初夏色ブルーノート
泡沫 希生
前奏―プレリュード―
ブルーノート。ジャズとかブルースとか、確かああいった曲で使う音階のこと。よくは覚えてない。
そんなことをあたしが不意に思い出したのは、いちごパフェを食ってたら聞き覚えのあるジャズが流れてきたのがきっかけだ。
どこか憂いのあるサウンドは、古民家を改装した町家カフェに似合う。暖色の照明が焦げ茶色のテーブルと椅子を照らす中、漆喰と古い木の柱が醸し出す懐かしい雰囲気が好きで、以前はよくこのカフェに通っていた。
本来なら客でいっぱいのはずなのに、新型ウィルスの影響だろう、休日の昼でも客は数えるほどしか店内にいない。
最近休日はゲームばかりしてるから、たまにはと思い外で散歩をして、久しぶりにこのカフェに入ったわけだけど。ここまで人がいないとなんだか居心地が悪く、自分が悪いことをしてるような気分になる。気分転換は失敗だったようだ。
そんな気持ちで天井の梁を眺めていたら、店内のラジオからジャズが流れてきたのだった。
有名なジャズだとあいつは言っていた。曲名は忘れたけど。あたしにとって、この曲の名前はそんなに重要じゃない。
大事なのは、あいつにこの曲を聞かされて、それをきっかけに話したことだ。
残り少ないパフェをぐちゃぐちゃにしながら窓の外に目をやると、建物の隙間から覗く太陽が見えた。梅雨が明けようとしているのだろうか。室内にいても、日光の強烈さが伝わってくる。
今日も初夏にしては暑い。だから、この曲を聞いて思い出してしまったのだろう。
初夏のくせにたまらないほど暑かった日。深夜十二時過ぎ、大学の油画制作室。あの時、あたしたちはまだ大学一年生だった。
翌朝に期限が迫った課題を終わらせるため、誰もいないのをいいことに、好きなゲーム音楽を小型スピーカーで鳴らしながらあたしは油絵を描いていた。
そしたら不意にあいつ、智昭は現れたんだ。このジャズの曲とともに。
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