第27話、転機2

◆◇◆5月24日 体育祭終了後

「――――いやー体育祭、楽しかったなーあべしっ!?」

 雲雀、ビンタされる。

「酷い! 五年前から親父にも打たれたことないのに!!」

何故だ、と雲雀は叫ぶ。雲雀は学生の本分を大切に思い体育祭を全力で楽しんだというのに。なんなら花子の手伝いで道具の移動もしたというのに。

「え? は? は? は??? いや……は? え? なに? なんすか?」

「え、あ、あの……」「圧が凄い」

「なんすか? え? なんすか? え? 雲雀さん? あの流れ? 体育際 楽しむ……? ほお? ほおおお????」

「あっ、えっ、その……なんか……」

「あ?」

「……………………はい、すいゃせん」

 強烈すぎる圧に負け、雲雀は頭を下げる。正しい行動をしていた人間が罰せられるという不条理が顕現していた。

「普通、親の誤認逮捕発覚よりも体育祭優先する……?」

「するだろ」

「すんじゃね?」

「まあ、するだろ」

 口を揃えて即答する雲雀、君軸、花子の三名。異常者多数が否定したので拳墜異常者が誰だか発覚してしまった。

「(私が間違えてるの……? いや、それともよく似た別の世界に飛んできてしまった……? この世界を仮にA世界線と名付けるならば一体どこで世界線を……いや、そもそもこの世界に私はいるの……? いたとしたらこの世界に二人の私がいるという宇宙の真理に対する叛逆ッ! じ、自殺しなければ世界が終わってしまう気がする)」

「死ぬな死ぬな」

 歩道橋から身を投げようとする拳墜を花子が止める。

「にしても先生、なんで雲雀の家に行くことに?」

「そうだぜーせんせー、なんで体育祭が終わった後に急に雲雀の家に着いていくとか言いだしたんすか? そんなの気になりますぜ。ちなみにこれ、あらすじな。分かり易いだろ」

「誰に言ってんのよ……」

 そう、現状この四名は揃って雲雀の家へと向かっていた。その原因は体育祭が終わった直後、花子が雲雀へと告げたのだ。

『雲雀、今からお前の家、私も着いてくわ』

 と。それに待ったをかけたのが二名。雲雀の(部屋へ入る)初めて(の人)は俺だと宣言した君軸と興味本位で来た拳墜である。

「私の知り合いがな? 雲雀に会いたいっつーんで連絡が来たとこなんだよ。んで、雲雀の住所特定したからそこで会おうってことになったんだよ」

「さらっと聞き流せない情報しかない」

「先生は一度豚箱の飯を味わうべきだと思います」

 そんな会話をしていく四名。午後四時の歩道橋上、その微妙な時間帯か車通りは浅く、途切れ途切れの車の風切る音を背に、青と橙の混ざりあった空を見上げる。

「……楽しい、な」

 雲雀の小さな声に、三人が振り返る。君軸は不思議そうに、花子は微笑ましく思い、拳墜はレモンジュースを飲みながら。

「ん? どしたん? 生理?」

「男だよ?」

「ちんちんついてるからお得だな」

「何の話だ、ってか付いてないわ!」

「なんならわざと言ってるわね、この君軸」「なんだと、その君軸最低だな」「お前やぞ」

 拳墜が突っ込んで、君軸が惚けて、花子はまた突っ込む。役割が変わる時も含めて、高校入学初日には想像も出来なかった日々である。

「いえ、友達が出来て、嬉しいな、と思っただけです」

 高校にいけば世界が変わる、と何処かの恋愛漫画で言っていたことを思い出す。

「ああ――――うん、高校に異常者いすぎだろ」

「「それな」」「私は例外ですよね? この中に入ってませんよね?」

 雲雀はほんの少し遠くに見えるアパートを指差し告げる。

「あの、私はどちらかというと常識z」

「あそこは僕のアパートです」

「聞けや」

 雲雀の住むアパートは古き良き木造のかほりとシックな雰囲気を漂わせる賃貸であった――――尚、この評価は現実のソレをほんの少しばかり過剰に評価したものである。

「ボロアパートで草」

「うるさいな、家賃が月千円なんだからこんなもんだろ」

「お、いたいた。おーい――――真鈴、連れてきたぞ」

 花子が手を振り待ち人――――漣真鈴へ声を掛ける。

「「はあああああああああああ!?!?」」

「なによ二人そろって叫び出して……えっ、あれって名探偵の人じゃない?」

 驚愕に叫び声を出す雲雀と君軸。その二人へジト目を向ける拳墜もその待ち人の正体に気付き驚く。

「い、いや、そ、某は肛門太郎と申すもの、かかかかか怪盗ジークなんてしらないでござりちょふ」

「え、なんで動揺してんの……こわ……」「一番傷付く反応止めて?」

「わわわわ、わしんちょはボ○キ美化委員会の会計書記庶務会長でごじゃる、妖精とか自称する中二病女装チートなんてしらんでござるぅぅぅぅ~」

「いや……雲雀くん、動揺のあまりキャラ壊れてんじゃん」

 コンクリートブロックに物理的に減り込んでる雲雀と鞄で顔を全力で隠している君軸に冷静にツッコミを入れる。

「こんにちは~愛らしき小鳥諸君! 久しぶりだねっ、私の乳揉みマッサージの戦果は上々のようだね花、うんっ巨乳!」

 いつものように。軽やかにニヤニヤと笑む探偵帽が一輪。

 その場で舞うように回り、その様子はさながら気障なピエロのよう。

 漣真鈴――フェアリーのバイト先上司であるマリンこそが四名の待ち人だった。

「やかましいわ、久々に連絡来たかと思ったらびっくりしたんだぞ?」

「ちょっ、決めポーズ取る前に頭ぐりぐりしないでよー。あーん」「やかましいわ同年代が! なにがあーんじゃ!」

 花子と真鈴は互いに軽口を叩き合う。その様子は気の知れた友人のソレを思わせる。そして花子との挨拶を終えると、背後にいる雲雀へと目を向ける。

「やあっ、君とは初めましてかな?・・・・・・・・ 秋津雲雀くん?」

 真鈴は初めて会ったはずの雲雀へ挨拶をする。挨拶されれば挨拶を返す、当たり前の礼儀として雲雀もそれを行おうとする。

「? はい、初めま、し…て――――」

 が、しかし。

「どうかしたかい?」

「あ、の……どこかで、あったことはありませんか?」

「? ううん、君とは・・・初めましてだよ~」

「そう……ですか。すみません、変な質問をしました」

 雲雀の質問を一蹴してから、マリンは本題へと移った。否、正確にはマリンの隣にいた男が、である。

「君が秋津雲b……え?」

「え?」

 雲雀へと問いかけた刑事――――源は雲雀を見て固まった

「あ……いや……うん。君が秋津雲雀くんだね」

「如何にも」「キャラぶれはよ治せ」

 きっとマリンが連絡したのはこの刑事が彼女を頼った結果なのだろう。探偵の『人探し』の範疇と考えれば何もおかしい話では無い。

「とりあえず、話は中で聞きましょう」

 雲雀はアパートの部屋に鍵を差し込むと扉を開いて中へ案内する。

「はあああ!! 雲雀の匂い!! 匂いがしゅるよぉぉぉぉぉぉ!!」

「はい逮捕」(がちゃん)

 トイレの匂いを嗅ぎ始めた君軸の腕に(オモチャの)手錠がかけられる。貞子が雲雀の帰りに気付き、冷えたお茶をコップに注ぐ。

「ば、馬鹿な……何故だ!?」

「と馬鹿が申しております」

 貞子が入れてくれた茶を啜りながら雲雀はツッコミを入れる。

「相変わらず犯罪者予備軍ですね」「最早犯罪そのもの」

 貞子から座布団を受け取ると卓袱台の周りに敷く拳墜と花子。

「うん、お茶あんがとね~」

「で、今回君を訪ねた理由だが」

 拳墜は茶をずずっ、と飲む。

「ふう……」

 座布団に正座し、お茶をくれた貞子を見る。

「――――いや貞子ッ!!!!」

 拳墜は勢いよく卓袱台をひっくり返す。

「なんだよ拳墜」

「いやなんだよじゃないよ!? むしろ雲雀くんがなんだよ!!」

 貞子は首を傾げてカップラーメンを啜る。いやなんでだよ。

「この人はこのアパート住んでると一定確率でエンカウントする人です。よくわかんないけど多分大家だと思います」

「大家じゃないのよね!? というか人ですらないよね怪異だよね!?」

「よね三段活用、俺じゃなきゃ」「見逃しちゃうね♡じゃないんだよ!! なんでゴミみたいなこと見逃さないのに貞子見逃すんだよ!!」

 怒涛のツッコミに拳墜は息切れを起こす。貞子がお水をくれる、優しい。

「茶葉ないからモヤシの絞り汁を出したら妙にエンカウント率が上がって今ではお茶を出してくれる人になったんだよ」

「いや憐れまれてんだよソレ!! というか貞子に憐れまれてるの!?」

 家賃千円のアパートにも関わらず優しい大家さんがついてくるため雲雀はここを隠れ物件だと思っていたがどうも拳墜には違うらしかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る