第128話 熱きに狂う。3/5
——。
そして、その形態こそ——まさしく完成形と述べても差し支えは無かった。
「クレア‼」
戦いは始まり、今や再びと森の頭上——改めて創り出した漆黒の槍を牽制の為に空中で跳ねるように交代しながら振り払い、彼は己より更に天空を舞う彼女に合図を叫ぶ。
すれば空から赤い双眸は一番星のように煌いて——
「血みどろで——活きが良いな、イミトよ‼ 【
太陽と見違える程に思えた球状の業炎が猛々しい勢いで燃え上がり、下方で骨の剣を二本と構え直していたザディウスへと向けて解き放たれる。
「その程度で——くっ‼」
「脇がガラ空きだぞ、ザディウス‼」
しかして交差するようなバツ字で振り抜かれる骨の剣の巻き起こす剣風、剣圧は業炎そのものは容易く処理する——けれど業炎の影に隠れ、或いは意識を逸らして潜みながら槍を薙ぎ払いの様相で振るうイミトの一撃は、あわや紙一重の防御が間に合った程度の対応で。
「疲れてんなら、椅子に座れよ【
魔王ザディウスを弾き飛ばし、それでもイミトは慢心する事も無く攻め手を止めない。
弾き飛んだザディウスの周囲に突如として沸き立つ巨大な黒き渦が幾つも。
更に——
「【デス・ナイトメア‼】」
炎を放つと共に天空から落下する鎧兜の傍らに骸骨騎士が生まれ出で——
『『【デス・ゾーン‼】』』
同時に彼らは周辺上空の一帯を黒き魔力で埋め尽くす。本来であれば、その技は相手の動きを魔力の圧力で抑えつけ、動きを制する技である。
だが——この時のソレは、些かと趣きが違っていた。
「っ——錯視に加え時間差か‼【
イミトとクレアに挟まれる位置にあったザディウスを到達点に——両端から二つの黒が空を染める間に、密やかに動くのは先んじてザディウスの周囲全方位で各々と距離を取って渦巻いていた黒の魔力。
そこから現れ、敵に目掛けて突き出される黒の柱が時の動きを遅らせるようなその技と重なり複雑な速度の変化を催しながら襲い来るのだ。
その技の痛さ、煩わしさをザディウスは良く知っている。
「はあああああ‼」
故に背中から皮と中身が反転するように黒い血潮を噴き出す事も厭わずに全霊で戦う時にのみ纏う骨の鎧で身を包んだのだろう——肉の付いた腕二本、骨身ではあるが武骨な腕が背中から四本——そしてそれらを用い、彼の王は策謀渦巻く全方位からの攻撃を一気呵成に退ける。
「捌き切るか、流石の手腕——」
敵ながら天晴れと美しき骸骨騎士が言葉を漏らす程の無駄なき攻防——癪に障りて。
「舐めるでないわ‼ 二度目の小細工など通用するものか‼」
周囲を染めていた黒の圧力すらも弾き飛ばし、背中から生える骨の腕を左右各々と合掌して彼の王は感情の如く魔力を滾らせた。
起こる事象はまさしく天災——
「炎、雷、水——同時に、無詠唱って奴か【
膨れ上がる火災、雷電、洪水の種が芽を出すような様相で森の頭上にて生まれ出でて、それらの一つでも放たれるのを阻止すべく、魔人イミトが掌を突き出して解き放つ黒き咆哮。
されど——
「練度が足らぬ‼ 児戯に等しき‼」
交差させられている骨の剣が制御していた洪水の放射にて黒の咆哮は打ち消し合い——残るは炎と雷撃。
されど——
「練度は要らねぇ——【反転放射】」
イミトの黒の咆哮の目的は、咆哮そのものでザディウスの技を止める事では無かった。黒砲を放った直後、再びと白に染まるイミトは黒砲を放ったその掌から凝縮された光なき白の閃光を放射する。
「ぐっ——魔力を消し飛ば、その力も自在に使うか‼」
すれば光なき白が通り抜けた場所に存在していた、あらゆる魔素は押し退けられて——ザディウスは目を眩ませられた様子で残していた炎と雷の魔法を失うに至る。
「自在たぁ——言えねぇよ、ぐふっ‼」
やや優勢——だが、代償もある。白に染まる状態で放射する圧力、斥力によって嘔吐にも似た血反吐を溢し、空間を切り裂く白の放射を放った腕から血を噴き出させながら些かとよろめいて空から崩れ落ちて。
「なれば接近——その無様な肉体が何処まで持つか、試してやろうぞ‼」
すれば多少なりとも集まっていた魔力が吹き飛ばされようと、力の反動を受けたイミトへと追い討ちを掛ける判断を行うザディウスである。無論、クレアを抱えていた骸骨騎士が鎧兜を空中で放り投げ、イミトに受け取らせようとの企みを実行させた事も解っているうえでの判断であった。
「【
「巨人の腕——それがその技の本来の姿か‼」
一足早くイミトの腕の中に舞い戻るクレアの鎧兜、伝う魔力で再びと黒に戻るイミトの腕は魔力の補充を行ったのも束の間——直ぐに空へと軽く放られて両手の空いたイミトは向かい来るザディウスの進路を塞ぐように合掌し、左右に浮かべた黒き魔力の渦から巨大な鎧の腕を創り出す。
「あ゛あ——クレア‼ 後どのくらい行ける‼」
「貴様が死ぬまでよりは持つであろうさ‼」
「オーライ、時間がねぇな。決めるぞ‼」
当然、巨大な鎧の腕を勢いよく合掌させたところで魔王を討ち果たせるとは思っていない。彼らは、特に喉に絡んだ胆を弾かせるように鳴らして声通りを調整した彼は落下する空中の只中で端的に風に負けぬ会話の巨声を交わし、今後の動きを示し合わせる。
その時分——ザディウスの骨の剣が道を塞ぐ巨大な鎧の腕を弾き飛ばして再び姿を現した。
「やれるものならば、やってみせ——兜に鎖だと⁉ いつの間に——」
彼が真っ先に狙ったのはイミトの魔力を補充する役割と遠方からの補助を務めるクレア。骸骨騎士の手からも離れ、鎧兜ひとつで空を落ちていく彼女を狙うのは定石とも言えるかもしれない。
故に——その定石を彼が加味しない訳もなく、
「これでも俺は、人を煽る玉ころがしには定評があってな」
クレアの身からイミトに流れる乱流の如き黒き魔素の中に紛れて逆流するイミトの魔力——鎖に繋がるのはイミトが持っていた漆黒の槍。繋がる鎖の先の物を釣り竿の如く引き寄せて、
「誰が玉よ、この阿呆が——【
「くっ——小癪な‼」
目論み、間合いを狂わされ僅かに剣の向かう先を迷わせたザディウスに対し、鎖に引っ張られながら宙を舞うクレアは不満を漏らしながらもその怒りの矛先を滾らせる雷電に向けて牽制がてらに魔王を焼き焦がせようとする。
二人で一人の半人半魔——
「もういっちょ【
「【デス・ソルジャーズ‼】」
巧みに息を合わせ、阿吽の如く猛攻に転ず——強烈な雷撃波がけたたましく空に響く状況で、黒い渦が幾つもと暗雲の種のように撒かれたと思えば拳を握る鎧の腕が創り出されて飛び交って、更にクレアも同じく黒い渦を幾つも創り上げて騎士よりも簡素な骸骨兵士をザディウス目掛けて襲わせる。
「うおりゃああ‼」
更に更にと幾つも多様な角度性質で襲い来る攻撃の対処を六本腕で行い始めたザディウスへとイミト自身も槍を振りかぶって参戦し、ザディウスの額を目掛けて全霊で振り下ろすのだ。
「くっ——イミト‼」
——交錯。あらゆる攻撃を一蹴したザディウスではあったが、怒涛の連撃の終幕のその一撃だけは、そう容易く処すことが出来なかったようだ。
「ザディウス‼ どっちが強いか答えて見ろ‼」
「独りの俺と——今の俺達と‼」
意気を吹き返したような魔力の込められた豪撃——交差して防いだイミトの槍から伝う震動は重く、痺れるように伝わってきている。
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