられなかった、その後悔と悲しみが僕を包んでいた。
そこに、声が聞こえてきた。
「お前に、やり直す機会をやろう」
驚いて反応ができないでいるうちに、声は続けてきた。
「彼女を助けたいんだろう?
死んでも、過去に戻れるようにしてやろう。彼女を助けるまで、何回でもだ」
「……本当か?」
「もちろん。
彼女がすぐ殺されることはない。何度も繰り返せば、きっと助ける道筋が見つかるはずだ。
どうだ?」
その言葉は僕にとって救いだった。迷いなく、提案に乗ることにした。
「頑張れよ……」
それきり声は聞こえなくなった。声の主が誰なのかを問おうとしたが、言葉を口に出す前に意識が遠のいていった…
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「助けて……」
この声を、もう何度聞いただろうか。
僕が化物に殺されると、いつもここに戻ってくる。回数を数えるのはもう辞めてしまった。
僕は彼女を追いかけることなく、逆方向へ走り出す。彼女を見捨てるのは胸が痛むが、ここで助けるのは不可能だ。何度やり直して、道を遮る化物の攻撃をかいくぐっても、連れ去られる彼女に追いつくことはできなかった。すぐ殺されることはないという言葉を信じるしかない。
僕はそのまま逃げ続け、塀に囲まれた施設へと辿りついた。ここは化物に抵抗する人間が集まったアジトだ。噂には聞いていたが、数回前のループでやっと見つけることができた。ここでは装備や武器を作成している上、それを扱う志願兵も募集している。化物に抗うにはうってつけの場所だ。事情を話し、仲間に入れてもらう。ここまでの流れもだいぶスムーズにできるようになってきた。
ここからだ。武器の使い方を覚え、戦うための力を手に入れ、化物たちを殲滅してやる。そして、彼女を救い出すんだ。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
何度も戦いを重ねて、実力はどんどんと上がっていく。
志願兵になったばかりなのに武器を使いこなす僕を見て、周囲の人が驚くのももう慣れた。
化物ともある程度は対抗できるようになったけど、まだ攫われた彼女の足取りはつかめない。
もっとだ。もっと力をつけて、情報を集めなくては。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
さらに時間が過ぎていった。僕は、化物数体なら倒せるくらいには強くなった。
ただ、それでも先は果てしなく長い。化物は砂糖にたかる蟻のように、無数に現れてくる。いくら倒してもきりがないし、手がかりも見つからない。
本当に彼女を救えるのか。本当にループが終わるのか。僕は、自分を信じることができなくなってしまった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
僕に救いを差し伸べたあの声の主は、一体誰だったんだろう。
いや、救いなんてものじゃない。これは呪いだ。昔は声の主を神だと思っていたけど、今では悪魔じゃないかとすら思う。
そもそも、時間を巻き戻すほどの力があるなら、化物を出現しないようにしてくれればいい話だ。それが無理でも、せめて化物の出現より前にループの起点を置いてほしかった。
考えてみれば、彼女がすぐには殺されないという言葉も疑わしい。本当は攫われてすぐに命を落としているかもしれない。だとしたら、僕の死に戻りはどうやったって終わらないことになってしまう。
きっと声の主は、ひたすらに戦い続ける僕を見て嘲笑っているんだろう。
ふざけるな。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
もう嫌だ。
何度繰り返しても、彼女を助けるどころか、足取りをつかむことすらできない。
助けを求める声以外には、彼女の声を聞くことはできない。彼女との思い出もずっとずっと昔のものだ。彼女への愛なんて、もはや薄れてしまった。
ひたすらに繰り返し続ければ、いつかは光明が差すと思っていた。終わりがあると思っていた。けど、全くもってそんな事はなかった。
あの化物たちに勝てるはずがない。きっと、人類は滅んでしまうのだろう。今はそれだって羨ましい。終わりがくることが羨ましい。
僕は、この勝ち目のない戦いを永遠に繰り返すしかないのだから。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「助けて……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます