第23話
どれくらい寝ていたのだろうか?
ふと目を覚ますと、すでに陽が落ちかけていた。
「あれ?今、何時ですか?」
私は目をこすりながら研究室にいるであろう誰かに問いかけた。
すると、
「あっ、やっと起きましたね。もう夕方の5時ですよ。サトシさん、どれだけ疲れてたんですか。」
エリカさんが心配そうな表情を浮かべながら近づいてきた。
「え?5時ですか。せっかくの1日がもうほとんど終わってしまいました。今日の検査とか、どうすれば良いですか?」
「今日の検査は延期です。明日、ヒロシさんに午前中代わりに受けてもらいましょう。今日の二日酔いは元々はヒロシさんのせいでなっている訳ですし。」
「そうですか。分かりました。ヒロシに伝えておきます。」
「よろしくお願いします。ところで、サトシさん、二日酔いはもう大丈夫そうですか?」
「はい、おかげさまで。ありがとうございました。」
「よかったです。じゃあ、私は仕事に戻りますね。」
エリカさんは優しい笑顔を私に向けたあと、忙しそうに自席に戻って行った。
『今日は一体、何しに来たんだろう。』
私は帰り支度を済ませて帰ろうとしてドアを開けると、ちょうど先生が入って来た。
「もう二日酔いは大丈夫なのか?」
「はい、エリカさんに色々と良くしていただいたおかげで、すっかり元どおりです。」
「それは良かった。もう帰るのか?」
「はい、今日は検査なしってことですし、定時過ぎたので。」
「このあと、予定あるか?」
「いえ、特には。」
「じゃあ、眠気覚しにコーヒーでも飲んで行かないか?」
「はぁ。別にいいですけど。」
私は先生に連れられるがまま、学校のカフェに向かい、コーヒーを奢ってもらった。
「悪かったね、帰るところを引き止めてしまって。」
「いえ、大丈夫です。それよりどうしたんですか?」
「明日、ヒロシがデートなのは知っているだろ?」
「はい。」
「一応、ヒロシには忠告をしておいたんだが、万が一のことがあった時のために、サトシにも知っておいて欲しいことがあって。」
「万が一の時って、なんですか?」
先生の口調があまりにも深刻そうなこともあり、私は大きな不安に襲われた。
「万が一、ヒロシが明日女性と朝まで一緒にいた場合、朝起きた時、君の隣には君にとっては絵でしか見たことのない知らない女性がいる可能性がある。そうなっても驚かずに、何とかその場をやり過ごして欲しい。
女性からしたら、起きた時に隣にいる男性はヒロシであってサトシ、君ではない。ただ、同じ顔のはずなんだが、雰囲気というか何というか、微妙に君たちは違って見えるんだ。
そして、それは恐らく相手女性も違和感を感じるはずだ。そうなったら、女性は混乱するだろう。ヒロシのように見える男性が一晩経ったら全くの別人のように見えるんだから。
そこで、もしも女性が警察に通報でもしたら、色々と面倒なことになってしまうことは想像できるよね。だから、もしさっき伝えような状態になってしまっていたら、何とかヒロシを演じ切って欲しい。
ヒロシがどういった性格や言動なのかを、サトシが知らないことは重々承知しているが、どうかよろしく頼む。
もちろん、この事はヒロシにも伝えているし、『約束が守れないようならデートを担当医として許可出来ない』とも伝えているから大丈夫だとは思うんだが。男女の恋愛というのは理性では抑えきれないことがあるから。
サトシには万が一を想定しておいて欲しくてね。」
「そういうことでしたか。私とヒロシって別人に見えるんですか?」
「あぁ、不思議なことに見えるんだよ。研究室の皆んなだって、最初こそ君たちのことを曜日で判断していたが、今では曜日とかではなく、仕草や話し方で判断できる。エリカ君なんかは、『顔も若干違うんですね』と言っていたなぁ。」
「エリカさん、すごいですね。」
私はエリカさんがそこまで私たちのことを理解してくれているんだと知って無性に嬉しかった。
「まぁとにかく、さっき話したような状況にはならないと思うが、もしなってしまった時は上手く対応してくれよ。」
「分かりました。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます