テイムした狼が凄かった

青緑

 私は平民の出身で王都から西に離れた村で生まれた。父は狩人で森で動物を狩り、母は薬師として村での怪我や病気の薬を作っていた。六歳になったある時、村に盗賊が入り込み、父と大人たちが追い払ってくれた。しかし追い払う際に怪我をして寝込み続けた為、私は母と共に看病と薬屋を続けたが、父は不自由になってしまった足で致命的にも動けなくなった。そして十一歳になった日に、両親を説得して王都での仕事と家への仕送りについて説得して見送ってくれた。


 …私は無力だった。だから貧民区で炊き出しを行い、週に数度は騎士として勤め続けた。それでも仕送りをし始めてから、数年が経ち、十九歳になった日に仕送りの為に実家へ帰ると、「昨日、逝ってしまったよ。もうどうしたら良いか…」と泣き叫ぶ母の姿があった。その奥では村長と村にある教会の司祭様が座り、その側に安らかに目を閉じて、肌が白く、痩せた父が横たわっていた。その日は父の通夜をして、村の教会で葬式を行った。葬儀は仕送りにしようと持って来ていた資金を半分消費して頼み込んだ。司祭様は要らないと押し切ろうとしていたが、司祭様に「母のことを頼む…」と伝えると、暗い顔で頷いてくれた。


 父の葬儀の後、母に別れを告げて王都へと向かった。この時が私の分岐点だったのだろうか。仕送りを村にいる母へ送りながら生活を送ることに決め、騎士団に入団しようとしたが、"女性"であるというだけの理由で入れなかったので、冒険者として金銭を稼ぎ、母には「騎士団に入って、騎士として頑張っている。」という手紙と共に仕送りをし続けた。冒険者ギルドでの登録時にジョブを調べる水晶に手を当てると、今まで騎士として剣や盾といった武具を使っていたのに、水晶に表れたのは"テイマー"だった。その表示を見た途端、冒険者ギルドで私の受付をしていたギルド員は眉間に皺を寄せて睨んできた。

「…あなたはテイマーのようです。テイマーとは主に魔物をテイム…調教して従魔にすることです。初めはスライム種やウルフ種で契約し、強い種族を従魔にしていく。といったジョブです。」

「そうなんですか。でもなんで嫌そうな顔をするんです?」

「それは…」

「テイマーはジョブの中で最弱だからだよ!そのジョブになった者は強い種族と契約しようとするが、残念なことにスライム種やウルフ種、強くてもグリフォンくらいだ。それ以上の種族は格上な上に、人間を下に見てるのが多いから、そこで止まっちまうんだ。」

「ちょっと!」

「事実だろう?その強い種族と契約したいって奴らは次々に痛い目に遭っているから、注意だけでもして減らさねえといけねえ。」

「でも契約って、どうすれば良いんです?」

「ああ、それはだな。対象の魔物に懐かれるか、服従させれば良いらしい。俺はテイマーじゃねえから聞いたことしか話せないがな。とにかく、だ。あとは対象の魔物に名前を与えれば、テイマーが死ぬ時まで契約は続くって訳だ。」

「じゃあ、もしですけど。死んだ人がアンデット化した場合は、どうなるんですか?」

「ああ、その場合は継続される、と聞いたことがある。死んでから数年経っていた場合はアンデット化した時に再度、隷属が発動して配下に入れられる。ただ、その場合はアンデット化した主人を守ろうとするから、アンデット化した奴を倒すのは難しくなるらしいがな。まあ、そういう訳だ。ギルド登録はできるが、テイマーの指導まではできないぞ?それでも良いってんなら…」

「登録します!」

「ああ、そうかい。せいぜい頑張んな、お嬢ちゃん。」

「はい、ありがとうございます!」

「では、こちらがギルド証です。以前から魔物を買い取っていたので、その記録をまとめて討伐数にしています。登録初期ですが、あなたは今日からC級冒険者です。これからも、よろしくお願いします、キシェリーヌさん!」

「はい、こちらこそ。」



 こうして私の冒険者生活が始まった。それからというもの、テイマーできる魔物を探す旅が始まった。始めこそ騙されもしたが、魔物を討伐しながら探し続けた。ある時、森の奥で薬草を採取していると、森の奥から弱々しい鳴き声が聞こえたため、森の危険区域である奥へと入っていった。そこには木陰で白銀の毛並みをしたウルフが腹から血を垂らして倒れており、その奥の茂みからオークの群れが現れた。

 しかし私のことは眼中にないかと言うように、その倒れているウルフに向かって手に持っていた棍棒を振り上げた。ウルフもオークを見るなり、口を開いたまま動けずにいた。だが私はウルフの首を腕に絡ませて引きずる状態で隣の木陰に隠した。ウルフはその行動に驚いていたが、すぐに私の身を案じてかブーツに足で叩いてくる。私は困ったようにウルフの頭を撫で、気持ち良いのか目を細めて喉を鳴らせてきた。しかし時は待ってくれないことを私は知っている。だからこそ、喉を鳴らしているウルフの足に痺れ毒の薬を塗り、ウルフの周囲をの魔道具を土に埋め込む。ウルフは塗られた足が動かないことに気付くと、皺を寄せた顔で私を見てきたが、私は笑ってウルフの首を撫でた。そして持っていたバックをウルフの手前に置き、腰に刺していた剣を手に持った。ウルフは唸りだしたが、私が立ち上がったのを見るや、驚いたような鳴き声で見上げてきた。

「クゥー?」

「ここで大人しくしているんだよ?良いね。」

「ウォン!ウォ…!?」

「静かにしておくんだよ、そのバックにある薬を飲んで休めば傷も治るはずだから。お前は生きるんだぞ!」

「クゥ?」

 私は吠えるウルフの口を強引に閉ざして、バックに入っているものについて説明すると、疑問を持ったような鳴き声が帰ってきたが、私は笑って魔物除けの魔道具の範囲外へ出た。ウルフは勘が良いのか、私に向かって吠えたがオークの群れは私目掛けて追ってきた。もう一度だけ振り返れば、動けない後ろ足を引きずって前足だけで立とうとしていた所で、ちょうどウルフの目と私の目が合ったような気がした。しかしオークの群れは待ってくれない。なので、もう一度ウルフに向かって笑うことを選んだ。オークの群れは追ってくる。


 オークの群れを引き連れて私は崖まで走った。崖に着けば、断崖絶壁の上に私が乗り、オークの群れは包囲するように崖の手前から徐々に近づいてきた。そしてオークの群れの一匹が足を踏み入れた途端、地面にヒビが走る。そのあとはオークの群れと落ちていくのを尻目に、私は崖を落ちていく。

 気付けばオークの群れの死骸が目に写り、吐き気を抑えながら周囲を見渡した。オークの群れは岩に当たって死滅しているが、私が目を覚ました場所は半分くらい水と砂が混ざったような場所に居たようだ。つまりは泥の中に。運が良かったのか、それとも奇跡が起きたのか、私には分からなかったが、生き残ったことに感謝して崖の上を目指して歩き続けた。歩き続けること、数日経った頃に崖の上に戻ってこれた。そこからウルフの元へ向かおうと、追われていた時に目印を付けていたので、それを追っていった。

 次々と魔物に襲われたが、腰の剣で薙ぎ払って討伐部位を剥ぎ取り、オークの中で無事だった胃袋を水で洗って乾かした袋代わりに入れていく。オークの胃袋は緊急時に役に立つほど頑丈なので、バックをウルフの側に置いてきた私には有り難かった。ウルフが居たであろう場所に戻ってくると、ウルフの姿は無かった。バックに入っていた薬は空になっていたので、私は安堵した。だが、ずっとまともに食べてなかった私には限界が近付いており、この気の緩みによって気絶したのであった。

 次に目を覚ました頃には、空は夕暮れに差しかかろうとしていた。だが私の腰あたりに温かいがあると思い、振り返れば会った時よりも少し大きいウルフが身体を私に預けてくれており、周りを見れば同じような白銀の毛並みをしたウルフが数匹、座っていた。そして正面には腹に血の痕を残して、足で薬が入っていたであろう小瓶を掴んでいた。そのあとは驚きの連続であった。

 このウルフたちは最初にオークの群れに狙われていたウルフの仲間であること、その最初に会ったウルフが族長であること、この白銀のウルフは族長以外は人語を話せるということ、ウルフたちの名前はヴェンリルというフェンリルの上位個体らしい。昔から神話級のフェンリルと言われてきたが、それは間違いらしい。ただ子孫が少ないために存続そんぞくが厳しいだけで、フェンリルとは特に変わらないと聞いた。

 翌朝に吠え声を聴いて起きてみると、ヴェンリルたちが魔物を引きずって戻ってくる最中だった。なんでも私のために買ってきたのだと教えてくれたが、病気を防ぐために生のままで食べないと聞かされた途端、一族一同が項垂れてしまった。そこで初歩的な火魔法で火を藁に着けて、そこに狩ってもらった魔物肉を木の棒に刺して焼いていく。項垂れていたヴェンリルたちも焼かれていく魔物肉の匂いに釣られて頭が上がっていく。焼き上がった魔物肉を汚れた所を磨いた剣で切り分けて、ヴェンリルたちの目の前に置いてみた。すると一同が目を見つめあったと思いきや、焼いた魔物肉を食べ始めた。


 それから、また数日だけでヴェンリル一族の胃袋を掴んでいた。ヴェンリルたちも自分では分かっていても、食べ物には勝てないとばかりに差し出すと口が止まらないでいた。しかしそんな生活にも終わりは来るもので、私のギルド証の更新が近付いていたのであった。それをヴェンリルに話した途端、重い空気となる。しかし次の瞬間ではヴェンリル一族から「族長と契約して欲しい…」と全員(族長を除く)から頭を下げられた。そこで族長の名を"ヴェル"と名付けると、互いの間に金色のオーラが漂い、オーラは互いの腕で止まると腕には青い花のような模様が刻まれた。擦っても取れず、掻いても消えず、洗っても落ちないことに不安に思っていると、ヴェンリル一同から契約成立の証だと伝えられたのであった。

 その翌日、私は冒険者ギルドのある王都へとヴェルと一緒に帰ってきた。因みに、"ヴェル"と名付けたら族長であったヴェルが人語を話せるようになったのであった。…王都に入るときはヴェルを見て門兵に驚かれたが、なんとか通してもらえた。冒険者ギルド前には人集りが出来ており、喧嘩が行われていたが、冒険者ギルドはギルド内で無ければ喧嘩騒動に手を出さず、遠目でギルドの扉からギルド員が覗いているのが見えた。私も喧嘩騒動を無視してギルドへ入った。ギルド内は喧嘩の方に出向いているようで、ほとんど人は居なかったので、ギルドの受付に向かっていった。

「こんにちは、キシェリーヌです。」

「あら、まだ生きてたのね。じゃあ依頼を…」

「ああ、素材を売りたいんだけれど?その時にギルド証の更新をお願いできるかしら?」

「えっ…!ええ、良いですよ?さあさあ、こちらに出してください。」

 私は促されるままにバックに詰めてきた様々な魔物の部位をテーブルに出した。始めこそニコニコと笑っていた受付嬢も、顔色が暗くなっていき、中盤では部位を出すのを大声で止められた。そして周りの冒険者がわらわら来ているのに対し、その受付嬢はギルドの二階にある応接間に連れてこられ、ギルドマスターを連れて来るとだけ言い残して去って行った。この時、未だにヴェルに気付いてなかった受付嬢であった。

 受付嬢が出て行ってから少し時間が過ぎて陽が傾き出した頃、応接間の扉が強く開かれた。入ってきたのは先程の受付嬢と、後ろから茶色っぽい長髪をして赤眼を持つ老けた男が入ってきたので、この男がギルドマスターなのだろうと思った。その男は王都に構える冒険者ギルドを統括しているギルドマスターであり、名をウルと言った。

「申し訳ない、キシェリーヌさん。」

「いえ、こちらもヴェルと遊んでいましたから。それに初めて通されたので、色々物色をしてました、すみません。」

「いえいえ構いませんよ、ここに置かれてるのは過去のコレクションなので。ところでヴェルとは誰のことでしょうか?」

「このですよ。私の初めての従魔です!」

「ほう、確かキシェリーヌさんはテイマーでしたね。おめでとうございます。ですが、ほうほう…」

「何か有りましたか、ギルドマスター?このウルフなんか構わずに、案件を済ませて頂きたいのですが?」

「………君?このウルフって言ったね、…このウルフが敵に回ったら、私でも防げるか分からないよ!」

「え?」

「このウルフはね、ヴェンリルといわれるフェンリルの上位種なんだよ。下手に刺激させて彼女に怪我をさせたら、怪我を負わせた方は大変…だろうね。キシェリーヌさん、このヴェル君に触っても良いかな?」

「え?良いですけど…」

「何か有りますか?もしかして僕を警戒されてるとか」

「いえ、ただですね。ヴェルはその…一応ヴェンリル一族の族長ですので、お手柔らかに…と。」

「はぁ?こんなのが一族の長な訳ないだろうが、舐めてんのか?私が直々に触ってやる!」

「あっ!こら、君…」

『なんだ、小娘。何か用か?」

「ひっ」

「こらこら、ヴェル。威嚇しないであげて、受付嬢の人も悪気はないと思うからさ?」

『はっ。』

「………。」

「これは驚いたねぇ、これは確かに僕の手に余るね。」

「それで、案件というのは素材の買い取りでしょうか?」

「うん、そうだよ。元々そのために来たんだしね…。ちょっと紅茶を入れて来てよ。」

「はっ…はい~」


「では、この素材を売りたいんですが。良いでしょうか?」

「………。う、うん。良いですよ。」

「ではギルド証を…」

「ああ。素材が多いからさ、昇格したことにするから。昇格試験は受かったことにさせていただくよ、流石に素材部位の種類が馬鹿にできないくらい有るからね。それとテイマーにとっては美味しい話があるんだけど、聞くかい?」

「…ええ、聞きましょう。私も従魔の数と高ランクの魔物を従えているのが、テイマーの実力の唯一の証だと聴きましたし。」

「じゃあ依頼というより、情報提供ってことで。あと2~3くらいテイムしたら、A級昇格試験を受けて貰うから、よろしくね。」

「はい。」


 それから王都から東に行った山への道のりを渡され、馬車にヴェルと乗りながら向かった。馬車にはC級冒険者チームが三つとの相乗りだったのだが、御者が準備する間の待たされている時、各チームから勧誘が起き、言い争いが続いた。それ自身のジョブがテイマーであることを知るなり、三人の内の一人は何処どこ吹く風と言わんばかりに空を眺め、二人のチームリーダーの男からはつばを吐かれてしまった。しかしそれをキッカケに従魔であるヴェルがキレて威圧することによって、私(キシェリーヌ)を除いた冒険者一行は御者が戻って来るまで続いた。冒険者一行にとっては数分が数時間経ったように思えたかもしれないが、私は御者に先を促したことで予定は少し遅れたが、陽が沈む前には王都の東門を抜けられたので良かったと御者に感謝された。


 出発した初日は道端に森が深いため、日の出まで馬車を進ませた。途中で魔物が出ることはあったが、全てをヴェルが倒して死体は森に捨ててくれたので安心だった。他の冒険者はヴェルの行動力に驚いて、口を開けたまま硬直していたが。因みに出発前に相談し合って、目的地に着くまでヴェルは話さないことに決めていたので、その約束を守りながら過ごしていた。

 目的地の山に着く前に、盗賊に出会い、チーム毎に競いだすという愚かな行為もあったが結局はヴェル一匹で血祭りに上げてしまい、困惑する御者を前に三チームから非難が上がり、何故か御者の人も共に謝ってくれた。後々、御者から話を聴くと王都のギルドマスターと知り合いで、山までの道中を危険や困りごとが有ったら、助けるように頼まれていたそうだ。御者の準備の内容が、ギルドマスターと話すためであったと聞いた時は驚いた。しかし、そうと知らない冒険者チーム一行はどう思ったのだろうかと心配になっていた。


 案の定、黒煙を吹く山の麓が近付いていると、三つの内の二つの冒険者チームは馬車を急に降りだした。これには御者も驚き、馬車を止めて後ろへと向かった。

「何をしとるか、麓まで少しという所で! ここら辺は守り神とされている魔物が居るから、下手に手を出したら…」

「大丈夫だって。」

「そうそう。私らもC級になったし、チームならB級冒険者に匹敵するんだから!」

「しかしだな、本当に危ないんだぞ?森には入らんでくれよ。」

「分かってるって!いつまでも子供じゃないんだからさ!」

「う~む…」

「それに、俺らのチームには一人や二人は精霊と契約してるから、何かあれば知らせてくれるさ。なぁ?」

『………』

「いつにも増して、無愛想だなぁ…。」

「精霊は従魔と違って、気分屋だからじゃよ。しかも、お主が契約しているのは風の精霊じゃろう?風の精霊は他の精霊より悪戯いたずら好きだと有名なのだぞ!」

「そんなの与太話だ、良いから行くぞ!」

「分からず屋が…。」

 夕暮れに山の麓にある村に私と一つの冒険者チームと御者は馬車を預けて、村の冒険者ギルドで報酬の分配を行い、御者の人は私と行動し、最後まで残ってくれた冒険者チームは次の依頼を受けると言って別れた。その日は、あの二つの冒険者チームは村に帰って来なかった。ただただ、夜中に森のある方角から叫び声が聞こえてくるが、他に問題は無かったので就寝した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

テイムした狼が凄かった 青緑 @1998-hirahira

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ