第160話 罰の結晶。2/4
だからこそ、遠慮も配慮も無いままに黒き闇深き球体の傍ら、別の黒き魔力の渦を巻かせるイミトの掌の上で鋭さを
「ま、チャンスが無いとまでは言わないさ。相手が俺かどうかは兎も角、愛も恋も欲しいなら基本的に自分で掴み取るもんだ……最初で最後の機会を楽しむといい」
暫くと槍の矛先が伸びれば、黒き渦を巻かせていた掌が溜まっていた
その矛先は、いつもの彼が創り用いるような真っ直ぐな直槍の尖端では無く——まるで突き刺した者の肉を突き刺した直後から抉り取っていこうという形で歪に曲がり、厚みも
尊厳への配慮なき殺意の形状。
されど、その形状を見ても女帝デュルマは眉の一つも動かさない。
「そうね……その時、貴方という人は存在しないのかもしれないけれどね。少しでも、ご教授願いたいものだわ」
差し伸べたままだった彼女の掌の上でもまた、イミトが用いる手品の意趣を返すが如く重さの無い塊が割れるような音が鳴り響き始め、パキパキと恐らくと彼女の武器が構築されていく。
——始まった。
と、そう言えるであろう。
「【
差し伸べられた掌の上で創り上げられた透き通った輝きを魅せる水晶体が、まるで
光速との仰々しい表現もまた的を射る水色の光が一瞬にして流線を瞳孔に刻むような散弾発射の壮絶な攻撃。
放出からの瞬く間も無い刹那の合間で地に突き刺さり、土煙を撒き散らし即座にその場に居た槍を持つ男の全てを覆い隠すに至って。
「この体を動かすのも久しぶり……それほどの、期待はして良いのよね」
けれど、その攻撃で致死へと誘う事など出来ないとの確信を以って女帝デュルマは何事も無かったかの様相で会話を続けていく。そして女帝デュルマの確信の通り、彼もそこに平然と佇み続けて同じく——
「——そこは保証できるかもな。直々に魔王様の器になると魔王様に認められた男だし、きっといいパパには成れるさ」
宙を舞った土煙が禍々しき漆黒の槍に振り払われて黒き闇の球体に吸い込まれる情景の中で言葉を重ねていくのだろう。
何一つと怪我はなく、何の一つも現状は未だ変わらない。
「なら交渉は成立よ。私が勝てば貴方の胸のソレを貰う——貴方が勝てば」
「アンタの希望を絶望に【
ただ、互いに結晶化した地底湖と広大な大空洞の地底の狭間を目掛けて踏み出した一歩は——あたかも天変地異の前兆に違いない。
未だ全てを飲み込み続けようと
地底湖の結晶化した水面を時折と削る槍の矛先、イミトの後を追うデュルマの結晶散弾の追撃、様々な金切り音が地底大空洞に騒々しく響き渡る。
——恐らくと宙に影を這わせて滑るイミトの動きは縦横無尽で変幻も自在。されど、高速を越える速度にも対応できる女帝デュルマにとって、容易く見切れる速度でもある。
「思慮深く、思考を
だが、彼女が容易くイミトを制せぬ要因は、彼自身が駆動させる体そのものの動きの凄みでは無く、他でもない敵対する相手の死角や意識する所を理解しようと強かに相手を見据えて慎重に情報を集め、如何に得た情報を着実に分析し己に利するかを瞬時に判断するに至る思考そのもの。
相手の裏を掻く情報戦こそが彼の最も得意とする所、最大の武器。
現に——密やかな視線でイミトを追う最中、両腕を交差させて左右それぞれに掌をかざした女帝デュルマは、そんなイミトがこれまでと同様に何か仕掛けて来ないとも限らないと再び光線にも似た結晶体の散弾を創り出して弾け放ち、警戒感を匂わせてイミトの動きに牽制の一手を送り続けている。
「へぇ……そういや気になるな。何で今更ザディウスと手を組んでたんだ? 遠い昔にフラれた間柄だろ?」
するとクルリと宙返りするように迂回し展開されるイミトの黒い影、女帝デュルマが放った水晶の散弾を防ぐ盾へと早変わり、金属が衝突し合う鮮烈な音響、一瞬とデュルマの視界から姿を隠すイミト。
そこからイミトの肢体を滑り動かす黒い影の裏側から膨れ上がった魔力は、チリチリと赤い火花を散らして——宙返りを終えて再びとデュルマの視界に現れた彼の掌には、迸り滾る分厚い炎が灯されていた。
『——狂おしく恋に焦がれろや【
「【
既に墨色の混じる轟々とした炎が解き放たれ、デュルマの視界の全てをまたしてもと言えぬ濃い
「組んでいた……というには、そこまでの話でしょう? でも初めてアレに出会った時からアレが私の前で嘘を吐いた事など無かったもの……」
笑顔なき状況の凄絶な
そして彼女は見つけるのだ。
「私の願いを叶えられると言った。遠い昔に断った願いを叶えられかもしれないと——そしてやはりそれは、偽りでは無さそう——だった‼」
デュルマの背後に回り込み、赤き炎の纏われた漆黒の
——何よりと、
「んふっ……、それに比べれば貴方の動きは嘘ばかり」
背後に回り込んできた紛れもない殺意を持つ槍を突き出したイミトが、彼が好んで用いる他者を嘲笑う偽物の幻影である事も看破し、槍を受け流した後に踊り回るように更に振り返って本物であろうイミトの動きにも勘づき対応する素振りも披露したのだ。
すれば、いや——或いはそう動きを読まれる事すらも想定していたのか。
「——昔の男と比べるならよ、
何一つと迷う事も無く横薙ぎに槍をデュルマに振るったイミトは、槍の一撃が受け止められて尚も直ぐ様に後方に跳び、足から生える黒い影に押し出される形でデュルマとの距離間合いを再びと取って手の平を彼女へと向ける。
「いつまでも悲劇の姫様気分で居るから、行き遅れてんじゃねぇのかって突き放したら非道だろうな‼【
そして後方に押し出された
「……アレを精製し終わるまで、あまり力は使えないのでしょう? それなのによくもまぁ——口が回る事ね」
短い時間で溜められた衝撃波の圧力は、デュルマの鎧の如き水晶の
「そうだな……子守歌が聞こえてきそうな頃合いまでには、終わらせたいと
——。
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