不協近所④
水曜日は朝から憂鬱な一日だった。 それは学校で恵意が嫌がらせをしてくるからとかではなく、夜の会議があるからだ。 親友の新伍も自分たちと同様の話し合いをするらしい。
グループメンバーは前途多難な気がするが、内申点のことを考えれば近哉も協力しないわけにはいかなかった。 会議が行われるのは近くのレストランで、素乃子の親子も特に遅れることなく集まった。
簡単につまめることを考えて注文したが見た目だけでも美味しそうと思えるもの。
―――さっきから痛いな・・・。
だがそんな料理は別として、今も既に恵意からの嫌がらせが始まっていた。 母三人、子三人で並んでいるのだが机の下で恵意に足を蹴られている。
素乃子が真ん中ならよかったのに、と思うが恵意の母親にこう案内されたため仕方がない。
―――ここでも俺に嫌がらせか?
―――親のいる前でよくも堂々と・・・。
すると恵意の母が言った。
「恵意ちゃん、近哉くんとは仲よくしてる?」
「当たり前じゃん!」
その笑顔に心底引いた。 チラリと恵意の母と目が合い慌てて笑顔を作る。
―――うわ。
―――母親の前では猫を被りやがって。
―――どこが仲よしなんだよ。
―――流石に仲よしを演じるのはキツいって・・・。
そう思いながらテーブルの面々を見渡した。
―――つか、全然作戦会議しないし。
―――ただ夕食を一緒に食べにきただけじゃないか。
―――母さんと恵意の母さんは二人でずっと話をしているし・・・。
軽く素乃子と素乃子の母を見る。 気まずそうに食事を静かにとっていた。 その近哉の視線に気付いたのか母が言う。
「この際ですから、お隣同士仲よくしたいなと思いまして」
「・・・はぁ」
話しかけられても素乃子の母親は嫌そうだった。 素乃子の母が相槌しか打たないため会話が続かない。 そのため近哉の母が無理に話題を作った。 だがその話題の作り方はあまりに無茶苦茶だったのだ。
「あ、そう言えば! いつも何かストレスを抱えているんですか?」
「・・・はい?」
「朝からお宅の怒鳴り声がよく聞こえまして。 素乃子ちゃんの名前を呼んでいるので、素乃子ちゃんに対してなのかなって・・・」
「・・・」
―――おいおいおい!
―――それ、今言うのか!?
近哉の母は思ったことを隠さずに言ってしまう。 そして、それを悪いと本人は全く思っていない。 冷や冷やとしながら素乃子の母の返事を待つが黙ったままだ。
「流石に自分の子供に対して何度も怒鳴り付けるというのは」
「貴女に私たちの何が分かると言うんですか?」
「だからその、怒鳴り声がこちらまで届いて驚くので・・・」
「私たちのことには口を出さないでください。 騒音が迷惑だなんていう苦情も受け付けません」
「ですから・・・」
「これはただのしつけです。 もう帰るよ、素乃子」
「あ、ちょ・・・!」
素乃子は何も言わず去っていく母を追いかけた。
―――・・・どうして今それを言ったのかな。
空気が気まずい。 そんな中、恵意の母がフォローするように言った。
「・・・やっぱり、怒鳴り声が聞こえていました?」
「千崎さんのお宅にまで聞こえていたんですか?」
「はい。 流石に大きな声なので・・・」
「そうですか・・・。 いつも素乃子ちゃんが叱られてばかりなので、つい・・・」
「よく言ったと思いますよ」
「ありがとうございます」
―――・・・二人が結託してどうするんだよ。
―――今日は六人の交流を深めるために集まったんじゃなかったのか?
今日は特に作戦会議をすることなく解散となった。 本当に不毛で無駄な時間。 更に言うなら恵意に嫌がらせを受けただけ。 近哉の母がまとめて支払っている時に恵意の母をこっそり呼び出した。
「近哉くん? どうしたの?」
恵意も手洗いに行っていて今はいない。 チャンスはこの時しかないと思った。
―――・・・言ってもいいよな、もう。
―――こんな状況で言うのもあれだけど、母さんたちの前で仲のいいフリをするのは流石にキツい。
―――恵意の母さんに伝えて、恵意が少しでも大人しくなってくれればいいけど・・・。
「・・・実は俺、恵意にあまり気に入られていなくて。 いつも意地悪をしてくるんです」
「え!?」
「だからハイキングの当日は、俺たちのことを気にかけてくれませんか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます