第17話、怪盗2

◆◇◆

 それは数日前のこと。フェアリーは探偵助手バイトのため放課後から表に出て、雑用のような依頼を処理していた時のことだ。

「帰ったよーマリンちゃん」

「んにょ! おかえりーフェアリーちゃーん」

 フェアリーが探偵事務所に戻ると、そこには無愛想な男が鎮座していた。

「……まさか、お前が助手を雇うようになるとはな」

 男は低い唸り声のようなトーンで話す。次いでフェアリーをみて、少しだけ眉を顰める。

「君……どこかで、会ったか?」

「? いえ、初対面ですよ。貴方も初対面のはずです・・・・・・・・

 フェアリーがそう不思議そうな表情で、不思議な言い回しをすると男は目を見開く。

「そうか、情報屋のバーで……! …………そうだな、初めまして、だ。美味いチャーハンの店を知ってる、今度連れてってやろう」

 無愛想な男――――バーで会った刑事は得心いったのか、そんなことを言う。ゆえに待ち受ける流れは必然で。

「マリンちゃん!! ナンパされた!!」

「おう源! うちの婿に何いってんじゃオメー! この性癖女装ショタが! さわやかイケメンになってから出直せ!」「マリンちゃん??」

 刑事――源 みなもと しずかは四十代で美少女(?)をナンパした異常性癖者の罪が被せられた。ああ、茶柱が沈む。

「…………その……すまない」

 閑は素直にそう告げる。だがややあって気まずいと思ったのか。

「…………依頼の話に戻すぞ。今朝、怪盗ジークから犯行予告が届いた」

 閑は一枚の写真を取り出す。写真には黒いカードが透明なフィルムに包まれた状態が写っている。

『四月三十日。午後10時に秘宝をいただきっ♪ 怪盗ジークより。

 PS:最近、お尻の穴が痛いんだけどこのまま治らなかったら次回から怪盗痔ークって名前にするわ』

「国家権力を支える武力集団殿が探偵事務所に頼るのってツッコミ入れていいのかな?」

「犯行予告にもツッコミどころ満載だけどね。あと、その言い方はメっ、だよー。説教かスパンキング、好きな方選びなさい」

「はは、性癖混じってら」

 閑はフェアリーのツッコミに瞠目し、ぽつりぽつりと話し始める。

「耳が痛い話だが、警察は怪盗ジークに手も足も出ない状態だ。

 マリン――漣 真鈴の頭脳が無ければ勝負の土俵にすら上がれない」

 それはマリンに対する警察からの評価。

 警察組織の全てを上げても、漣真鈴の〝頭脳〟には勝てない。それだけの能力を有していると警察は評価していた。ゆえにこの案件が回ってきたのだろう。

「というわけで……恥ずかしい限りだが、頼む。力を貸してくれ」

「あーうーん」

 いつもなら即答で承諾する場面だ。しかしマリンは少しだけ唸る。そのいつもとは違う反応に閑は眉一つ動かさない。

「(……彼女に頼らなければ無理だと言っているようなものだ。は……国家権力の番犬が聞いて呆れる……)」

「――――フェアリーちゃん連れてってもいいですか?」

「……?」


 ――――そして、今に至る。

「マリンさんだ! マリンさん、怪盗ジークとの対決と聞きましたがその心境は!?」

「なにか一言――――」

「はいはい、さがってー」

 怪盗ジーク。治安が良く警察が優秀な日本で、それら全てを嘲笑うかのように犯行を成し遂げる一種のカリスマ。

「へいへーい! 今回はうちの秘密兵器を投入しまーす、どうなるか楽しみに待っといてくれ給えよベイベー」

「へー、秘密兵器。どんなのー?」

「いや黒ちゃんやけど」「ふぇ」

 刺激の少ない現代社会にて、怪盗という二次元間にしかいなさそうな存在がカリスマになるにはそこまで時間が掛からなかった。

 彼の犯行予告があった日は確実に報道陣が集まり、周囲には彼を一目見ようとした若者が集まるなどが恒例行事となりつつある。

「漣さん、お願いします」

「おっけー」

 警察の案内を受けマリンはトラックに乗り込む。トラックの中には大量の機材とビル内部の様子が写されたモニターがあった。そして当の秘密兵器フェアリーはというと。

「(〝好きに行動していい〟とは言われたものの……どうしようかな。というか怪盗が狙う秘宝って何……? それさえ分からない状況だと流石に危険だし、ここは秘宝らしきものを探す行動に……と)」

 ビルの構造を把握して、脳裏でマップを開いた――――刹那に。

「FOOOOOOOOOOOOOOOOOO!! いえええええええい!! 大★成★功」

「あっ……」「えっ……」

 ……………………。

「…………どうも」「…………あー……はい」

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