ノックの音が2

ジュン

第1話

ノックの音がした。

ここは書店で働いている白川幸子の自宅の寝室だ。

「誰かしら、こんな朝はやく」

幸子はドアを叩く音を無視した。

しばらくして、またドアを叩く音がした。

「もう、誰よ」

幸子は起きてドアを開けた。すると、幸子を振った男、吉川広が立っていた。

幸子はおどろいて言った。

「広さん」

広はかたい表情で言った。

「幸子さん」

幸子はちょっと戸惑った。そして言った。

「なにかわたしに用かしら」

広はかたい表情を崩さず言った。

「幸子さん、僕ともう一度つきあってもらえないか」

幸子は言った。

「でも、広さん結婚するってきいたわ」

「じつは」

広はゆっくりと話し始めた。

「結婚する予定だったんだ。だけど」

幸子はきいた。

「なにかあったの」

「相手の女性は、もう結婚しているんだ」

「どういうこと」

「相手の女性は夫のことを愛していた。だけど夫が癌で亡くなって。それで相手の女性は自殺を図ったんだ」

広は続けて言った。

「一命はとりとめたんだけど、記憶喪失になってしまったんだ」

幸子はきいた。

「夫のことも忘れてしまったの」

「そうなんだ」

幸子はきいた。

「広さんどこで相手の女性と出会ったの」

広は言った。

「僕は美容師をやってるだろう。相手の女性が客で来たんだ」

「そこで知り合ったのね」

「そうなんだ」

広は続けて言った。

「僕は相手の女性が好きになった。相手の女性も結婚していないという。だけど」

幸子は言った。

「結婚していたのね、本当は」

幸子は続けて言った。

「それでわたしのところに来たの」

幸子は思った。

「つまらない話だわ」

幸子は思った。

ドアを叩く音で目が覚めたから、書店員の書評を頼まれていた本を続きから読んでみたわ。ヒロインの幸子って私と同じ名前なのよね。こんなつまらない話の書評どう書けばいいのかしら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ノックの音が2 ジュン @mizukubo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ