第13話

サトシはビデオメッセージを受け入れてくれたのかが、ずっと気になっていたから俺は、急いで日記帳を開いた。

【10個の質問】に対しても几帳面さが答えから滲み出ていた。

そして、ビデオメッセージに対しても『OK』と書かれていた。


「よっしゃー」

俺は思わず歓喜の声を上げた。

そして歯を磨こうと洗面所に着くと、サトシから初めてのメッセージがあった。

そこには、

「昨日、電話がありました!頑張れ!!」

と書かれていた。



俺は歯を磨くのも忘れてスマホを取りに寝室に戻った。そして着信履歴をみると、ヒカルさんから一件の着信と留守電が残されていた。

「留守電入ってる。どうしよう。」

初めての留守電が自分が気になっている女性からのものだったこともあり、俺は中々、留守電を聞く勇気が出なかった。


平常心を保つために、まずはいつも通りのルーティンをしようと思い、また洗面所に向かい、歯を磨いてシャワーを浴びて気持ちを落ち着かせた。

そして、留守電メッセージを再生した。


「もしもし、ヒカルです。いきなり電話してしまってすみません。私、明日またあの公園で絵を描こうと思っています。もし良かったら、公園に来て絵の描き方を教えてもらえませんか?」


『これってデートのお誘い?いや、ヒカルさんは俺のことが好きなのではなくて、俺の絵が好きなだけかもしれない。単純に絵がうまくなりたいと思っているだけだとしたら、俺一人が舞い上がっていてバカみたいじゃないか。どうすれば良い?』


しかし俺には相談できる友人は一人もおらず、結局先生に電話をかけた。


「先生、俺だけど。」

「俺って誰だ?オレオレ詐欺ならまだ私はまだ老人というほどの年齢には達していないんだが。」

「何言ってるんだよ、ヒロシだよ。」

「なんだヒロシか。どうした、こんな朝に。」


「ヒカルさんから昨日、留守電が入ってて。今日また同じ公園で絵を描いているから、絵の描き方を教えて欲しいって言われて。これってデートのお誘いってことで良いのかな?」

「興奮しすぎだよヒロシ。一旦、冷静になろう。深呼吸して。」


先生に言われた通りに深呼吸を一回した俺は、再び先生に詰め寄った。

「で、これってデートかな?」

「デートっていう訳ではないだろうけど、脈ありか無しかで言えば脈ありだろうな。」

「マジか!」

「でも、焦るなよ。焦っても良いことはないから。まずはちゃんと絵の描き方を教えてあげることに集中しなさい。」


「分かってるよ。」

「本当かな?」

「本当だよ。で、絵の描き方を教えてあげた後はデートに誘っても良いかな?」

「ヒロシって恋愛はグイグイいくタイプなんだな。まぁ、絵のレクチャーしている時、会話が弾むようなら、そのまま食事に誘ってみても良いんじゃないか?」


「分かった!食事ってどこに行けば良いかな?」

「今日、食事に行くのはやめておいた方が良いと思うよ。」

「なんで?」

「だって、ヒロシお前。外食したことないだろ。」


「うん、毎回サトシが作ってくれているご飯と昼はコンビニで買ったお弁当とかしか食べたことないかも。」

「だろ。だからまずは、リサーチとリハーサルを兼ねて先生と一緒に食事に行ってからにした方が失敗する可能性を減らせるから、いきなり今日行くことだけは止めた方が良い。」

「それもそうか。じゃあ、とりあえず後日ってことで食事に誘うようにするよ。」

「その方が良いだろうね。で、その時に、好きな料理とか聞いておくんだよ。リサーチするにも、相手が好きな料理を知っていた方が良いだろうし。」


「OK、先生。」

俺は電話を切り、お気に入りの洋服に袖を通し、意気揚々と公園に向かった。

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