初夏色ブルーノート
夏緒
紫外線が怖い
しくじった。こんなに晴れると思ってなくて、日傘を忘れた。
待ち合わせまで、まだもう少し時間がある。土曜日の町は、いつでもそれなりに人がいる。あたしは照りつける太陽にたまらず目を細めた。
みゆきと待ち合わせる予定の小さな広場には、色とりどりの煉瓦が敷き詰められていた。オレンジ、みどり、水色、くすんだ赤、黄色、紫。あたしはそんな色とりどりの煉瓦をぺたんこパンプスで遠慮なく踏みしめ、スマホで時間を確認する。午前十一時。どう考えても早すぎる。広場の真ん中に立って、あたしは辺りを見回す。日陰がほしい。この時期は紫外線が怖い。
くるりと半回転すると、すぐそこにカフェがあった。横長の店舗で、ガラス張りの店内が見えている。
あそこでいっか。
取り敢えず、30分をあそこで潰そう。そう思って、あたしは少し急いでそのカフェへ向かった。こんなところで、うかうか立っている訳にはいかない。紫外線が怖い。日焼けしたらシミになる。
カフェの名前は見慣れないものだった。
『cafe Blue Note』
知らん。
チェーン店ではないんだろう。
入り口の両脇には、白い鉢植えに縦長のグリーンが植えられている。なんていう名前の植物だったか忘れた。可愛い女の子だったら、
「え〜、なにこれ可愛い〜! 写真撮っていいかなぁ!」
とか言うんだろうか。
どうでもいい……と思いながら、紫外線から逃げるように店内へ。
足を一歩踏み入れて、あたしは思わず、苦虫をかみ潰した。店内に流れていたBGMが、あまり聴きたくない曲だったからだ。
う……。
なんだかいやだ。BGMの趣味が悪い。やっぱりこの店やめようか。いやでもここまで入ってしまったし、店員さんめっちゃこっち見てるし、にこにこしてるし、いらっしゃいませって言われちゃったし、紫外線怖いし。
あたしは一瞬の葛藤のすえ、できてしまった眉間のシワを意識して伸ばしながら、諦めて店内へ進んだ。ひんやりとした空調に、半袖シャツから丸出しの腕がぞわっとする。
黒い制服を着た若いお兄さんが、お好きなお席へどうぞ、と笑いかけてくれる。あたしはそれに、可能な限りの愛想笑いを返してから、窓際の席を探した。
店内には少しのお客さんしかいなかった。全体を白い内装と観葉植物のグリーンで統一してある。メニュー表とか小物類はバリエーションのあるブラウン系。へぇ、なかなかお洒落じゃん。テーブルの素材も、汚れが目立ちにくそうで、よく考えられて凝っている。
あたしは、さっきの広場が見える位置の、二人がけの席に陣取った。ここなら、みゆきが来たらすぐに分かる。
「いらっしゃいませ。ご注文はどうされますか」
さっきとは違うお兄さんが、お水とおしぼりを運んできてくれる。あたしはメニュー表を開いた。
サンドイッチ美味しそう。いやでも、これからお昼を食べに行くのに、ここで食べたらみゆきが怒るな。
「珈琲ひとつ」
「ホットとアイス、どちらにされますか」
「アイスで」
「かしこまりました」
軽くお辞儀をしてお兄さんは下がっていく。
あたしは鞄からスマホを取り出して、みゆきにラインを送った。
早く着いて暑いから、「ブルーノート」って店で待ってるね。着いたら連絡して。
スタンプもなにもない文章だけを、いつも通り送信する。
ふう、と一息つくと、やはり耳に入ってくるのはあのBGM。
あたしはもう一度、大きく息を吐いた。
これはあれだ。智昭がいつもギター片手に歌ってたやつだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます